川治温泉 薬師の湯・岩風呂

栃木県

 
雨の降りそぼる野岩鉄道・川治湯元駅に降り立ち、当駅の名誉駅長である「かわじい」の指さす方へと歩きだします。


川の方へひたすら下ること約10分強で「薬師の湯・岩風呂」に到着です。私がこちらの施設を訪れるのは約10年ぶりなのですが、4年ほど前にリニューアルされたらしく、以前は川下側に女性専用の露天風呂がひとつ、そして川上側に混浴の露天風呂がそれぞれありましたが、リニューアル後は女性専用露天風呂があったところに湯屋「薬師の湯」を建設して内湯と貸切風呂を設けたんだそうです。

 
「薬師の湯」の前には穏やかな表情の双体道祖神が佇んでいます。その向かいにあるお湯汲み場のお湯は止まっていました。

●岩風呂(露天)
 
内湯の窓口で料金を支払えば、その料金内で内湯も露天も利用できます。露天と内湯の両方を利用するつもりだった私は、まず内湯の券売機で料金を支払い、係員のおじちゃんの「岩風呂のロッカーは有料だから、ここのロッカーを使ってください」というアドバイスに従い、貴重品類は館内の無料ロッカー(100円リターン式)に預けてから、スリッパをお借りして「岩風呂」へと向かいました。

川治温泉のランドマークと言える観光名所「岩風呂」は、川沿いという爽快なロケーションにある混浴の露天風呂でして、混浴を苦手とする私は、まず利用前に、傍に架かる橋の上から当該地を眺め、お風呂に誰もいないことを確認します。ぱっと見たところは10年前とあまり変わっていないようですが、川沿いにある二つの湯船のうち、上流側のお風呂には目隠し用の衝立が新たに立てられていました。

 
橋の近くには「下流女湯」「上流男湯」と彫られた石標が立っており、この意味はリニューアル以前の男女区分を示したものですが、現在ではこの区分は適用されていません。


まずは更衣室から。2つある浴槽のさらに上流側に設けられています。混浴のお風呂でも脱衣所は男女を分けるのが一般的ですが、こちらは男女兼用となっており、しかも目隠しの衝立など無いため、川の対岸から着替えている様子が丸見えになってしまうという、かなり度胸が試される造りとなっているんですね。初めてここを利用した時(約15年前)にはまだ混浴というものに慣れていなかったのですが、初めて利用する私の羞恥心を一顧だにせず、お風呂から上がって堂々と着替えていたおばちゃんを目にして、当時の私は呆気にとられたのと同時に、昔の日本は男女の隔たり無く入浴や更衣を行っていたことを学習させられました。行政のよる施設の改修などが行われても、男女混用で外部から丸見えという構造は変わっていないのですから、全国のお風呂をめぐって行政の指導(風紀上の問題に対する是正)がいかに煩いかを目にしている私としては不思議な思いです。それだけ既得権は強いということなのか、あるいはこのようなスタイルを頑固として残してゆこうとする当地の独特の風土があるのか、真実のほどはわかりませんが、いずれにせよ現在となっては面白いスタイルであることには間違いありません。
なお上述の係員さんが教えてくれた通り、こちらの脱衣所のロッカーは有料ですから、できるだけ内湯のロッカーを利用した方がよろしいかと思います。

 
更衣室のすぐ隣にある上流側の湯船がこちら。全体をすっぽり包む屋根と目隠しを兼ねた壁に囲まれているため、露天というよりは内湯に近い雰囲気です。体を洗うためのカランなどはないため、桶で湯船からお湯を汲んで掛け湯することになります。

浴槽自体はとても大きく、山側の岩肌に取り付けられた木戸の向こう側から40℃くらいの源泉が流れ込んできます。源泉温度より高いのですから、おそらく加温されているのでしょうが、湯船では35~6℃程度まで下がっており、熱いお湯が好きな方には物足りない湯加減である一方、私のようなぬる湯好きにはたまらない長湯仕様となっています。また、この木戸からは管(ホース)が1本突き出ており「お湯を汲んだら栓をしてほしい」という旨が書かれた札が提げられていました。このお湯を持ち帰るお客さんがいるってことですね。試しにその栓を抜いてみると、はじめのうちはかなりぬるいお湯が出てきましたが、徐々にそのお湯は温かくなってゆきました。管は結構長いのかもしれません。

 
新たに立てられた目隠しです。恥ずかしがり屋さんにとっては、以前に比べればはるかに利用しやすくなっているようですが、完全に外部からの視線を防げるものではないので、ちょっと中途半端かもしれません。一方で、羞恥心なんて気にしない方にとっては、眺望が阻害されるので邪魔ものにしか見えないかもしれませんね。


こちらは下流側の湯船です。10年前に訪れた時と全く変わらない姿にほっとしました。上流側のお風呂と異なり、こちらはコンクリの東屋がのっかっているだけで、外部からの視線を遮るものは何もなく、特に橋から近いため、対岸はおろか橋の上からも思いっきり丸見えです。また湯船に張られているお湯も上流側の浴槽から溢れたお湯を受けているのか、32~5度くらいのかなりぬるい湯加減となっていました。


この湯船から川へ落ちてゆくお湯の量が半端じゃありません。もう一つの沢の量に達していると表現しても過言ではないほどです。
いくら川沿いの露天風呂とはいえ、周囲は日陰の谷の薄暗い環境であり、川を挟んだ対岸には高層の旅館が立ちはだかって景観も何もないため、開放感や野趣を期待すると裏切られる結果となりそうですが、お湯の量は圧巻であり、このお湯に浸かるだけでも十分に価値があるのではないかと思います。

●内湯
 
露天風呂を楽しんだ後は共同浴場へと向かいました。受付から続く廊下を歩いてゆくと、左手に男女浴室の暖簾が掛かっており、その間に挟まれて緑色した「貸切風呂」の暖簾もかけられています。関東では貸切風呂を備えている日帰り温泉施設はなかなかお目にかかれませんから、貴重な存在ですね。浴室入口の更に奥には「お食事処あじさい」がありましたが、訪問時は既にクローズした後でした。2階へ上がると休憩用のお座敷です。

 
脱衣所はそれほど広くないものの、整然としていて清潔で綺麗で、ドライヤーなども用意されているため、公営施設とは思えないほど使い勝手良好です。

 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が3つあり、各ブースが仕切り板でセパレートされているため、隣のお客さんとの干渉が防げます。また天井付近にはヒーターらしきものも設置されており、冷え込む冬季でも快適に利用できるようは配慮がなされています。
こうした設備面以上にこのお風呂で大きく評価したいのが、洗い場ゾーンと入浴ゾーン明確に区分したことです。観光地の日帰り温泉施設では、旅の恥はかき捨てと言わんばかりに、服を脱いだら掛け湯もしないでいきなり湯船に直行する不埒な輩がしばしば発生しますが、こちらの浴室では一旦洗い場を通り、引き戸を開けないと湯船がある入浴ゾーンへと行けない構造になっているため、洗い場ゾーンが緩衝地帯のような役割を果たし、湯船へ直行する輩の発生を相当数防げるのではないかと思います。

 
洗い場ゾーンからはサウナへも行けます。こちらのサウナは川に面して窓が設けられており、川面を眺めながら汗を流すことができるんですね。なお水風呂の存在は確認できませんでした。

 

入浴ゾーンには手前側が弧状のカーブを描いている台形状の浴槽がひとつと、小さな掛け湯枡がひとつ、それぞれ設けられています。


浴室は川に面して窓がない半露天状態であり、鎧戸状の格子の衝立によって眺望を確保しながら外部からの視線を防いでいます。時折川から吹いてくる風がとても爽快でした。

 

浴槽隅の湯口から加温された源泉が投入され、さらに浴槽中央の底にあるSUSの穴からも加温源泉が注がれています。これらのお湯は浴槽を満たした後、浴槽の切欠から大量放流(排湯)されてゆきます。湯加減は熱くもなくぬるくもなく、ちょうど良い塩梅です。
加温されているというのに、思わず見入ってしまうほどの量を惜しげもなく放流式の湯使いによって排湯しているのですから恐れ入ります。

お湯は無色澄明無味無臭、全く癖のない優しいお湯で、公的施設にもかかわらず消毒していない放流式の湯使いを実現しているところは大いに評価すべきです。受付のおじちゃんの明朗な対応も気持ちよく、さすが観光都市日光は他の自治体と違うな、と同市の当施設に対する姿勢に感心させられました。

共同浴場源泉
単純温泉 36.3℃ pH8.0 830.0L/min(自然湧出) 溶存物質0.286g/kg 成分総計0.287g/kg
Na+:64.1mg(78.95mval%), Ca++:12.6mg(17.83mval%),
Cl-:51.4mg(40.94mval%), SO4–:46.9mg(27.57mval%), HCO3-:59.8mg(27.68mval%),
H2SiO3:43.0mg,

野岩鉄道・川治湯元駅より徒歩10~15分(往路は下りだが、復路は登り一辺倒)
栃木県日光市川治温泉川治227  地図
0288-78-0229

10:00~21:00 水曜定休(12月30日~1月5日は無休)
500円(内湯・露天共通)
岩風呂(露天):100円有料ロッカーあり、他の備品類なし
内湯:100円リターン式ロッカー・ボディーソープ・ドライヤーあり

私の好み:★★★

コメント

  1. 八木澤 友史男 より:

    感謝
     はじめまして、私川治温泉薬師の湯支配人の八木澤でございます。
     今回、素晴らしい内容のブログに接しまして感謝致しております。このような原稿は温泉を知り尽くしていませんと決して有り得ません本当に有り難うございます。
     今後ともよろしくお願い致しまします。

  2. K-I より:

    Unknown
    八木澤様
    はじめまして。拙ブログをご覧下さりありがとうございます。そして記事をご評価下さり心から感謝申し上げます。薬師の湯では本当に素晴らしい湯浴みの時間を過ごさせていただき、心身を癒すことができましたので、その時の感覚をありのままに書かせていただきました。お湯の良さもさることながら、施設内の細かなところへ施された配慮に、僭越ながら感心した次第です。
    首都圏であのような素敵なお風呂は貴重な存在ですし、海外からのお客様も多く訪れるかと思いますので、是非これからも素晴らしいお風呂を私たちに提供し続けてください。また機会を見つけて伺わせていただきます。

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