(2025年3月訪問)
前回記事まではインド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州の観光地マナリの周辺にある温泉、バシストとカラトゥをご紹介しました。
今回記事ではマナリから離れ、同じヒマーチャル・プラデーシュ州でもパールヴァティ川沿いの渓谷に位置するマニカランという小さな町を訪ねます。このマニカランはシク教の聖地として知られており、インド国内のシク教徒たちは信仰のためにマニカランを訪れます。また、宗教の聖地という特徴を有しているためか、マニカランで産出される水晶はスピリチュアルな方々に人気があるんだそうです。そしてシク教や水晶とともに、マニカランで有名なものが豊富な地熱資源と温泉なのです。無宗教で水晶にも興味がない私は、当然ながら温泉だけを目当てにしてマニカランへと向かったのでした。
ちなみにシク教とは大雑把に言えばヒンドゥ教とイスラム教を融合させたようなインドの宗教で、日本ではあまり知られていませんが、インドでは全人口の約1.7%がシク教徒なんだそうです。1.7%といってもインドの人口は2024年時点で14.5億人もいるのですから、ざっと計算しても2400万人近くになり、オーストラリアの人口よりちょっと少ない程度ですから、その規模は決して小さくありません。
マナリからアクセスする場合、一旦クル(ブンタール)まで南下してから、渓谷に沿って伸びる一本道を東へ約45km進むことになります。この道中にはカソール等の観光拠点があるほか、いくつものホテル等が点在しているため、辺鄙な場所にも関わらず比較的交通量が多いようです。にもかかわらず至る所で穴があいていたり、狭くなったり、未舗装になったりと、道路の状態が良くありません。上画像のように岩盤が道へオーバーハングしているような危ない箇所も複数あります。
しかもこの時は渋滞の中で前方を走っていた路線バスが泥濘にハマってスタックしてしまい、後方を走っていた私の車は長時間行く手を阻まれてしまいました。
その上、私が訪問した3月中旬の某日はシク教の祭事が催されたらしく、多くのシク教徒がこぞって聖地マニカランを目指したため、バッドコンディションの道路は交通集中により大渋滞は発生。車の他、バイクで隊列を組みながら移動するシク教徒も多く、上画像に写っているように、シク教徒の隊列はみな頭にターバンを巻きバイク後部にカラフルな旗をなびかせていたのですが、そんなこんなで、クルからマニカランまで約45kmの道のりを移動するのに4時間以上もかかってしまい、現地に到着した時には既に夕方になっていました。
車が通る一本道は川の南側を通っているのに対し、マニカランの中心部は川に沿って北岸に広がっていますので、橋で対岸へ渡る必要があります。橋は数本架かっていますが、その中でもバス乗り場や駐車場からすぐの場所に架かる上流側(東側)の吊り橋から対岸へ渡りました。このあたりは標高1700m。日が陰るとかなり冷え込みます。
橋から上流を眺めると、岸のあちこちから白い湯気が濛々と上がっており・・・
各種商店や飲食店、ゲストハウス、そして宗教施設が建ち並ぶ下流側を眺めても、やはりあちこちで白い湯煙があがっています。日本にもあちこちから湯煙が上がる渓谷の温泉地ってありますよね。
川を渡ったら、下流に向かって歩いていきます。しばらくはこのように路地に沿って小さな商店が建ち並ぶエリアが続きます。食品、雑貨、デジタルギア、衣類、薬など、この商店街ではいろんなものが売られており、旅行者と地元生活者の両方の需要を満たしているようでした。
商店街ゾーンを抜けると突如視界が開け、右手の山側にヒンドゥ教の宗教施設が建つエリアへと移ります。この施設内には温泉浴場があるそうですが、今回は訪問しませんでした。
インドの街にはどこにでもいる牛。山奥に位置するマニカランも例外ではありません。
なおこの広場に面して1軒の温泉公衆浴場があるのですが、これについては後日に別の記事で取り上げます。
さてこの広場から更に下流側へ進むと、再びクネクネと伸びる細い路地に沿って小さな商店が櫛比する商店街ゾーンとなり、こちらのゾーンには商店のほか食堂やゲストハウスも集まっていますので、私のような明らかな外国人が通ると高確率で客呼びから声が掛けられます。ゲストハウスのいくつかは温泉のバスルームを備えており、施設によっては入浴のみの利用も可能です。ゲストハウスの温泉についても後日別の記事でご紹介いたします。
商店街ゾーンの路地を歩いていると、或る一角で大勢の人たちが川岸へ向かっている光景に遭遇。何事かと私も人ごみに混じってその方へ進んでみると、ちょうど川岸にヒンドゥ教の施設が建っており、みなさん裸足になってその施設の周りに集まっていました。上の画像がその様子なのですが、画像が全体的に白いのは、あたり一帯が湯煙で覆われているからです。
辺りを湯気で満たしている原因が、シヴァ神像の前にあるこの湯桝。ボコボコと激しい音を立てながら熱々の温泉が底から上がっています。辺りには湯気が立ち込め、温泉熱によってものすごい熱気に覆われています。
ここに集まった人々は、お祈りをするわけではなく、どうやらこの熱い温泉でお米を茹でているようでした。紐が付いた白い袋にお米を詰め、袋ごと激熱の温泉に放り込むと、やがてご飯が茹で上がるのだとか。この紐付きの袋に入ったお米は近くにいるおじさんが売っていました。お米を炊くのではなく茹でるという調理法にはあまりなじみがありませんが、果たして美味しくいただけるのでしょうか。尤も、美味しい云々ではなく、何らかのご利益的なものを享受するために茹でているんでしょう。いずれにせよ熱い温泉で食材を調理しようとするのは万国共通なんですね。
その湯枡の隣には巨大な建物が聳え立っていますが、これこそマニカランのランドマーク的な存在であるシク教の宗教施設グルドワラです。一見すると単なる勝手口のように見えますが、この先には巨大施設の内部へ伸びる迷路のような通路が張り巡らされています。巨大な施設にも関わらず、その出入口は非常に小さくてわかりにくい。それもそのはず、この出入口は裏口に相当します。私も最初はこの出入口に気づかず通り過ぎてしまったのですが、多くの人がこの小さな出入口で犇めき合いながら行き来している光景を目にして「あ、ここから入るのか」とようやく気付いた次第です。なおこのマニカランに限らずシク教の宗教施設は一般的にグルドワラと称するようです。他の宗教で例えるならば、仏教やヒンドゥ教だと寺院、イスラム教だとモスクがそれぞれ相当するかと思います。
正面入口を含めたグルドワラ全体の様子は次回記事で取り上げます。
次回記事に続く。

コメント
初めてのインドとはとても思えないディープな温泉巡り、さすがですね。
山道の渋滞はインドあるある、でも事故っていたりするとみんなで力合わせてなんとかしちゃうのがインド。
シク教は平等を標ぼうしているので皆さんとても親切、男性のターバンもかっこよくて大好きです。
お米はアジアでは湯どり法と言って茹でてからお湯を捨てて蒸すのが一般的なので温泉で茹でるのもありなんですね。日本の塩分の強い温泉でもやってみたら面白いかも。
マニカランの温泉紹介、楽しみに待ってます。
Luntaさん、コメントありがとうございます。
やはり山道の渋滞はあるあるなんですね。でも仰るようにみんなで協力しあって解決していました。そうでもしないと埒があかないのでしょうけど、なんでも他人任せ業者任せにして自分は知らん顔の日本に慣れていると、前向きで頼もしく思えます。
>湯どり法
言われてみれば、たしかにタイなど東南アジアはまず茹でてますね。インディカ米は湯どり法の方が美味しいので、高温の温泉で茹でるのは理にかなっているわけですね。旅行から半年経ってようやく気付きました(^^)