秋田県横手市(旧山内村)の「南郷夢温泉 共林荘」には3年前に一度訪れたことがありまして、訪問前は「夢温泉」という、いかにも地方の年寄りが考えそうなダサダサなネーミングから、温泉の質には全然期待していなかったのですが、いざ入ってみたら予想を裏切るクオリティの高いお湯に巡り会うことができ、その時の衝撃が忘れられなかったので、先日所用で横手に宿泊した際、こちらへ再訪して改めてお湯の質感を確かめて参りました。
訪問時は日没後であたりは漆黒の闇に覆われていましたが、ただでさえ何も無い山の中なのに、節電が求められるご時世ですから、こちらの施設の玄関でも積極的な消灯が行われており、まるで営業終了後なのかと不安に思うほど薄暗く、駐車場に至っては真っ暗でほとんど何も見えない状態でした。でもそんな暗闇の駐車場には地元秋田ナンバーの軽トラックや軽ワゴンがたくさん止まっていました。旅館の宿泊客がこぞって軽トラやワゴンに乗ってくるとは考えにくいのですが・・・。
暗い時間帯の画像ではちっとも外観の様子がわかりませんから、3年前(2009年)に訪れたときの画像も一緒に載せておきます。
ロビーはこんな感じ。フロントにてスタッフの方に直接料金を手渡します。
こちらの施設には元湯と新湯の二つの浴室および源泉があり、フロントから真っすぐ奥へ進んだ突き当たりには元湯源泉の浴室がありますから、まずはそちらから入ってみることにしましょう。
浴室手前の壁には、子供が書いた「温泉のとくちょう」が掲示されています。子供たちによれば、温泉つるつるベスト3の第三位は鶴ヶ池温泉、第二位は三又温泉、そして輝く栄光の金メダル第一位は南郷温泉なんだそうでして、南郷温泉の「とくちょう」はつるつる、温泉の色はグリーン、ブルー、黒、と記されています。色についてはこの温泉の重要な特徴なのですが、それについては後述します。ちなみに画像左は2009年、画像右は2012年初秋のものです。今回の記事を書くまで気づかなかったのですが、現在(2012年)のものは、2009年時点で掲示されていた説明を一部切り抜いているんですね。何か不都合でもあったのかしら。
浴場入口手前には飲泉所も設けられており、画像左の2009年時点ではちゃんとお湯が出て使える状態でしたが、画像右の現在(2012年)は使用停止となっており、埃をかぶった岩の水受けには何故かスリッパが載せられていました。
脱衣室はごく普通の造り。室内にはサイコロの目の評価でおなじみの日本温泉協会「温泉利用証」が掲示されており、その評価を見てみますと、新湯投入率以外のすべての項目で最高評価の5つ目となっていました。
浴室の戸を開けた途端、思わず小躍りしたくなるような硫黄の匂いが鼻を突いてきました。元湯の浴室は内湯のみですが、高い天井や大きな浴槽のおかげで、かなり広いお風呂であるように見えます。
浴室の左右に分かれて混合水栓が計9基設置されており、うち4基はシャワー付きです。水栓は一部が交換されて新旧のモデルが混在しているのですが、なぜか新しいモデルに限って金具が硫化して真っ黒く変色していました。材質の違いによるものなのでしょうか。なお訪問時にはカランの前で爺さん数人がトドになって洗い場を占拠していましたが、駐車場に何台もとまっていた軽トラや軽ワゴンはおそらくその爺さん達のものでしょう。こちらの施設では日帰り入浴も積極的に受け入れており、銭湯代わりにこのお風呂を利用する地元の方も多いようです。
先述の子供たちによる説明にあるように、元湯のお湯は変色するのであります。画像左は2009年、画像右は2012年の湯船の様子ですが、昼間と夜という条件の違いこそあるものの、明らかにお湯の色が異なっており、左は白みがかった浅葱色(青系)、右は薄いコバルトグリーンであるように見えます。お湯に含まれる硫黄など温泉成分のコロイドがその変色の要因なのでしょうね。
浴槽の隅にある湯口では、玄武岩質の溶岩の上から源泉が落とされており、その流路は硫黄によって白くなっていますが、岩の色が黒っぽいのでその白さが余計に際立っています。岩の上にはコップが置かれており、口にしてみると苦みを伴った硫黄味がはっきりと感じられ、特に苦みは喉の内壁にしつこくこびりつくほど強いものでした。お湯は完全掛け流しであり、鮮度感は良好です。
人間には胎内回帰願望というものがあるのでしょうか、あるいは私だけでしょうか、広いお風呂で伸び伸びするのもいいのですが、一人しか入れないような小さな浴槽に身を縮めて入ると、不思議と心が落ち着くんです。こちらの浴槽にも、大きな主翼荘の傍らにこのような木の小さな浴槽も据えられており、私はそのサイズと木のぬくもりに惹かれて、敢えてこの小さいお風呂を好んで入っていました。この槽も温泉使用ですが、槽が小さいためかかなり熱いお湯が張られており、私の場合は2分浸かるのが精一杯でした。
続いて、フロント右手へ伸びる廊下を進んで新湯の浴室へ。浴室入口前には自販機がズラリと並び、マッサージチェアなども置かれていました。また奥の方には岩盤浴室もあるようです。
新湯の脱衣室は元湯より遙かに広くて天井も高く、使い勝手も良好です。室内にベビーベッドがあるあたりは、いかにも現代風です。
浴室も天井が高く、またガラス窓も大きいため、とても開放的です。窓に面して浴槽が2つ据えられています。洗い場には11基の混合水栓が設置されており、うち7基はシャワー付きです。
ちなみにこちらは3年前の撮った画像でして、昼間の様子がおわかりいただけるかと思いますが、大きな窓のおかげで外の光がふんだんに室内へ降り注ぎ、照明要らずの非常に明るい空間となっていました。
2つある浴槽にはそれぞれ湯口があり、いずれも湯口まわりは橙色に変色していました。熱くて焼けちゃったのかな。たしかに湯船のお湯は若干熱めでした。この新湯源泉は無色透明で、津軽平野の化石海水系温泉のような香ばしい匂いと元湯の硫黄臭を希釈したようなアブラ的な匂いが感じられました。元湯と新湯の成分を比べてみますと、元湯の方が硫化水素イオンやチオ硫酸イオンの量が多いだけで、他の数値はあまり変わらないのですが、その2種類のイオンの多寡によって元湯と新湯は全く様相を異にしており、元湯は先述のように硫黄感がとても強いのに対し、新湯は知覚的特徴がとても薄くて硫黄感もあまりありません。元湯のように変色するような不思議な個性もありません。しかしながら、元湯よりも新湯の方が個性的な浴感を持っており、入浴してみるとツルスベ感が非常に強く、ヌルヌル感すら帯びているようでした。
内湯は常時放流式の湯使いなんだそうでして、実際に湯口から投入されて湯船を満たしたお湯は、ガラス窓下の溝へ大量にあふれ出し、浴槽隅の排水口へ勢いよく吸い込まれていました。
2つの浴槽の間に立つピラーには押しボタン式スイッチが取り付けられてあって、それをポチっと押してみると・・・
それまで静かだった右側の湯船(画像左)は突然唸りを上げ、それと同時にボコボコと泡を吹き上げ始めました(画像右)。この浴槽にはジェットバスと泡風呂の装置が設けられていて、客が自分の好みに応じて使い分けることができるんですね。私はこの手の騒々しいお風呂が好きでは無いのですが、スイッチを見たらすっかり童心に戻ってしまい、ボコボコ作動させることが面白くて、他に客がいないのをいいことに、入りもしないのに何度か押して遊んでしまいました。大人げない行動をとってしまい申し訳ありません。
大きなガラス窓の向こう側は露天風呂です。暗く潰れた画像でごめんなさい。露天浴槽と並んで打たせ湯もあります。熱めの内湯と異なり、外気に冷やされる露天はちょうど良い湯加減となっていましたが、生憎この時は残暑が厳しく、露天エリアに出るや否や、風呂の周りで待機していたアブの猛襲に見舞われてしまい、ほとんど露天風呂に入ることができずに撤退を余儀なくされました。
暗い画像じゃわかりにくいので、こちらも2009年に撮った日中の様子を載せておきます。
お湯の個性を求めるなら元湯、癖の無いお湯や露天風呂を求めるなら新湯、というように好みに応じて浴室や源泉を使い分けられるのが「南郷夢温泉 共林荘」のすばらしいところですね。ツルツル感の強い新湯も良いのですが、やっぱりコンディションによって色が変わる硫黄感の強い元湯源泉は非常に魅力的です。冒頭で「夢温泉」という名前を年寄りの田舎趣味と表現してしまいましたが、あながち「夢」という語句も的外れではないのかもしれません。
1号井(元湯)
アルカリ性単純硫黄泉 46.6℃ pH8.5 250L/min(動力揚湯) 溶存物質950.9mg/kg, 成分総計950.9mg/kg
Na+:299.4mg(98.34mval%),
Cl-:252.3mg(53.90mval%), HS-:1.7mg(0.38mval%), S2O3–:2.2mg(0.30mval%), HCO3-:318.4mg(39.52mval%)
H2SiO3:32.5mg, H2S:<0.1mg,
完全放流式
2号井(新湯)
単純温泉 47℃ pH8.4 250L/min 溶存物質993.4mg/kg 成分総計993.4mg/kg
Na+:297.3mg(98.48mval%),
Cl-:206.2mg(43.89mval%), S2O3–:0.1mg, HCO3-:432.5mg(53.47mval%),
H2SiO3:32.5mg, H2S:<0.1mg,
露天のみ気温の低い期間に加温
冬期の露天のみ衛生管理のため循環濾過および塩素系薬剤で消毒
秋田県横手市山内南郷字大払川139-1 <a href="http://www.mapion.co.jp/m/39.2495611968872_140.6755258956743_6/">地図
0182-53-2800
ホームページ
6:00~20:00
400円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★
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