白老町の虎杖浜・竹浦地区で国道36号や室蘭本線と平行している道路には、「若湯温泉」や「山海荘」など、拙ブログで既に記事にしたことのある渋い温泉施設が立地していますが、今回取り上げる「富士の湯温泉ホテル」もその道路に面しており、前2者と同様にこちらも昭和の哀愁を強く漂わせる渋い佇まいの施設であります。そういえば虎杖浜地区には「民宿赤富士荘」が、竹浦地区にはこの「富士の湯温泉ホテル」がそれぞれ営業しているわけですが、当地では富士山に対する特別な憧憬のようなものがあるのでしょうか。
館内には昭和で時計の針が止まったままであるかのような、懐かしい雰囲気が横溢しています。特に玄関右手のラウンジには、今時珍しい紺のベロアのソファーが並べられており、その光景をカメラに納めずにはいられませんでした。
帳場前には券売機が設置されており、日帰り入浴利用の場合はこれで料金を支払います。入浴のみの利用も積極的に受け入れているんですね。ホテルと称するだけあって券売機の斜め後ろにはお土産物を販売するブースと思しき区画があるのですが、くすんだショーケースの中にはいつのものかわからぬ古色蒼然とした小物がホコリをかぶりながら陳列されており、ただでさえ哀愁漂う館内の虚しさを余計に濃くしているようでした。
帳場左側の廊下を進んだ先が浴室の入口でして、まず男湯の入口が現れ、男湯を迂回する形で向こう側へ廻り込むと女湯となります。
脱衣室も昭和の空気感に満ちあふれています。適宜お手入れされているようですが、常連さんには荒々しい方がいらっしゃるのか、宜しからざるマナーによる室内の乱れが残念でした。室内には温泉分析表が掲示されているのですが、紙が劣化している上に印刷が潰れているので、解読が困難な状況でした。
浴室は左右に長く、細長い形状に沿って洗い場や複数の浴槽が配置されているのですが、その中でも一番目を惹くのが、窓に面している大浴槽です。室内に4つある浴槽の中では最も大きくて明るく、お宿の主役に相応しいお風呂なのですが、残念ながらお湯は塩素消毒および循環が行われており、お湯としての面白みはありません。なおこの大浴槽の周りには固定式シャワーがセットになったカランが11組並んでいます。
一方、窓とは反対側の、天井が低くて薄暗いゾーンにも3つの浴槽があり、こちら側にも洗い場が配置されているのですが、薄暗い上に狭くてシャワーもないので、あまり使う人はいないかもしれません。女湯との仕切りにはスリガラスが用いられており、時折向こう側を歩くおばちゃんのシルエットがガラスに映っていました。
最も手前側の小浴槽は放流式の湯使いで、浴槽の縁から常時お湯が溢れ出ていますが、源泉の投入量を絞っているために、湯加減は若干ぬるめです。
上画像は小浴槽に隣接している中浴槽です。こちらも放流式の湯使いであり、投入量もしっかりしていますので、お湯の鮮度感が良く、湯加減も丁度良い塩梅でした。後述する露天風呂を含めても、この中浴槽が最もお湯のコンディションが良かったように思います。お湯は無色透明で、湯中では茶色い破片のような浮遊物がチラホラ舞っています。湯口にコップが置かれていたので、試しにテイスティングしてみますと、ほぼ無味無臭でアッサリとしており、これといった味や匂いは感じ取れませんでした。ツルツルとした肌触りが心地よく、浴感は温泉としての個性を明瞭に主張していました。ちなみに昭和44年の温泉分析書にはアンモニウムイオンが25mg(29.88mval%)と記載されているのですが、ホンマかいな?
小中の2槽とはちょっと離れて、このような小さなジェット湯の浴槽もあるのですが、こちらは大浴槽と同様に塩素消毒と循環が行われていますので、今回は利用しませんでした。
大浴槽が面する窓ガラスの屋外側には露天風呂も用意されており、サイズが異なる3つの浴槽が据え付けられています。手前側の槽は7~8人サイズのタイル貼りで温度は42℃前後、真ん中の槽はコンクリ打ちっぱなしで10人強ほどの容量があり40℃未満というかなりぬるめの湯加減、奥側は5人前後のサイズのタイル貼りで真ん中ほどではないもののぬるめでした。
この露天風呂では、手前側の槽および奥側の槽にてお湯が供給されて真ん中の槽へと落としこまれる流れが形成されているため、真ん中の槽はどうしてもぬるくなってしまうようです。またコンクリがむき出しとなっているこの真ん中の槽ですが、表面が全体的にグリーンを帯びているのは、けだし苔が底面を覆っているからではないかと思われます。露天では各槽とも放流式の湯使いとなっていますが、真ん中の槽や奥側の槽ではお湯がぬるい上に鮮度感があまり得られなかったので、今回は適温だった手前側の槽ばかり利用しました。この手前側の槽はパイプの湯口の他、底面からもお湯を供給させることによって温度を均衡させていました。
せっかくの露天風呂ですが、お手入れが今ひとつなのか、エリア内の植物は枯れて無残な姿を晒したままですし、上述のように浴槽内は苔が生えています。また脱衣室から掛け湯もせずに露天風呂へ直行するお客さんの姿も見受けられましたので、いろんな意味で残念な状況でした。
アッサリとしてクセのないお湯でありながら、ツルツルサラサラとした浴感が心地よく、湯上がりの温まりもパワフルでなかなか湯冷めしない実力派の温泉です。しかしながら、施設の全体的な老朽化は仕方ないにしても、いろんな面で残念な部分が目についてしまったのが心残りでした。
単純温泉 49.3℃ pH8.4 350L/min(掘削自噴・680mボーリング)(※) 溶存物質713.8578mg/kg 成分総計715.7278mg/kg
Na+:140mg(65.81mval%), Al+++:25mg(29.88mval%),
Cl-:185mg(56.31mval%), HCO3-:195mg(34.41mval%),
H2SiO3:82mg, HBO2:35mg, H2S:1.87mg,
(昭和44年12月24日)
(※)現在は自噴しておらず、動力揚湯となっています。
室蘭本線・竹浦駅より徒歩16分(1.4km)
北海道白老郡白老町竹浦297-56 地図
0144-87-2043
日帰り入浴8:00~22:00
300円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類あり
私の好み:★★
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