いかにも湯野上温泉らしい古民家の民宿「扇屋」で立ち寄り入浴してきました。
駐車場の片隅には藤棚が頭上を覆う足湯が設けられていますが、雨が降っていたためか、この日は空っぽでした。
玄関はいまどき珍しい本物の土間です。上り框にはスリッパが整然と並べられており、高い天井には凧や草鞋など素朴な民芸品がたくさん飾られています。日帰り入浴をお願いすると、居間からお婆ちゃんが出てきて対応してくださったのですが、このお婆ちゃんがとても腰の低い方で、私が駅から歩いてやって来たことを知ると「雨の中をわざわざ駅から歩いてきたんですか。それはそれは…。お風呂ですか? もちろんどうぞ。はい?料金ですか? お代は後で結構なんですよ。それがここ(湯野上)のきまりですから。(私が先に支払おうとすると…)あらまぁ、先払いでなくともいいんですのに。すいません、頂戴します。ありがとうございます」と一つ一つに丁寧に答えてくださいました。そして、お風呂は岩風呂と檜風呂があるけれども、今はお客さんがいないから、好きな方に入って良いと有難い言葉を頂戴し、案内されるがままに廊下を歩いて、別棟にある浴室へと向かいました。
岩風呂と檜風呂のどちらが良いか、実際に両方を見させていただくことにしました。両浴室は男女が日替わりになっているらしく、この日は男湯の暖簾がかかっていた岩風呂をまず見学することに。
民宿というより昭和の古い中小規模旅館に見られる造りの脱衣室には、湯治宿のようなタイル貼りの古い洗面台がありました。棚には額に入った分析表が掛かっていますが、この分析表は後述する檜風呂の方には見当たりませんでした。
こちらが浴室内の様子です。浴室の戸を開けた途端に芒硝の匂いが室内から流れてきました。左右に飾りの岩が据えられているタイル貼りの浴槽は3~4人サイズで、岩組みの湯口から源泉が落とされています。タイルや岩の色調がモノトーンな感じであり、たとえ複数人で利用するとしても、一切会話せずに瞑目してじっとお湯に浸かっていたほうが相応しいのではないかと思われるほど、落ち着きと静寂と重みのある空気感が室内を支配していました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基、そして湯&水の蛇口の組み合わせが2セット設けられています。
一方、こちらは檜風呂。岩風呂に比べると、脱衣室も浴室も一回り小さく造られています。
檜風呂の浴室はこんな感じです。床のタイルが黒いために岩風呂同様落ち着いて重い印象を受けますが、腰部には白色系のタイルが用いられており、また浴槽や壁に木材を使っているために、落ち着きの中にも温もりが感じられます。浴槽は総檜造りでして、岩風呂よりも小さいものの、タイルのお風呂よりはぬくもりと優しさが伝わってきますので、今回は檜風呂へ入らせていただくことにしました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓と湯&水の蛇口が各1基(セット)ずつです。
檜の浴槽は2~3人サイズ。源泉がそのままの状態で投入されており、ちょっと熱めの湯加減でしたが、加水するほどではなかったので、薄めず熱いままで入浴しました。
この湯船に源泉を注いでいる樋が素晴らしく、湾曲している天然木を削って樋にしたものを、上手い具合に2本接続させて、湯船に対して直角に向いてお湯を落としているのです。このお風呂で樋になるために育ったのではないかと思われるほど、その材木は絶妙なラインを描いており、機能性と美的感覚を兼ね備えたこの樋は、温泉気分を更に高揚させてくれました。
使用源泉は中央貯湯槽の混合泉で、無色澄明、薄い芒硝の匂いと味が感じられる他、微かに何かが焦げたような油系の匂いも有しているようでした。また湯中では細かな繊維状の物が窓から入ってくる陽の光を受けてキラキラと輝いていましたが、これはおそらくお風呂の檜の繊維が溶け出たものであり、実際に浴槽の檜は角が取れて丸くなっていました。
木のお風呂は感触が柔らかく、湯野上の上品なお湯がますます優しく感じられます。岩風呂は見学だけだったので、迂闊なことは言えませんが、私の個人的な感想を申し上げれば、断然檜風呂の方が好きです。
湯上りにおばあちゃんへ挨拶すると「良いお湯だったでしょ。ここのお湯は飲めるし、ご飯を炊いてもお茶を淹れてもおいしいんだよ」と自慢げに話してくれました。いにしえの山村の趣きたっぷりなこちらのお宿、次回訪問時にはぜひ宿泊したいものです。
湯野上温泉中央貯湯槽(1・2・3・5・8号源泉混合泉)
単純温泉 57.2℃ pH8.2 1130L/min(動力揚湯) 溶存物質467.5mg/kg 成分総計467.5mg/kg
Na+:109.8mg(83.32mval%), Ca++:16.8mg(14.64mval%),
Cl-:83.0mg(41.55mval%), SO4–:112.5mg(41.58mval%), HCO3-:53.2mg(15.46mval%),
H2SiO3:72.1mg,
会津鉄道・湯野上温泉駅より徒歩15分
福島県南会津郡下郷町湯野上字居平乙786 地図
0241-68-2254
ホームページ
立ち寄り入浴可能時間不明
500円
シャンプー類あり、他備品なし
私の好み:★★★
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