伊豆山温泉 浜浴場

静岡県

 
師走も近づき肌寒い季節となってきました。寒くなると恋しくなる物の代表格は鍋や炬燵でしょうが、世間一般と感覚に乖離が見られる私の場合は、まず「濃い食塩泉」が思い浮かんでしまいます。夏に入ると、汗は引かない、体はベタつく、等々デメリットが目立つ濃い食塩泉も、厳冬期に入浴すればまるで懐炉を体内に埋め込んだかのごとく体の芯から温まり、しかもなかなか湯冷めしないので、まさに寒さ知らずの冬向きな温泉と言えます。今回はその極端な例をひとつ。

熱海から湯河原寄りへちょっと離れたところにある伊豆山温泉は、熱海とは一線を画す独特のお湯と風情があって、私はしばしば訪れて当地の雰囲気を楽しんでおります。以前当地は般若院浴場という温泉ファン絶賛の温泉共同浴場があって私も2度ほどお世話になりましたが、惜しいことに6年前に廃止され、現在当地の共同浴場は「浜浴場」が唯一となっているようです。伊豆山神社の階段参道の下部に位置するこの浴場は、地域の公民館と一体化された古い鉄筋造で、いかにも伊豆山らしく急な傾斜地にへばりつくように建てられており、地域住民にこよなく愛されている憩いの場であります。

建物直下の空き地が駐車場ですが、スペースが狭くて限られている上、伊豆山は急傾斜の狭い坂ばかりで他に駐車できるような場所もないため(ビーチラインの側道にちょこっと停められますが)、私が当地を訪れる際には電車・バスを利用するようにしています。

 
昭和の銭湯情緒が強く漂う館内。番台のおばちゃん(時によってはおじちゃん)に直接料金を支払います。とはいえ、私が訪問する時は大抵おばちゃんが表で地元の方とお喋りしていることが多いので、番台で支払った機会はあまりありません。常連が多く現金払いの客はあまりいないようですから、お釣りの準備が少ないことが多いようです(実体験に基づく)。このため外来の方はあらかじめ小銭を用意しておくことをおすすめします。
脱衣室内の、大きく番号がふられた木のロッカー(脱衣棚と表現すべきでしょうか)がいい味出していますね。同じ伊豆の「宇佐美ヘルスセンター」を思い出してしまいます。


(↑画像クリックで拡大)
古い静岡県内公衆浴場の脱衣所でよく見られる「入浴者心得」。この掲示はそんなに古い物ではないかと思いますが、「衞」や「洗はない」など、なぜが文字が一部が旧字体だったり昔の送り仮名だったりするんですよね。細かいことですが、見るたびに気になって仕方ありません。

 
浴室は男女別の内湯が一室ずつ。浴室内は総タイル貼りで、2分割された浴槽が据えられています。洗い場のカランは、お湯が押しバネ式で水は蛇口、計6組用意されています。

 
二分された浴槽の左側は加水された「ぬるま湯」で、右側は源泉ダイレクト。湯口のパイプは錆びついてデコボコになった表面の上からペンキを塗ってゴテゴテになっており、相当年季が入っていそうです。源泉の熱いお湯を湯船の上辺で滞留させないよう、パイプから出たお湯は塩ビの筒で底まで送っています。
湯船の湯加減は常連さんによって各自の好みに調整されているようですが、源泉ダイレクト槽はともかく、「ぬるま湯」については日によってコンディションが異なり、本当にぬるくなっている日もあれば、右側と大して変わらない時もありました。ダイレクト槽といっても入れないような熱さではなく、東京都内の銭湯のような湯加減でして(都内の銭湯は熱い!)、むしろ私は熱い浴槽の方が好きです。

お湯は伊豆山の名所「走り湯」前に鎮座する走り湯神社より50mほどの場所に1963(昭和38)年掘削された第二走り湯源泉を引いています。ほぼ無色透明ながら、うっすら黄色っぽい靄がかかったような濁りを帯びており、出汁のような匂いに磯の香りが混ざり、強いニガリの味に塩味が混在する所謂「にがじょっぱい」味で、苦みがとにかく特徴的ですから、この温泉を精製したら効率よく苦汁が取れそうな予感がします。そして味覚以上に主張の強いのが浴感でして、入浴中は食塩泉的なツルスベ感とともにカルシウム由来のギシギシ感が混在しているのですが、ちょっと入浴するだけで強烈に火照り、湯上りも延々と火照りが持続します。上がり湯に真湯を掛けないと、体がベトつくこと必至。このため寒い冬ですと外套要らずでいつまでもポカポカですが、夏は体力を奪われてたちまちヘロヘロ、夏に訪問すると、手ぬぐいで汗を拭いながら番台の前のベンチでぐったりうなだれている常連さんの姿を必ず目にします。季節に応じて入浴方法を工夫することが求められる、或る意味で玄人向けの温泉かもしれません。

個人的な見解としては、泉質といい 設備面といい、観光のついでに寄るような浴場ではないように思いますが、それだからこそ、泉質重視の我々としては魅力に惹かれてしまうのですよね。寒い冬はこちらのような濃い温泉に入ってしっかり体を温めてみるのもいいかもしれません。

第2走り湯
カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉 71.0℃ pH7.6 成分総計9242.1mg
Na:1170.0mg, Ca:2140mg, Cl:4858.0mg, SO4:853.2mg

熱海駅より東海バスの伊豆山(or湯河原)行で逢初橋or伊豆山中央下車、徒歩1~2分。あるいは熱海駅から徒歩15~20分(約1.5km)
静岡県熱海市伊豆山浜579-37  地図
0557-80-0210
伊豆山温泉観光協会ホームページ

14:30~21:30 木曜定休
350円
備品類なし

私の好み:★★★

コメント

  1. 齊藤樹 より:

    温泉研究家
    こんにちは。

    ここ、良さげですね。
    成分表を撮ってありましたら、配信をお願いします。

  2. K-I より:

    Unknown
    >齊藤さん
    こんにちは。先ほどメールでお送り致しました。
    ご確認ください。

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