滝の湯の直前で左に入る小道を進んだ突き当りの吊橋を渡ったすぐの川岸に建つ、看板などは出ていないお宿です。一見するとごく普通の民家ですが、母屋の隣(吊橋側)にいかにも湯屋然とした小屋が目立っているので、温泉通いに慣れた方なら、ここにお風呂があることをすぐに見破ることができるでしょう。
訪問時は晩秋で、ちょうどご夫婦揃って雪囲いの作業中で、日帰り入浴を乞うと奥さんが笑顔で受け入れてくださいました。玄関入るといきなり炬燵が置かれた居間になっていて、本当にここが宿なのか疑わしくなりましたが、三和土の右側の上がり框にはスリッパが並べられていたので、これでようやく、ここはお客を迎える所なんだと確認することができました。
廊下を歩いて湯屋へ。浴室は男女の区別が無い1室のみで、実質的に貸切風呂です。
脱衣所には木板に記された昭和26年の分析表が掲げられていました。
室内には木製の浴槽が据えられ、カランなどの設備はありません。浴槽は均等に2分割され、それぞれ1~2人サイズ。そのうち片方に塩ビのパイプから源泉が注がれており、一旦そこで張られたお湯が隣の槽へと流れていきます。注がれるお湯は激熱、それが直接投入される槽はとても入れる温度じゃなかったので、湯温画下がっているもう片方の槽で入浴しました。熱い槽には真っ白な溶きタマゴの様な湯の華がたくさん沈殿しており、隣の槽にも若干湯の華が流れ込んでいました。
コップで湯口からお湯を汲むだけで、その中に湯の華が入ってくるので、浴槽の底に沈殿している量は推して知るべし、かなりの量なのであります。
無色透明、まろやかだが明瞭な塩味と薄い出汁味に弱いタマゴ味が混ざり合い、意外と口当たりが良いので、タマゴスープのように美味しく飲めちゃいます。湯口に鼻を近づけると、噴気孔で鼻を突くような硫化水素集が弱く感じられました。とてもツルツルスベスベ気持ち良く、引っかかりも無く、湯上りもお肌がスベスベ。静かで古い浴室の雰囲気と相俟って、お湯の良さが非常に際立ちます。
お湯から上がって帰ろうとしたら、次のお客さん(ご夫婦)が居間で炬燵に入って宿のお婆ちゃんと談笑しながら、私が出るのを待っていました。そのお婆ちゃんは座椅子に腰掛けながらも、ただでさえ「く」の字に曲がった老躯を更に下げ、一介の入浴者たる若輩の私に対し、ご丁寧にお辞儀して下さいました。そのご好意に心から感謝するとともに、現代人が習得を疎かにしてきた礼節について、猛省しなきゃいけないと改めて痛感した次第です。
いかにも東北の昔ながらの温泉宿風情を色濃く残すこちらのお宿。末永く続いていただきたいものです。
含硫黄・ナトリウム-塩化物泉 75.1℃ pH6.8 3.35L/min(自然湧出) 溶存物質4.493g/kg 成分総計4.610g/kg
福島県河沼郡柳津町大字五畳敷字下の湯44 地図
0241-43-2021
(数年前まで路線バスがありましたが、つい最近廃止されて、公共交通機関は無いようです)
入浴可能時間不明
400円
シャンプー・石鹸あり、他の備品無し
私の好み:★★★
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