毎日テレビに齧りついていた首都圏育ち且つ団塊ジュニア世代の私にとって、「聚楽」と言えばマリリン・モンローのそっくりさんが「聚楽よーん」と艶めかしく言い放つテレビCMが強く記憶に残っており、また昭和の面影を色濃く残し、何でもありのごった煮状態だった上野の・西郷会館「聚楽台」の印象もそこに合わさっているため、子供の頃の私にとって「聚楽」というところは、オジサンたちが宴会しながらエロを楽しむ旅館、あるいは前時代的で自分たちの世代のニーズとは合わないホテルおよび飲食店だと誤解していました。
子供の頃に出来上がった固定概念というものはなかなか崩し難いもので、私が温泉巡りを始めた約10年前も、万座温泉に「ホテル聚楽」があるのは分かっていたものの、飯坂や伊東にある同系のホテルと同じく、どうせ温泉はあくまで刺身のツマみたいな扱いで、団体客のオジサンたちが酔っ払って鼻の下を伸ばすための旅館かとばかり思い込んでいました。しかし、いざ日帰り入浴のために立ち寄ってみると、確かに館内は団体客向けの昭和な雰囲気も漂わせていましたが、浴室で出会えた濃厚で質の高い白濁湯と壮大な景色を望める露天風呂に感動し、「聚楽」に対する先入観が180度覆ったのでした。そこで、昨年夏の万座温泉訪問時にも、あの時の感動を再び味わいたくなり、数年ぶりに再訪することにしました。
この日も日帰り入浴の利用を快く受け付けてくれました。高原リゾートらしい瀟洒な趣きのロビーに一歩立ち入るだけでも、「聚楽よーん」のイメージはたちどころに雲散霧消。吹き抜けの大きな窓から得られる眺めも抜群。
階段で1フロア下ります。いつの間にやらファミリーや個人客向けを意識したリニューアルが実施されたらしく、以前は別用途だったと思しき部屋を改造して利用客が充実して滞在できるにした諸々の施設が、浴室へ向かう通路の左右に並んでいました。
上画像のキッズコーナーは、まさにファミリー層をターゲットにした施設であり、小さい子供を一緒に連れていける温泉旅館は、親子連れにはありがたい存在であります。キッズコーナーの前に掲示されているのは「本日の星が見える確率」。あいにくこの日は30%でしたが、空気が澄んで標高が高い万座では、晴れていれば満天の星空が仰げるんでしょうね。
湯上がりの休憩処はとっても広々。マッサージチェアが数台設置されている他、雑誌なども置かれ、ラウンジとしてなかなかの充実をみせています。上手い具合に用途転用したもんですね。大自然コーナーと称する一角では、万座の山野草や動物を映した写真パネルや各種資料など、国立公園のビジターセンターみたいな解説コーナーとなっていました。
ホテルは4つほどの棟に分かれており、ロビーと浴室は別の棟に位置しているため、渡り廊下を歩いて棟を移ってゆくのですが、その渡り廊下の一部には3葉のセピア色をした古い写真が展示されていました。明らかに万座とは無関係の景色なのですが、キャプションによれば、いずれも神田須田町食堂であり、1葉は大正13年、残り2葉は関東大震災区画整理後の昭和4年に撮影されたものなんだとか。神田須田町食堂は聚楽の前身ですね。街並みを俯瞰した風景に写る通りの形状、そして右隅に見切れている都電(当時は東京市電)の姿から推測すると、靖国通りの須田町交差点を淡路町側から東に向かって撮影したものかな。
浴場名「雲海の湯」を表示した案内板と電照行灯。ここだけ妙に昭和なセンスですが、今は亡き西郷会館の遺伝子は、この電照に継承されている気がします。
長い廊下を歩いて浴室入口へと辿り着きました。2つある浴室は時間帯によって男女を入れ替えており、日帰り入浴が可能な時間帯は奥側が男湯で手前側が女湯。入浴前後に水分補給できるよう、「白根山麓の天然水」のサービスが提供されていました。
綺麗でゆとりがある脱衣室。とっても気持ち良く着替えられます。こちらのホテルは各室とも余裕のある造りなんですね。硫化水素中毒を防ぐために換気扇が複数台回っており、ちょっと騒々しいかもしれませんが、こればかりは致し方ありません。
浴室の洗い場にはシャンプー類が備え付けてありますから、タオル一枚を手にすれば入浴できるわけですが、脱衣室には「シャンプーバイキング」と称して、お好みのシャンプーも使えるサービスもあり、この時にはLAXやTSUBAKI等が用意されていました。ボトルごと持って行くのではなく、小さなカップに使う量だけ注ぐんですね。
大きなガラス窓から高原の美しい景色が一眺できる、開放的で明るい浴室。足元は石板貼りですが、浴槽の縁や洗い場上の壁などには木材が用いられ、柔らかくぬくもりのある雰囲気が演出されています。洗い場に並んでいるシャワー付きカランは10基。
濃厚な硫黄で真っ黄色に染まった木樋の湯口から、熱いお湯が注がれています。温度が高いためか投入量はやや絞り気味でした。湯口の左側では大型の換気扇が2台連なって、お客さんの硫化水素中毒を防ぐべく、グァングァンとフル回転でお仕事していました。目測で3m×6mという大きな浴槽には、やや灰色を帯びた白濁のお湯が張られています。
内湯からは万座の景勝である「空吹」が望め、後述する露天に出なくとも、室内から当地の雄大な自然が一望できました。窓外の地面から上がっている白いものは、「空吹」の盛んな噴気活動によって発生している湯気です。
大自然の緑と白濁湯のコントラストが美しい露天風呂。標高が高く且つ火山活動が活発な場所であるため、目前から「空吹」にかけての斜面は広大なクマザサ原となっていたり、その向こうの山襞には針葉樹林が広がっていたりと、露天風呂の周りにはいかにも火山の高地らしい植生が見られます。また、露天風呂まわりのクマザサは綺麗に刈り込まれているために視野が広く確保されており、壮大な景観には人工物が殆ど見られないので、この露天風呂にいると、あたかも自分が白根山の大自然と一体になっているような感覚が味わえるかと思います。
白い湯気を朦々と上げる「空吹」を一望する、とても素晴らしいロケーション。荒涼とした無彩色の噴気帯と、周囲に広がる青々とした植物との対比が美しく、つい時間を忘れて眺め続けてしまいます。
ここを訪れたのは東京が連日猛暑に見舞われていた8月であり、下界では30℃を軽々と超えていたのですが、冷涼な高地である万座は20℃であり、小雨も降っていたので、涼しさを通り越して寧ろ肌寒いほどでした。
露天風呂の浴槽はおおよそ3.5m四方の木造。浴槽まわりはウッドデッキになっています。湯船のお湯はやや緑色を帯びた明るめの灰白色に強く濁っていました。さすが日本一の硫黄含有量と言われている奥万座のお湯だけあり、イオウの匂いは大変強く、一度湯船に浸かると、皮膚のシワの一本一本まで深く温泉が沁みこんで、長い時間にわたって匂いがしっかり残ります。お湯を口に含むと、マイルドな酸味と共に、結構強い苦味が感じられ、それらの味覚から数秒遅れて、唇や口腔内の粘膜に痺れが伝わってきます。しかも真水で口を濯がないといられなくなるほどその痺れは強く、且つしぶとく残ります。まるで粉を溶かしたかのようなトロトロなお湯からは、パウダリーな浴感と引っかかる浴感が全身を覆い、硫黄の濃さが肌感覚でも伝わってきます。
なお、上述したように、日中の男湯は2つある浴室の奥側があてがわれるのですが、この奥側の浴室には露天風呂がひとつしか無く、一方で日中に女湯となる手前側浴室は露天浴槽が2つありますから、日帰り入浴のみの利用ですと女性の方がちょっと有利かもしれません。日本の温泉旅館では、伝統的に男湯を広く充実させる男尊女卑の造りを採用してきたわけですが、マーケティング的には女性のハートを掴むことが重要ですし、旧来の男女観を逆転させる意欲的な発想も面白いので、私個人としては男湯に浴槽が一つしか無くても、むしろ清々しい気分だったりします。どうしても両方楽しみたいのであれば、宿泊すれば良いんですね。
団体客向けのレジャー志向から、ファミリー客や個人客を意識したネイチャー志向へと変貌を遂げている万座の「聚楽」。方向性の変化により、より周囲の自然環境との親和性が高まった気がします。そして、以前も今も、白濁湯と眺望の良さは圧巻です。遊離硫化水素258mgという数字は伊達じゃありません。
法性の湯
単純硫黄温泉(硫化水素型) 43.7℃ pH3.2 自然湧出 溶存物質0.72g/kg 成分総計1.16g/kg
H+:0.63mg(6.10mval%), Na+:29.7mg(12.55mval%), Mg++:18.6mg(14.86mval%), Ca++:114mg(55.30mval%), Al+++:8.39mg(90.8mval%), Fe++:1.71mg,
Cl-:64.5mg(17.78mval%), SO4–:396mg(80.50mval%), HSO4-:8.4mg,
H2SiO3:72.3mg, CO2:176mg, H2S:258mg,
完全掛け流し
群馬県吾妻郡嬬恋村干俣2401 地図
0279-97-3535
ホームページ
日帰り入浴12:30~16:00
1000円
ロッカー(貴重品用)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★
コメント
Unknown
お疲れ様です^^。
もうすぐGWでありますね!楽しみです。
しかし、、今年のGWは聚楽に行く事が出来ないのです。
なかなか一人旅の枠が開放されないため、
聚楽に電話してみた所・・・
「今年はGWの繋がりが良く、集客が見込めるので
一人旅の受け入れは無しに決まりました」
との事でした。それならそれで宿の方針なので、
「了解しました。今年は諦めます」
と、別の宿を取りましたが寂しい限りです(TT)
もう何年も、GWは聚楽、と決めていたんですが、、、。
来年に期待します。
K-1殿は、今年のGWはどちらへ^^?
Unknown
ぬる湯好きさん、こんばんは。
連休の一人客受け入れ無しですか…。それは残念です。でも、たしかに今年はカレンダーの並びが良いですから、宿としてはそれなりの集客ボリュームを期待しちゃいますよね。営業サイドの気持ちもよくわかります。私も一人旅が基本ですから、よくこうした場面に遭遇しますが、下手に遠回しで婉曲な表現をされるより、聚楽のようにはっきりと理由を答えてくれた方が、こちらとしてもすんなり納得できて良いですね。もし連休に予約を取れたとしても、お風呂も食事も混雑して落ち着けないでしょうから、ぜひゆとりのある時期に、改めて予約してゆっくりお過ごしになってください(^^)
ちなみに私の連休ですが、全く考えておりません。それどころか、今年に入って本格的な温泉はまだ数回だけで、どういうわけか温泉欲が低いんです。すでに今年だけで台湾へ2度も出かけていますが、温泉ではなく別の目的です。毎年連休には青森県弘前の桜を見に行くのが恒例なのですが、今年は開花が早まりそうなので、もし出かけるなら、弘前ではなく別の場所になるかと思います。いや、出かけられず、仕事に追われそうな気がします(涙)。
Unknown
その通りでありますね^^。
実は私の事を覚えていたフロントの方が、
「毎年来て頂いているので、すこし掛け合ってみます!」
と言ってくれて、2泊の枠を開放してくれると言うのですが、
「ぬる湯様は、6泊くらいしますから物足りないですよね^^・・・」
と、言うやり取りがあったのです。よく解ってますね^^。
今年は伊豆にします。部屋風呂から直接源泉が出て来る、
とてもナイスな宿なんですよ^^b
K-1様も、今の時期は繁忙期なのですかな?
ゆっくり過ごせるGWを迎えられます事を、
祈っていますよ^^b
Unknown
>ぬる湯好きさん
フロントのスタッフさんも事情をよくわかっているんですね。さすが立派な旅館の対応だと思います。
全く別の宿の女将さんから聞いた話ですが、その宿でも、繁忙期に空室が辛うじて確保できるような状況であっても、常連さんが予約をしてきた場合は、そのお客さんの好みや期待する方向性を考慮し、事情や自分なりの考えを伝えた上で、満足のいく対応ができないと却って失礼になるので、予約をお断りすることがあるそうです。双方のコミュニケーションがいかに大切かを学ばせていただきました。
部屋風呂から源泉が直接出てくる宿が伊豆にあるんですか! とても興味があります。ぜひ楽しんでゆっくり寛いでいらしてください。
ちなみに私の勤め先の繁忙期は夏なのですが、なぜか連休はうまく休めそうにありません。私の仕事が非効率なんです(涙)。労いのお言葉、ありがとうございます。