銀山温泉湯めぐりの3軒目は、木造四階建の立派なお宿「古勢起屋別館」を訪いました。重厚感のあるファサードはもちろん、川に面した唐破風の玄関が威風堂々で、実にフォトジェニックです。
玄関の左側は「すわろーネ」という和洋折衷でレトロ風情たっぷりレストラン。老舗だからといって肩肘張らず、どんなお客さんでも気軽に立ち寄ってもらおうとする観光客ウェルカムな温かい心が伝わってきます。こちらのお店では山形牛を使ったカレーやハンバーグが売りなんだとか。日帰り入浴の場合は、このレストランから入り、入口すぐ右手前にある食券券売機で入浴料金を支払います。
レストランのスタッフさんに入浴券を手渡して、旅館側の廊下へと移ります。こちらのお宿には地下にある「ほっこりのちか湯」と、奥の方に位置している「ぬっくりの金太郎湯」の2つがあり、時間によって男女を切り替えているらしく、訪問時は前者に男湯の暖簾が掛かっていました。帳場前から階段を下りて脱衣室へと向かいます。脱衣室の入口まわりはステンドグラスで彩られており、その手前側に洗面台が設置されていました。
ウナギの寝床のような細長い脱衣室は綺麗にお手入れされており、足元は畳敷きでとっても快適です。貴重品用のロッカーが設置されている他、カゴはナンバリングされており、お客さん同士の衣服の取り違いを防いでいました。たしかに宿泊時はみなさん同じ浴衣を着ますから、たまに間違えて他の人のものを着ちゃう粗忽なお爺さんがいるんですよね。番号が振ってあれば、こうしたトラブルも多少は減るのかも。
脱衣室に沿う形で平行に設えられている浴室も、同様に細長い造りなのですが、半地下とはいえ、ほぼ2フロア分の高さが確保されており、1階にあたる部分には窓があるため、地下であることを忘れちゃうほど明るく、閉塞感はありません。換気も良好で湯気篭りもなく、快適に過ごせました。
川側の窓下には洗い場が配置されており、シャワー付きカランが2基取り付けられていました。脱衣室と浴室を仕切るサッシに嵌めこまれているステンドグラスが印象的です。
ステンドガラスと並んでこの浴室を特徴付けているのが、山側の壁面に描かれたタイル絵です。風車がまわる水辺の集落が描写されていますが、オランダの水郷地帯をイメージしているのでしょうか。もうひとつの浴室「ぬっくりの金太郎湯」が日本の温泉旅館らしい和の趣きであるならば、この「ほっこりのちか湯」は洋のコンセプトで造られており、レトロな和洋折衷のランドスケープを特徴とする銀山温泉の、要となる2つのファクターを因数分解して、それぞれの浴室で別箇に表現しているかのようです。
湯口からは焦げたタマゴのような香りを放ちながら、60.4℃の熱いお湯がトポトポと注がれていました。石樋の流路には綿毛のような茶色い湯の華がユラユラ揺れており、そのまわりには白い析出がこびりついています。浴槽の大きさの割には投入量が少なかったのですが、水を加えずに湯量調整だけで温度調整を行うためなのかもしれません。
細長い湯船には湯口がもう一つあるのですが、そちらはほとんど止まっていました。とはいえ全体的に赤茶けており、細かなトゲトゲも付着していますので、長年にわたって温泉成分が付着しつづけたのでしょう。
2つある湯口の背後の壁は、凸の字を逆さにしたような形状の凹みがあり、そこには桶や腰掛けなどが置かれていました。
小判を思いっきり引き伸ばしたような形状をしている浴槽は、目測で幅1.5m、長さ6.5mといったところでしょうか。槽内には淡いエメラルドグリーンのタイルが用いられており、ベージュ系の室内タイルとのコンビネーションにより、全体的に柔和で優しいイメージが生み出されていました。
上述のようにお湯の投入量は少なめなのですが、その甲斐あってか、湯船は40.8℃という入りやすい温度に抑えられており、しかも湯使いは完全放流式。湯船のお湯は縁の切り欠けから排湯されているのですが、私が湯船に入りますと、縁のあらゆるところからしっかりとオーバーフローしてゆきました。ツルスベ浴感がとても気持ち良く、穏やかな湯加減でしたから、じっくり浸からせていただきました。
浴槽の底には大小様々なサイズの茶色い湯の華が沈殿しており、その量も結構多かったので、湯の華が好きな私は、つい桶で掬って指先で触れたりしながら、じっくり観察してしまいました。そういえば、前回記事の「大湯」や前々回記事の「旅館松本」と同じく、こちらのお宿でも集中管理されている協組2・3・6号源泉の混合泉を引いており、甘塩味に焦げたようなタマゴ味、お煎餅のような風味に焦げタマゴ臭、そして弱い芒硝臭といった知覚面は共通しているのですが、白い湯の華が目立っていた「大湯」や「旅館松本」と異なり、こちらの湯の華は茶色系で統一されています。同じ源泉でも湯の華の現れ方は違うんですね。
今回は2つある浴室の片方しか入れませんでしたが、次回はもう一方にも入って、是非両方を制覇してみたいものです。日帰り入浴時間は短いものの、銀山温泉らしい風情を存分に味わえるお宿ですから、お昼ごろに当地を観光するならば、ここのレストランでお食事をしつつお風呂も浴びてしまうという利用方法も良いかもしれませんね。
協組2号・3号・6号源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.8℃ pH6.6 蒸発残留物2021mg/kg 溶存物質215mg/kg
Na+:581.6mg, Ca++:76.8mg,
Cl-:786.3mg, Br-:2.2mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, SO4–:327.9mg, HCO3-:120.6mg,
H2SiO3:97.7mg, HBO2:100.9mg, CO2:55.6mg, H2S:0.9mg,
山形県尾花沢市銀山温泉417
0237-28-2322
ホームページ
日帰り入浴11:00~14:00(受付13:30まで)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★
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