今回紹介する温泉は、バルケシルの市街から40kmほど北へ離れた田舎町に湧く「ウルジャ(Ilıca)温泉」です。拙ブログではこれまで既に、キュタフヤ県の「ウルジャ・ハレルク温泉」や「ウルジャス温泉」など、ウルジャと名乗る温泉をいくつか取り上げていますが、この”Ilıca”(これでウルジャと読みます)という言葉は温泉を意味するんだそうですから、日本の温泉地に「○○湯」という地名が多いのと同じようなものですね。バルケシル市街からバンドゥルマ方面へ幹線道路D565号を北上し、途中に現れる標識が示す方へ逸れて北西へ伸びる田舎道をひた走ります。フロントガラスの向こうには、どこまでも平たい丘や耕作地が果てしなく広がっていました。
D565号から29kmでウルジャの街に入りました。車が走ると砂塵が舞い上がり、沿道の民家は地味で古臭く、屋根や壁がボロボロな見窄らしい陋屋が多くて、夕焼けの薄暗さが余計に哀愁を漂わせています。
前時代的な佇まいの街を抜けると、集落の外縁を流れる川に橋が架かっており…
その川沿いには、オレンジ色の塗装が目立つウルジャ温泉のホテル”Aytaç Termal Otel”が建っています。このホテル棟の手前にはドーム屋根が連なっていますが、ここが今回の目的地であるウルジャ温泉のハマムであります。ホテル棟の下の川原には黒いテントが張られており、その下では湯気が上がっていたのですが、源泉かそれに準じたものがあるのでしょうか。
橋を渡った先に駐車場があるので、そこへ車を停めて、”AYTAÇ TERMAL”と記されたゲートを潜ります。手前のドーム屋根が男女別の公衆浴場、奥の建物がホテルです。
ハマムの向かい側に番台があり、窓口で入浴をお願いしますと、係員のおじさんは日本から一人でやってきた私を笑顔で歓迎してくれました。貴重品を保管するロッカーは番台の室内にありますので、各自で番台の中に入り、自分で施錠します。この番台では石鹸など風呂道具の他、タオルの貸出やソフトドリンク類の販売も行っています。バスタオルは無料で貸してくれました。
浴場は男女別に分かれています。まずは入口ホールでスリッパに履き替えるのですが、トイレのドアが開きっぱなしだったため、そこからの臭いが漂っていました。日本の温泉でも鄙びた古い施設ですと、どこからともなく雪隠臭が漂ってくることがありますから、田舎の温泉とトイレの臭いって、妙な親和性があるような気がしてなりません。
入口ホールから左へ更衣室が伸びており、簡易ベッド付きの小部屋が数室並んでいました。ベッドは湯上がりに休むためのものですけど、この時はお客さんが私以外に誰もいなかったので、その小部屋を荷物置き場として独占使用させてもらいました。更衣室はションベン臭いし、全体的に古臭くて薄暗い。しかも、街そのものも典型的な鄙びた田舎町で、正直申し上げれば文化的な香りが感じられません。そんな場所の浴場ですから、この時点ではお風呂に対してちっとも期待をしていなかったのですが…
浴室へ入った途端に浴場の迫力に圧倒され、その場に立ち尽くしながら「こりゃスゲー」と思わず口に出してしまいました。奥行きが20メートルはありそうな大変立派な造りの浴場内には、美しいタイルと大理石が多用されており、小・大・小という3連ドーム天井の下に、清らかに澄んだお湯が湛えられている大きな湯船が据えられています。ウルジャの皆様。田舎町だの文化の香りがしないだとの貶してしまい、申し訳ございません。
広い浴室の両端に洗い場が設けられています。上画像は更衣室出入口に近い方のものです。総大理石という贅沢な造りで、滑らか且つ上品な肌触りが何とも言えません。水栓と大理石の鉢が計6組、壁沿いに並んでおり、水栓から出てくるお湯はもちろん温泉で、その温度は48.0℃でした。
浴槽を挟んだ反対側にも洗い場があり、水栓&鉢のペアが3セット並んでいるのですが、こちらには垢すりなどで用いる大理石の台が設けられていました。この台は温泉熱で温められており、その上で横になってみると、大理石の滑らかな感触からジワジワ伝わってくる温かさが大変気持ちよく、睡魔に襲われそうになってしまいました。
浴槽や床などに用いられている大理石はもちろんのこと、壁のタイルが実に美しい。一枚一枚に細かな絵付けが施されたタイルが壁一面に貼られており、美術作品の域に達するほどの秀麗さで入浴客を魅了してくれます。(あくまで個人的な印象として)イスラム圏の文化は青系の色彩美が秀でているのですが、この浴場でも同様の洗練された美意識が見られ、こうした豪華な施工を通じて、ウルジャの方々が温泉入浴という文化をいかに大切にしているかが、伝わってくるようでした。
まるでプールのような大きさの浴槽は総大理石造りで、おおよそ12m×5mといったところ。槽内側面に突き出たパイプより源泉が投入され、プールサイドからオーバーフローしています。溢れ出るお湯の量から推測するに、投入量はかなり多いようです。壁のタイルも美しければ、この浴槽が湛えているお湯もまた綺麗であり、実にクリアで濁りは寸毫もなく、底に敷かれた大理石の模様も明瞭に見えます。一般論として、湯船のお湯は浴槽の素材によって変色して見えることがありますが、こちらの場合はお湯の透明度が高いためか、淡い水色を呈しているようでした。この時の湯加減は43.1℃で、まさに日本人向きです。
細かな能書きをひと通り垂れたところで、いざ入浴です。無色透明でほぼ無味無臭、癖が無くアッサリとしたタイプのお湯です。澄み切った見た目から抱く印象の通り、お湯のフィーリングは滑らかで柔らかく、お湯の中で肌を擦るとはっきりとしたスベスベ感が得られました。お湯のみならず、大理石の感触も大変上品。こんな瀟洒な大浴場がわずか10リラで利用できるのですから、トルコの温泉文化って実に素晴らしいですね。とても片田舎の公衆浴場だとは思えない、お湯も内装もブリリアントなお風呂でした。おすすめ。
GPS座標:N39.875558, E27.770935,
バルケシルから路線バスがあるらしく、番台に時刻表が掲示されていたので、以下のその時刻を転記します。
バルケシル発9:00, 10:30, 11:30, 13:00, 14:30, 16:00, 17:00, 18:00, 19:00,
ウルジャ発7:00, 8:00, 9:00, 10:30, 11:30, 12:45, 14:15, 15:30, 17:00,
利用時間不明
10リラ
ドライヤーあり、石鹸など販売あり
私の好み:★★★
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