有馬温泉の中でも屈指の濃さを誇る天神泉源を、湧出地の至近で堪能できるお宿「上大坊」にて日帰り入浴してまいりました。坂道が続く温泉街のメインストリートに面しており、黒い板壁にダウンライトが施されている、モダン和風のシックな佇まいです。
シックな外観とは打って変わって、玄関まわりはオフホワイトとブラウンの2色を基調にした現代風の明るくインテリアで、無駄なものが無くスッキリしています。帳場にて声を掛けて日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださり、貴重品は帳場に預けてほしいとのことでしたので、財布などをお宿の方に手渡し、私は玄関から伸びる階段で上階へと向かいました。
階段を上がってから案内表示に従ってどんどん奥へと進んでゆきます。途中で小ホールを通過するのですが、そこには昭和の温泉旅館の必需品である卓球台が設置されていました。卓球台のみならず、当地の観光ポスターが掲示されている他、壁には振り子時計が掛けられていたり、花瓶にお花が活けられていたりと、室内はいろんなアイテムで彩られていました。
クネクネと曲がりながら進んだ通路のドン詰まりに浴室入口が構えていました。入口手前にはちょっとした休憩スペースがあり、入浴の際には欠かせない水分補給のためのウォーターサーバが用意されています。
脱衣室はシンプルで、棚に籠が収められている他に洗面台が2台設置されているばかりですが、室内は隅々まで清掃が行き届いているため実に心地よく使うことができ、お宿の品の良さが伝わってきました。またちょっと大きめのスタンド式扇風機が用意されており、後述する濃厚で熱いお湯に入って火照った後は、この扇風機のおかげで十分にクールダウンすることができました。非常にパンチ力の強いお湯ですので、湯上がりは扇風機に当たらないとなかなか汗が引かず、この扇風機には本当に助けられました。脱衣室の窓は天神様へとつながる路地に面しており、そこを行き交う観光客の声がしばしば耳に入ってきました。
脱衣室の張り紙に記された「茶色の湯にタオルをつけないようお願いします」という文言は、こちらのお湯の特徴を端的に言い表しています。「お願いします」というか、タオルをお湯につけて茶色に染まっちゃっても知らないよ、と読み取った方が適切ですね。脱衣室からコンクリの無機的な空間に入って、階段を下りてゆきます。
シックな外観や綺麗な館内とは一線を画す、地味で古く鄙びた雰囲気の浴室には、源泉浴槽と真湯の2浴槽が設けられており、階段の下付近には洗い場が配置されて、シャワー付き混合水栓が計3基取り付けられています。
真湯浴槽は大体3人サイズで、細い配管から何の変哲も無いごく普通のお湯が注がれています。お隣の濃厚で熱い源泉に入った後に、この真湯に浸かると、まっさらな白湯の有難さを実感しました。
源泉浴槽はとにかく凄い。見るだけで相当な濃厚湯であることは一目瞭然であり、かけ湯すべく桶で湯船のお湯を汲んでみたら、まるで赤銅色のペンキを溶かしているかのようであり、透明度はほとんどゼロでした。また浴槽周りは長年の温泉成分付着により赤黒く染まっており、とりわけ浴槽は元の色が全くわからないほどの濃い赤茶色にコーティングされていました。
なお、湯船へ加水することは可能ですが、私の訪問時点で非加水のまま温度を測ってみますと、46.0℃というかなり熱めの湯加減でした。熱い湯船に慣れていない方でしたら、つま先すらも入れないかも。
析出がコテコテにこびりついている湯口からチョロチョロと出てくるお湯の温度は、なんと73.1℃という高温であり、この熱さが室内に湯気と熱気をこもらせていたのでしょう。この篦棒にお湯がそのまま浴槽に落とされているわけであり、それゆえ湯船の温度も熱いのですが、さすがに全量を湯船に注いだら熱すぎて入れなくなっちゃうため、湯口には竹を半分に割った樋が掛けられるようになっており、これでお湯を浴槽外へ逃すことができます。また樋の下部にはいくつかの穴が開いており、それぞれに栓がぶら下がっていますので、穴に栓をしたり、あるいは栓を抜いたりすることによって、源泉投入量を調整することもできます。原始的な仕組みながら、極力加水しないで湯温が調整できるこの樋からは、お湯を尊重するお宿の姿勢が伝わってきます。
浴槽傍にはかき混ぜ棒も用意されており、これでしっかり湯もみすると、加水しないでもかなり入浴しやすくなります。そしてかき混ぜることによって、浴槽の底からモヤモヤとしたものが舞い上がり、余計に濁りが濃くなりました。こうした竹の樋や湯もみなどによって、一滴の水道水を混ぜること無く、私は源泉のままの状態で湯船に入ることができました。
お湯を口にしてみますと強烈にしょっぱく、あまりに塩辛いために口腔粘膜に不快感が走りました。それもそのはず海水よりも塩分濃度が高いんですから、日本で生活している限り、自然界でこれほどしょっぱい液体と接する機会は、あまり無いかと思います。また、分析表を見る限りでは鉄分など諸々の成分も相当濃いはずなのですが、あまりに塩分が濃すぎてしょっぱいため、他の味覚がほとんどわかりません。
この塩分濃度のためか湯船に入ると浮力が働き、体が軽くなったような感覚が得られました。また皮膚にもピリピリとした刺激が軽く走ります。湯中で肌を擦るとスベスベ浴感とギシギシ浴感がせめぎ合っているのですが、熱さと濃さのためにそんな浴感なんてどうでも良くなり、何分も湯船に浸かっていられません。かなりヘビー級で凶暴なお湯であります。湯上がりには強烈に火照ってヘロヘロになり、まるで夏休みの小学生のように脱衣室の扇風機に抱きついて、強風のスイッチを押しながら、モーターと羽根によって生み出される人工的な風が体の火照りを冷ましてくれることを、ひたすら待ったのでした。さすが天下の有馬、温泉界の横綱。お湯のパワーが半端じゃありません。そんじょそこらの食塩泉が初っ切り相撲に思えてきます。
●天神泉源
湯上がりに「上大坊」の浴室へ引かれている天神泉源を見学しに行きました。お宿の傍の路地には上画像のような矢印が示されており、これに従って路地を歩いてゆくと、先程まで入浴していた浴室の前を通り過ぎるのですが、浴室外側の側溝は、排湯によってオレンジ色に染まっていました。
約100メートルほどで天神様に到着です。この小さな天神様は、京都の北野天満宮から勧請したんだとか。鳥居前の石段は溢れ出るお湯によって赤く染まっています。
境内の鳥居と本殿の中間にはタジン鍋のような形状の源泉があり、湯気抜き煙突のてっぺんから朦々と湯煙を上げていました。有馬の代表的な泉源であり、深さ206mから100℃近い金泉が沸き上がっております。この源泉から最も近い位置で入浴できる施設が「上大坊」なんだそうです。ということは、金泉の代表的な泉源のお湯を、最もフレッシュな状態で入浴できたわけか…。そう考えると、この一箇所だけで有馬を制覇したような錯覚に陥ってしまいました。
天神泉源
含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉 97.0℃ pH6.5 80L/min(掘削自噴) 溶存物質44.79g/kg 成分総計45.02g/kg
Na+:13040mg(76.08mval%), NH4+:6.5mg, Mg++:20.0mg, Ca++:2114mg(14.15mval%), Al+++:0.1mg, Mn++:18.9mg, Fe++:79.0mg(0.38mval%),
Cl-:26200mg(99.41mval%), Br-:52.7mg, I-:4.3mg, HCO3-:206.8mg(0.48mval%),
H2SiO3:136.9mg, HBO2:274.5mg, CO2:222.7mg,
神戸電鉄・有馬温泉駅より徒歩8分(500m)
兵庫県神戸市北区有馬町1175 地図
078-904-0531
ホームページ
日帰り入浴15:00~18:00(利用不可な場合もあるようです)
1000円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は帳場預かり
私の好み:★★★
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