御嶽山の麓に刻まれた峻谷「巌立峡」の手前に湧出する鉱泉を利用した温浴施設です。普段私は沸かし湯の鉱泉にはあまり関心を寄せないのですが、ここでは源泉そのままの鉱泉に入れるそうなので、俄然興味が湧き、行ってみることにしました。
建物の入り口脇には、飲泉場がありました。地元の檜材で作られた東屋がかかっており、一見すると神社の手水場みたいな感じですが、そこに落とされている鉱泉が見るからに強烈です。竹筒から注がれる鉱泉は、出てきた直後は透明ですが、空気に触れるとたちまち酸化して赤みを帯びた橙色に濁り、周囲にコッテリとした石灰の析出を残してゆきます。施設側のメンテナンスにより鉱泉を汲める四角い湯溜りが削られていますが、もし手入れされなければ、一年もしないうちに析出により埋め尽くされ、石灰華の山が築き上げられているかもしれません。置かれている柄杓で飲んでみると、口腔内で炭酸ガスがシュワシュワ弾け、サイダーのような強い炭酸味と薄い塩味+金気味がミックスされた味が口の中に広がり、その上金気臭とタマゴが腐ったような匂いも漂ってくるので、思わずオエっと舌を出したくなる程に不味いものでした。柄杓の中は炭酸の泡で満たされています。ここまで強い天然の炭酸鉱泉はなかなか珍しいのではないでしょうか。会津の大塩(会津心水)、六甲の有馬、大分県の七里田などと肩を並べられるほどインパクトのある炭酸泉です。この手の不味い炭酸鉱泉は、拙ブログで取り上げたチェコのカルロヴィ・ヴァリのように、ヨーロッパではしばしば飲泉療法に用いられているので、不味さを堪えて飲み続けると、効能が顕れるかもしれません。
玄関を入って階段を上がるとエントランスホールです。券売機で料金を支払い、受付のおばちゃんに券を渡すと、湯上り後の濡れたタオルを入れるビニール袋をくれました。こうした細かい配慮って嬉しいですね。
今時の公営温浴施設らしく、脱衣所は使い勝手良好でした。
浴室内には大きな主浴槽の他、泡風呂(真湯)がその隣に、主浴槽の向かい側に香草風呂、浴室入口脇にサウナがあり、温泉はもちろんのこと、サウナ目当てでこの施設を利用するお客さんが多いようです。洗い場のカランは11基ありました。
主浴槽のお湯は赤みを帯びた橙色に強く濁っており、底は全く見えません。味は屋外の飲泉場の鉱泉に似ていますが、加温されているためか、炭酸がすっかり抜けてしまっています。湯中における肌への泡付きも見られません。匂いに関しても、金気臭は感じられますが、硫化水素臭は確認できません。弱ツルツルとキシキシの中間のような微妙な浴感でした。どうやら飲泉場の鉱泉と、主浴槽に使われている源泉は、似て非なる別の源泉のようです。
館内表示によれば泡風呂や香草風呂以外の温浴槽は掛け流しとのこと。源泉風呂って何ぞや?
主浴槽・泡風呂と並んで小さく据えられている浴槽が、その源泉風呂のようです。こちらも強く濁っていますが、明らかに主浴槽とは異なる黄土色で、湯口のお湯を掬って口にしてみると、しっかり炭酸味が感じられました。おそらくこれは屋外の飲泉場と同じ源泉を引いているのでしょう。入ってみるとほとんど水風呂みたいな冷たい温度でした。水風呂が苦手な私は必死に堪えながらの入浴となりましたが、この隣にはサウナがあるため、サウナで大量に汗をかいたお客さんがシャワーも浴びずに、水風呂かわりにこの源泉風呂へ入ってしまうため、ちょっと辟易です。一般的な水風呂と違って、浴槽への鉱泉の投入量は少ないので、汗をかいたまま入っちゃうと、浴槽内は汚い汗だらけになっちゃいますよ…。なお上述のように炭酸味は明瞭でしたが、なぜか肌への泡付きは見られませんでした。
こちらは露天風呂。和風な造りですが、語弊を承知で申し上げると、凡庸な空間構成ですね。板塀の向こうには巌立峡の断崖がちらっと望めます。こちらは内湯の主浴槽と同じ源泉を使用しているようで、赤みを帯びた強い濁り湯です。湯船は全体的に浅く、肩まで浸かるには若干体を寝かす必要がありました。この露天風呂では浴槽縁の石に析出が付着しており、こうした析出は主浴槽ではあまり見られませんでした(単に私の見落としかも)。外気に触れて冷やされることによって析出が現れやすくなるんでしょうか。
建物正面の駐車場脇には、かつて小坂森林鉄道で活躍していた機関車が展示保存されていました。キャブ内の機器はすべて取り払われていますが、駐車場敷地内には新しく敷設されたと思しき線路が100mほど敷かれており、もしかしたら復活運転でもするのかしら…。
お風呂に関しては、私個人的としては評価が難しいのですが、飲泉場のシュワシュワ炭酸泉は非常に個性的なので、この鉱泉を飲むだけでもここを訪れる価値は十分にあるかと思います。
(飲泉所・源泉風呂)
ひめしゃがの湯
含鉄(Ⅱ)-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉 24.3℃
(浴用)
ひめしゃが1号
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 46.0℃(加水後) pH6.67 湧出量不明(ガスを伴い強い圧力で間欠的に吹き上げるため測定不能) 溶存物質1.997mg/kg 成分総計2.282mg/kg
Na:421.3mg(78.2mval%), Ca:73.0mg(15.5mval%), Cl:192.2mg(21.5mval%), HCO3:1192.9mg(77.7mval%),遊離CO2:285.4mg
岐阜県下呂市小坂町落合1656 地図
0576-62-3434
ホームページ
10:00~21:00(最終受付20:30) 水曜定休
600円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★
(飲泉場の鉱泉は★★★)
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