バシスト村の温泉洗濯場

インド

前回記事の続編です。

バシスト村の露天風呂で硫黄の湯の香が漂う温泉に入り、体の芯までしっかり温まった後は、集落を散策してみることにしました。
寺院の周りには、温泉のお湯を使った洗濯場があり、朝も夕も洗濯する光景が絶えず見られました。地元の生活と温泉が密接に結びついているんですね。とりわけこの地は平均気温が低く普通の水では冷たくて手洗いがツライでしょうから、温かい温泉水は洗濯にうってつけな訳です。日本でも信州の野沢温泉など一部の温泉地で洗濯場が見られますが、文化や人種、宗教、歴史的背景等を全く異にする遠く離れた場所でも似たような生活習慣が見られることは非常に興味深く、地球上に生きる人間の共通性のようなものを感じました。こうした異文化間の共通点に気づくことも海外旅行の醍醐味ですね。

同じ洗濯場を、アングルを変えて撮ってみました。この地域に暮らす方々はみなさんビビッドな色合いの衣類をお召しになっているんですね。

温泉がある寺院の向かい側にも祠のような施設があり、その祠に向かって手を合わせて祈る女性の姿が見られました。

マナリの街からバシストの中心地へ伸びる一本道の坂道は自動車が通れますが、それ以外の道は狭くて段差も多く、車が通れるような状態ではありません。山間の傾斜地に毛細血管のように狭い路地が伸び、その路地に沿って木造建築がひしめきあっています。そして路地や軒先では我が物顔で牛がウロウロしていました。

村に建ち並ぶ民家の多くが、石積み基礎の上に建てられた2階建ての木造住宅で、どの家にもベランダが設けられていました。

集落を歩いていたら特徴的な形状をした楼閣に遭遇しました。物見櫓を連想させる頭でっかちな形状をしており、テラスがある上層階は居住スペースかと思われますが、出入口がある下層階は倉庫か作業場(もしくは牛舎?)になっているのかもしれません。建物の形状もさることながら、玄関周りなどに施された彫刻もなかなか立派。温泉がある寺院にも素晴らしい彫刻が施されており、他の建物でも普遍的に見られましたので、この地域には彫刻の伝統技術がしっかり継承されているのでしょうね。

寺院がある広場から路地を入ってちょっと下ったところにも、温泉のお湯を使った洗濯場がありました。井戸端ならぬ温泉端会議とでも言ったらよいのでしょうか、おばちゃん達は洗濯しながら世間話に華を咲かせているようでした。ちなみに男性は日本の利休帽みたいな丸い帽子を被り、女性はスカーフを頭に巻くのが、この地域の伝統的ファッションスタイルのようです。

寺院や温泉がある中央の広場から北側は生活の匂いが強いエリアである一方、その逆側となる南側は観光色が強く、車が通れる一本道に沿って、飲食店や土産品店、食料品店や雑貨店、ホテルやゲストハウスなどが建ち並び、それぞれがカラフルな看板を掲げて自己の存在を観光客にアピールしています。その客層ゆえ英語表記が多く、外食店もインド料理の他、パンやピザなど西洋風なものを出す店も目立っています。またチベット料理のお店も散見されました。たまにお店の看板でヘブライ語表記が見られましたが、どうやらマナリやバシストはイスラエル人旅行者が多いらしく、大麻目的で当地を訪ねる旅人も少なくないんだとか。

今回私が宿泊したホテルです。貸切車を手配していただいた旅行会社に予約してもらいました。当初旅行会社のスタッフさんはバシストではなくマナリ市街のホテルをご提案くださったのですが、その理由としてバシストはゲストハウスやそれと同等レベルのホテルが多く、安心したサービスを提供できる施設が少ないことを挙げていらっしゃいました。しかし私としてはどうしてもバシストの温泉に入りたい、しかも湯鈍りが発生していない綺麗な状態の早朝に入りたいのでバシスト村に泊まりたいんです、とわがままを言ってこちらのホテルを手配してくださいました。

たしかにスタッフのサービス面はいまいちでしたが、客室内はちゃんと綺麗ですし、ファブリックの色調も良い感じ。シャワーもちゃんとお湯が出ましたので、問題なく一晩を過ごせました。ただ館内には空調設備が一切無く、冷房はおろか暖房すらありません。当地は避暑地ですから冷房が無いのは良いとしても、冬になれば雪が降りますから暖房が無いのは困ります。私が訪ねた3月の某日も昼間ですらダウンジャケットを着ないと寒さをしのげないほどでした。前日まで猛暑のデリーにいた私は、急激な気候の変化に体調を崩してしまい、暖房が無い客室で服を着こみ、ガタガタ震えながら布団にくるまって寝込んでしまいました。やっぱり旅行会社のアドバイスに従ってマナリに泊まるべきだったのかと少々後悔しつつ、翌朝ホテルまで迎えに来てくれた貸切車のドライバーさんに暖房が無かったことを話すと、どうやら当地ではそれが当たり前らしく「フロントでヒーターを貸してもらえば良いんだよ」と事もなげに教えてくれました。

窓の外には雪を被ったヒマラヤの山々が連なって聳えており、これを眺めるだけでも暖房が無いことなんて忘れるほど爽快な気分になれました。
ちなみにこのホテルでは宿泊料金と別になりますが、館内のレストランで朝食を摂ることができます。レストランと言っても場所は屋上の吹きさらしですので、景色は良いのですが季節を選びますね。私は寒風吹きすさぶその屋上で、美しい景色を眺めながら、悪寒に体を震わせつつ、できたてなのにすぐ冷めてしまったオムレツを胃袋へ押し込んだのでした。

さて次回記事ではバシストから離れて別の温泉を取り上げます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました