平家平温泉 こまゆみの里

栃木県

先月26日の記事からしばらく話題が飛んでしまいましたが、再び栃木県の温泉を取り上げます。
栃木県の最奥部にある旧栗山村は、交通不便な深山幽谷の地であったことから、源平合戦で敗れた一族が逃れて住み続けているという平家の落人伝説が残っています。栗山の代表的な温泉地である湯西川温泉はその好例であり、落人の生活様式を後世に伝えるべく茅葺き屋根の住家を移築再現した観光施設「平家の里」をはじめ、毎年6月には時代行列「平家大祭」も開催され、僻地ならではの伝説を観光資源として活用しています。

 
湯西川のみならず村内には平家の話が伝承されていらしく、奥鬼怒へ向かう県道の終点付近にある「平家平温泉 こまゆみの里」もその一例に挙げられるのかもしれません。川俣温泉の先、奥鬼怒温泉郷の手前に位置するこの一軒宿は、まず温泉名が平家そのもの。また、宿名のこまゆみとは、付近に群生していたまマユミの木で弓を作り、平家の末裔である若武者が駒にまたがり弓の練習を積んだとされる言い伝えに基づくもの。名前からして平家の要素がてんこ盛りなのであります。そんなお宿で日帰り入浴を楽しむべく、真夏の某日に訪問しました。


玄関を入った正面には、秘湯を守る会の大きな提灯がさがっていました。

 
フローリングのロビーには動物の剥製が数体置かれていました。周辺の山々で生息していたのでしょうか。
さて、帳場で湯銭を支払い、案内に従って通路を進みます。

 
帳場では通路の突き当りにお風呂があると教えられたのですが、その途中にもお風呂の暖簾が掛かっており、扉が開いていたので、ちょっと覗いてみたところ、暖簾の向こう側は男女別の内湯でした。

 
内湯にしては立派な岩風呂と簡素な造りの上屋が対照的なのですが、このお風呂は元々露天風呂だったらしく、何となくワイルドな雰囲気が伝わってくるのは露天時代の名残なのかもしれません。とはいえ、私の訪問時、このお風呂はお湯を張っている最中でしたので入浴することができませんでした。このため、帳場で教えられた通りに露天風呂へと向かいます。

 
通路の突き当たりが露天風呂。出入口に御幣が供えられた脱衣室の内部は極めて質素。秘湯風情たっぷりです。

 
鬼怒川の上流部を見下ろす高台に露天風呂が設けられていました。こちらの露天風呂には混浴と女性用が用意されており、男は混浴を利用することになります。山の緑と空気が清々しい、実に爽快なロケーションです。

 
露天風呂は大きな岩風呂と4つほどの丸太風呂によって構成されています。
岩風呂は12~13人ほど入れそうな大きさを擁し、道祖神が祀られている湯口から温泉が滔々と供給されています。投入量が多いため、浴槽が大きくてもお湯は短時間で入れ替わっていると思われ、湯船に浸かった際にはお湯の鮮度感が良好であり、また浴槽縁から惜しげもなく贅沢にオーバーフローしていました。

 
岩風呂の周りには太い樹木の幹を刳りぬいた丸太風呂が4つ設置されています。いずれも一人サイズです。

 
天然木から作られているため、それぞれの形状が異なっています。ご自身で好みのお風呂を見つけるのもまた一興でしょう。

お湯は無色透明で、少々焦げたようなタマゴ臭とタマゴ味が得られるほか、薄い塩味や石膏感も含まれていました。そして樽風呂では細かくて白い湯の花が沈殿および浮遊していました。なお湯量が多くて浴槽内に流れがある岩風呂において、湯の花は軽く浮遊する程度でした。匂いや味、そして湯の花など、比較的硫黄の存在感がよく現れているのですが、しかしながら脱衣室の出入口に掲示されている分析書によれば、こちらに引かれている混合泉には硫黄が含まれていません。実際には分析書とは異なる源泉が引かれているのでしょうか。

なお、湯使いは完全掛け流し。訪問時の湯加減は少々熱めでしたが、岩風呂ではホースで加水できるようですから、もし熱ければ水で調整すると良いでしょう。印象的なツルスベが感じられるわけではありませんが、でも大量掛け流しのおかげで上述のように鮮度感は抜群。奥鬼怒の清らかな環境に抱かれながらフレッシュな温泉に浸かると、心身がすっかり浄化されてゆくようでした。もし平家の一族郎党がこの温泉に浸かることができていたならば、鋭気を養い捲土重来で源氏に打ち勝つことができたかもしれません。今回は短時間の日帰り入浴でしたが、おかげさまで日頃の憂さを晴らすことができました。おすすめ。

奥鬼怒温泉 こまゆみの湯(奥鬼怒18・25・43・45混合泉)
Na-塩化物温泉 44.1℃ pH6.6 540L/min(自然湧出) 溶存物質1.099g/kg 成分総計1.159g/kg
Na+:320.3mg(90.62mval%), Ca++:20.7mg(6.72mval%),
Cl-:441.9mg(80.35mval%), HCO3-:150.3mg(15.88mval%),
H2SiO3:98.9mg, HBO2:27.1mg, CO2:57.8mg,
(平成23年9月16日)

栃木県日光市川俣646-1
0288-96-0321
ホームページ

日帰り入浴11:30~14:30
500円

私の好み:★★★

コメント

  1. 国民温泉 より:

    こんにちは
    これまた!非常に興味深い地域の話題が続いてとても嬉しいです(^O^)
    思うに、この旧栗山村と片品村・桧枝岐村・旧舘岩村は、直線距離も短くホントは一緒に回りたいのに、えらい遠回りでそうもいかず、とてももどかしい気分になりますね。”私スキ”の志賀万座ルート思い出してしまいます。
    それはともかく、落人のような私にピッタリの温泉地なので、このブログをきっかけにまた近々足を運んでみたいです。

  2. K-I より:

    Unknown
    国民温泉さん、こんばんは。
    >旧栗山村と片品村・桧枝岐村・旧舘岩村
    各県を代表する秘境の山村と言っても過言ではないようなラインナップですね。おっしゃるように、これらの地域の間には険しく深い山が立ちはだかっているため、いくら直線距離で近くても、効率よく湯めぐりできないどころか、実質的に別エリアとして捉えるべきですよね。でもそんな場所だからこそ、都会とは真逆の仙境みたいな環境がいまでも保たれているのかもしれません・・・なんて都会の人間の独りよがりの感傷かも(笑)

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