前回取り上げた「安代大湯」から渋温泉へ向かって数十メートル進んだ左手にある安代温泉のもう一つの共同浴場が「開花湯」。石畳の通りに面して男女別の出入口が並んでいますが、扉には「此の風呂は鍵が掛けてあります」と描かれているように、鍵を持つ組合員か、宿から鍵を借りられる安代温泉宿泊客以外は利用できません。「安代大湯」は風格ある伝統的な湯屋建築でしたが、こちらは両側の建物に挟まれた猫の額のような敷地に建つ、こぢんまりとした渋い佇まいの湯屋です。
解錠して中に入ると、靴が3足しか置けないほど狭い下足場を挟んで、すぐ先に脱衣室があり、この室内も棚しか設けられていない極めてシンプルなもの。2人同時利用でいっぱいになっちゃいそうな狭さですが、そんな狭隘感を払拭するためか、浴室との仕切り塀にはガラスブロックが用いられており、また浴室へのドアにはオレンジ色の半透明樹脂がはめ込まれ、結果的に昭和の場末のスナックみたいな感じになっちゃっています。またこのドアはサッシがちょっと曲がっているため、固くてちゃんと閉まってくれずに難儀しました。
浴室はタイル張りで浴槽は一つ。余計な設備がない極めて簡素な造りです。「開花湯」という雅やかな名前が見かけ倒しに思えるほど、脱衣室も浴室も簡素でシンプルですが、地元の方が日々の汗と垢を流すため実用的な施設ですから、これで十分なのですね。
洗い場にはガラスが設置されているものの、湯船への加水用蛇口以外にカランは無く、掛け湯する場合は湯船から桶で直接汲むことになります。私の訪問時はケロリン桶が綺麗に積み上げられており、その美しい姿から、地元の方の欲情に対する愛情が伝わってきました。
浴槽は総タイル貼りの3人サイズで、縁は紺色、槽内は水色というブルー系統でまとめられています。「安代大湯」と同じく湯船に温度計が取り付けられており、その針は46℃を指して…。えっ!? 46℃? 相当熱いじゃありませんか。私は熱いお湯に入る鍛錬を積んでいますから、この程度の温度なら入れないことはありませんが、じっくり寛ぐような入り方はできませんね…。
湯口は壁に直付けされており、丸い口からトポトポと熱々のお湯が注がれていました。湯船のお湯は紺色タイルの縁の上から絶えず溢れ出ており、浴槽の容量に対して投入量が多いためか、湯船のお湯はとってもクリア。使用源泉は安代温泉の他施設と同じく「共益会11号ボーリング源泉」で、微塩味と弱石膏感および弱芒硝感があり、少々のトロミを伴うツルスベ浴感の中に、ちょっとした引っかかりが混在しています。熱いのでしっかり湯もみしてから入浴したところ、お湯から得られる鮮度感は「安代館」の各浴室や「安代大湯」よりも良く、また匂いや味などの質感もはっきりしており、熱さもあいまって心身がシャキッとする気持ち良さを楽しむことができました。
お風呂の造りとしては簡素ですが、お湯の良さは折り紙付き。お湯と対峙してその個性や味わいを楽しむという意味で、たしかに私の感性の花は開いたのかもしれません。
共益会11号ボーリング
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 91.7℃ pH8.2 溶存物質1.623g/kg 成分総計1.623g/kg
Na+:362.1mg(76.17mval%), Ca++:64.6mg(15.59mval%),
Cl-:533.8mg(70.25mval%), Br-:2.7mg, I-:0.7mg, HS-:0.3mg, S2O3–:1.4mg, SO4–:257.0mg(24.96mval%), HCO3-:38.2mg, CO3–:7.0mg,
H2SiO3:202.3mg, HBO2:89.5mg,
(平成24年5月2日)
長野県下高井郡山ノ内町平穏 地図
地元住民(組合員)および安代温泉の旅館宿泊客以外利用不可
備品類なし
私の好み:★★+0.5
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