前回記事「前編(客室・龍宮風呂)」の続編です。
●古代風呂
旅館「安代館」にある2つのお風呂は、夕食の時間帯を境に男女が入れ替わり、翌朝までその区分は固定されます。私の訪問時の場合は、夕食後から翌朝チェックアウトまで「古代風呂」が男湯になりますので、夕食後、深夜、早朝と3度、その「古代風呂」を利用させていただきました。2階の共用洗面台の前にかかる朱塗りの太鼓橋を渡って、その奥にかかっている「ゆ」の暖簾をくぐります。
奥へ向かって窄まっている脱衣室には、壁に沿って籠が並んでおり、その手前のテーブル上にドライヤーや各種アメニティー類が用意されているのですが、これらと並んでなぜか手で持つタイプの電動マッサージ器がいくつも置かれていました。マッサージチェアを置くスペースがない代わりに、ハンディーマッサージ器を使ってねということなのかな。すっかり茶ばんで反り返っている相当古そうな張り紙によれば、ボイラーは遠距離にあるため、シャワーのお湯が出るまでには時間がかかるとのこと。
美人画を右に見ながら「浴室」へ。この出入口のドアに書かれた文字は、どうやら元々「溶室」だったらしく、後でウ冠を剥がして「浴室」にしたみたいですね。もし「溶室」だった場合、湯船に入ったら全身がドロドロと溶けちゃったりして。
前回記事で取り上げた「龍宮風呂」は大きな窓とアクア調の内装によって明るく開放的な印象を受けましたが、この「古代風呂」は窓が小さくて明るさは控えめ。奥行きのある空間なのですが、その真ん中ほどに、元々仕切り塀が立ちはだかっていたと思われるような痕跡が見られるため、もしかしたら2部屋あった浴室の仕切りを取り払って一室にしたのかもしれません。その仕切りらしき痕跡の奥側に主浴槽があり、手前側に洗い場、そして副浴槽が設けられています。
洗い場にはシャワー付きカランが3基並んでおり、その下にはなぜかカランの個数以上のシャンプー類が用意されていました。上述のようにシャワーのお湯はボイラーの沸し湯です。
タイル張りの主浴槽はカマボコのような形をしており、キャパは大体3人。槽を縁取っている黒御影石には温泉成分が分厚くこびりついて、元の素材がわからないほどクリーム色にコーティングされており、一方、槽内のタイルは所々がはがれて歯欠け状態になっていました。「古代風呂」という名称とは関係ありませんが、年季が入ったこの浴槽からお風呂が歩んできた長い年月を感じさせます。
私が泊まった晩は、なぜか湯口から注がれるお湯の量が絞られており、湯船の湯加減もかなりぬるめでした。「龍宮風呂」と同じく、湯船の傍には源泉のお湯が出てくるホースがありますので、コックを全開にしてお湯をたっぷり加えたのですが、なかなか温度が昇がらなかったので、考え方を変えて、長湯用の湯船として使わせていただきました。
一方、洗い場の近くにある副浴槽はコンパクトな木造で、せいぜい2人入って精一杯といった感じ。タイル張りで昭和の雰囲気が横溢しているこの「古代風呂」において、何が古代を意味しているのか正直なところよくわからないのですが、おそらくこの木材が古代となんらかの関係があるのでしょう。
表面を白い析出で覆われた筧から、アツアツのお湯が浴槽へ注がれており、タイル張りの主浴槽はぬるめでしたが、対称的にこちらはかなり熱く、体感で湯加減としては45℃はあったかと思います。無色透明のお湯ですが、湯中では木肌から剥がれた木の繊維と思しき茶色い浮遊物が舞っていました(形状から推測するに、湯の花ではなかったように思われます)。投入量は決して多くないものの、浴槽自体が小さいため、比較的早くお湯が入れ替わるらしく、お湯の鮮度は主浴槽よりもはるかに良好で、私はこの木の湯船にばかり入っていました。
「龍宮風呂」「古代風呂」ともに使用源泉は共益会11号ボーリング源泉で、この宿のほか安代地区の共同浴場などにも引かれています。見た目は無色透明。口に含むと微塩味が得られるほか、石膏感も弱いながら明瞭に伝わってきます。でも食塩がメインであるためか、石膏泉というより食塩泉らしい性格がよく出ており、湯船に体を沈めると、少々のトロミ、そして弱い引っかかりを伴うツルスベ浴感が感じられました。お湯の個性としては、すぐ隣の渋温泉よりも、ちょっと離れた湯田中温泉のお湯に近い印象を受けますが、湯田中の湯よりもさらに硫黄感(砂消しゴム的な感覚)が弱く、全体的にあっさりとして主張は控えめ。でも熱いお湯に浸かると心身がシャキッと蘇り、湯上がり後はいつまでも温浴効果が持続して、その熱を体内に籠らせたまま布団に潜ったところ、しっかりと熟睡することができました。
昭和の香りを強く残す古い建物のお宿ですが、料金は比較的リーズナブルですし、個性の異なる2つのお風呂で掛け流しのお湯を楽しめるところも良く、またお客さんのニーズに合わせて色々と融通を効かせるサービスを実施していているところも好感が持てます。すぐお隣の渋温泉やご近所の湯田中には飲食店もあるので、素泊まりで利用しても不自由しません。信州観光の拠点になる便利なお宿かと思います。
共益会11号ボーリング
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 91.7℃ pH8.2 溶存物質1.623g/kg 成分総計1.623g/kg
Na+:362.1mg(76.17mval%), Ca++:64.6mg(15.59mval%),
Cl-:533.8mg(70.25mval%), Br-:2.7mg, I-:0.7mg, HS-:0.3mg, S2O3–:1.4mg, SO4–:257.0mg(24.96mval%), HCO3-:38.2mg, CO3–:7.0mg,
H2SiO3:202.3mg, HBO2:89.5mg,
(平成24年5月2日)
館内に掲示されている分析書は平成14年のものでしたが、次回記事で取り上げる「安代大湯」にて平成24年分析の新しいデータが掲示されていましたので、ここではその新しいデータを紹介させていただきます。
長野電鉄・湯田中駅より徒歩20分(約1.5km)
長野県下高井郡山ノ内町平穏2305 地図
0269-33-2541
ホームページ
日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
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