尼崎市 元湯・天然温泉 築地戎湯

兵庫県

 
関西は温泉資源に乏しいとよく言われますが、阪神大震災を契機に銭湯業者によってボーリングが行われると、阪神間の各所で次々に温泉が湧出し、しかもその多くが湯量豊富で泉質も良好であったため、各銭湯では浴室に温泉槽を設け、しかも掛け流しで供用する施設も登場するようになりました。今では温泉ファンも絶賛する一大温泉郷の様相を呈しています。

そこで今回から数回連続で、阪神間を移動しながら、掛け流し浴槽がある温泉ファンから評価の高い銭湯を巡ってみます。今回取り上げるのは尼崎の「築地戎湯」です。尼崎の海側に位置する築地地区は、阪神大震災後に徹底的な区画整理事業が実施されたことにより、整然とした明るい街並みが広がっており、実際に歩いてみて尼崎の海側エリアに対して抱いてしまうネガティブな先入観は、ここで見事に覆されました(※)。震災復興と区画整理にご尽力なさった地元の方々の汗と涙が、そのような街並みを生んだのでしょう。この戎湯は以前から当地で銭湯として営んできたんだそうですが、区画整理の際に温泉掘鑿に成功し、2002年にリニューアルオープンしたんだそうです。このため、庶民の街の銭湯らしくない和風モダンな雰囲気の外観を目にした時には、本当にここで良いのか、一瞬戸惑ってしまいました。
(※)個人的な話で恐縮ですが、私は1985年の日本シリーズ優勝以来、学生時代はトラキチ(アンチ巨人の阪神ファン)を貫いてきた経歴があり(今は違いますが…)、ペナントレース期間中に阪神甲子園球場へ何度も足を運んでおりまして、梅田から甲子園までの阪神沿線、とりわけ尼崎周辺の、「じゃりン子チエ」的な世界に春団治風情のオッチャンが跋扈している独特な街並みや空気感に、東京圏の山の手で生まれ育った学生時代の私は虞れ戸惑い、地元にお住まいの方には大変失礼ながら、このエリアに対して「近寄りがたい場所」という消極的な先入観を抱いていました…。

 
玄関前には源泉をチョロチョロと落とすオブジェが置かれており、手にとって匂いを嗅いでみると、ミシン油のような香りがふわっと漂ってきました。しかも滑らかな肌触りも得られるではありませんか。早くもお湯に対する期待に胸が高鳴ります。
下足箱は鍵がかけられるようになっており、この鍵は退館時まで自分で管理します。下足箱の前には浴室の男女入れ替えが案内されており、この日の男湯は「左」となっていました。左右の浴室には「天然温泉浴槽」「天然温泉露天風呂」「エステバス」が共通して設けられいる他、左側は「高温サウナ」「かたたたき」「ローリングバス」、右側には「塩サウナ」「リラックスバス」といったように、それぞれに差異があるようです。

 
下足場に設置されているショーケースには、温泉分析表の他、温泉掘鑿工事で用いられたと思しきボーリングピットや、あおの穴から取り出されたコアが展示されていました。以前と比べればボーリング工事の費用はかなり下がっていると言いますが、それでも相当な金額を要するはずですから、温泉を掘り当てた際の関係者の喜びは計り知れないものがあったでしょう。

カウンター式の番台があるホールはフローリングで明るく綺麗です。しかも軽食コーナーが併設されており、品書きにはうどんやラーメンの他、ビールやチューハイなどアルコール類も用意されていました。銭湯なのにアルコールを置くという発想は、関東ではなかなかお目にかかれませんね。あくまで個人的な先入観の話ですが、関西って庶民的な街並みのあちこちに煤けた赤提灯がぶら下がっている印象があり(東京で言えば錦糸町・蒲田・京成立石あたりと同じイメージ)、オッサン達の血液の殆どは甲類焼酎かカップ酒で構成されているような気がします。


脱衣室もオフホワイトやブラウン系の色調でまとめられた落ち着きのあるインテリアコーディネートとなっており、室内空間には余裕があるのでストレス無く利用できる上、小窓の向こうには坪庭が施されていてちょっと小洒落ています。なお、衣類や荷物を収める棚は全て無料ロッカーとなっており(その上なぜか監視カメラまで設置)、その側面の張り紙には、この温泉が加水加温循環の無い掛け流しである旨がアピールされていました。


下足箱前の案内にあったように、浴室には多様な浴槽が設けられていますが、内湯で温泉を使っているのは窓側の一槽のみであり、上画像で黄色いお湯が張られている浴槽です。

 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が計18基取り付けられています。洗い場と浴槽がセパレートされているので、シャワーの飛沫やシャンプーの泡が浴槽に混入する心配はありません。なおシャワーから吐出されるお湯は真湯です。これらのシャワーの他、浴室入口付近には上がり湯用の小さな槽も設置されています。

 
こちらは真湯が張られた浴槽でして、左右両浴室に共通の「エステバス」と称する装置の他、左側浴室のみにある「かたたたき」や「ローリングバス」が一角にまとめられていました。いずれも水圧や気泡で体を刺激するものですから、どうしても騒々しいのですが、高度経済成長期に日本を支えてガッチガチに凝り固まってしまったオッサン達の体には、大きな音や強い刺激が加わらないとコリがほぐれないのかもしれません。

 
さて内湯の温泉槽に入ってみましょう。長方形の手前に半円をくっつけたような形状をしている浴槽は大凡7~8人サイズで、一般的な浴槽よりも深い造りになっています(深さ約1メートル)。源泉は円筒状の投入口よりドバドバ勢い良く注がれており、窓側の縁より溢湯して排水口へと流下しています。投入口から落とされる際の勢いが強いためか、湯口周りの底面タイルは温泉成分によって茶色く染まっていました。また、この円筒状湯口の他、槽内の小さな目皿からもお湯が投入されており、これによって槽内の温度を均衡に保っていました。

 
銭湯なのに露天風呂に入れるんですから素晴らしいじゃありませんか。一帯は住宅地ですので、周りは竹垣調のエクステリアによって囲われていますが、日本庭園風な誂えのこの露天ゾーンには、10人近く同時に入れそうな容量のある岩風呂が据えられている他、空間そのものにゆとりが確保されているため、中庭的な場所ながら閉塞感は意外なほど軽減されていました。また部分的に屋根掛けされているので、多少の雨なら凌げそうです。
塀に設置されたデジタル温度計は41.5℃を表示していました。ぬるめのお湯が好きな私にとっては最適の湯加減です。

 

一番奥の大きな岩が並べられた一角から、小さな滝のようにお湯が落とされている他、内湯と同様に底の目皿からも供給されており、以て槽内の温度の均衡を図っているようでした。そして浴槽のお湯は湯尻よりドバドバと惜しげも無く捨てられていました。立派な放流式の湯使いです。

 
お湯は薄い山吹色の透明で、湯中では気泡が沢山舞っており、湯船に浸かると肌にしっかり付着します。お湯を口にしてみると、重曹系のほろ苦さの他に非鉄系の新鮮金気味が感じられ、金気臭やミシン油のような匂い、そしてモール泉に似て非なる匂いや堆肥のような匂いが香ってきました。私が得意とする東日本エリアの温泉で例えるならば、青森県の東北町や三沢界隈、あるいは山梨県甲府盆地のお湯に似た感覚と言えそうです。泉質名こそ単純温泉ですが、決して単純ではなく、重曹泉的な滑らかさと爽快感があって、お湯から伝わる味わいや奥行きも深い、実に面白いお湯でした。しかもこんな良泉が住宅地の真ん中で掛け流されている上、銭湯料金で利用できるのですから驚きです。

単純温泉 42.7℃ pH8.1 430L/min(動力揚湯) 溶存物質0.4343g/kg 成分総計0.434g/kg
Na+:99.7mg(93.57mval%), Ca++3.4mg(3.66mval%),
Cl-:10.7mg(6.54mval%), HCO3-:261mg(92.65mval%),
加温加水循環なし(消毒に関しては不明)

阪神尼崎駅より徒歩10分強(1.0km)
兵庫県尼崎市築地2-2-20  地図
06-6481-5019

平日10:00~24:00、土日祝7:00~24:00、第2・4木曜定休
400円(2014年4月~)(サウナ利用の場合は別途料金必要)
ロッカー(無料)・ドライヤー(有料30円/3分)あり、石鹸など番台で販売

私の好み:★★★

コメント

  1. 齊藤@群馬 より:

    こんにちは!
    台湾で地震がありましたね。 今回の訪台は如何でしたか? こちらの戎湯は1年半前に訪れたんですね!関西は、実は銭湯で良い泉質のところが多いですね。 成分表の写真を撮ってありましたら、配信をお願いします。

  2. K-I より:

    Unknown
    齊藤@群馬さん、こんばんは。
    既に各メディアが伝えていますが、今回の台湾の地震では、どうやら欠陥建築が原因の人災としての側面が大きいようですね。先日は大変珍しい積雪がありましたし、春節を目前にした台湾では、椿事が相次いでしまったようですね。私が訪れた時も、常夏の地とは思えないほど、大変冷え込んでいました。
    先ほど分析書の画像をメールで送信させていただきましたのでご確認ください。

  3. さっちん より:

    情報ありがとうございました‼︎
    この情報がなかったら、おそらく一生近づくこともなかったエリアでした。なんとか意を決して出掛けてみると!なんてことでしょう‼︎ 400円であれ程のエンターテイメントがあったでしょうか⁈ コンパクトではありましたが、湯質が良くて、電気風呂がキツ目で肩凝り対策のジェットバスが深目で… しかも露天まで!サウナは別料金220円で今回は試しませんでしたが、高温好みにも低温好みにも対応した素晴らしい空間でした。自動販売機もありましたが、フロント空間にあったラーメンが懐かしい寿がきやの様で200円のマンゴーフロートも最高でした。これからは先入観を捨てて色んな銭湯を体験してみたいと思います!

  4. K-I より:

    Unknown
    さっちんさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。銭湯価格でありながら、バラエティに富む浴槽やかけ流しの温泉に入れるのですから、実に素晴らしい施設ですよね。おっしゃるように、お湯の質も良いので、私も感激してしまいました。阪神間にはこちらのようにお湯の質が良い銭湯が多いので、ぜひ他の施設にも足を運んでみてください。

  5. 日帰り温泉のプロ より:

    絶対お勧め、毎週通っています
    世界中の色んな温泉に入っていますが、こんなにみじかな所に格安の日帰り温泉があります。源泉掛け流しの温泉がたった400円で楽しめます。土日は朝7時から営業していて、お勧めは土曜の朝8時頃です。比較的空いていてゆっくりできます。

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