信州・渋温泉の楽しみと言えば外湯巡りです。浴衣を羽織り下駄を鳴らして石畳の温泉街を歩くと、自分がたちまち古の一時へタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。当地にある外湯計9ヶ所のうち、大湯以外はみなこじんまりとした小さな湯屋です。この外湯9ヶ所を全て巡ると、九(苦)労を流して満願成就、厄除けや安産・不老長寿にご利益があるとされています。各浴場とも建前では地元民専用というスタンスを取っており、当地に宿泊している客に限って宿で鍵を借りて無料で利用することができるのですが、実質的には地元の方より観光客の利用の方が多いような気がします。みなさん満願を目指しているんでしょうね。
一番湯 初湯
渋の外湯巡りは一番湯の「初湯」から取り上げていくことにしましょう。
注連縄が掛けられたり入口に幕が提げられたりと、小さな神社を思わせる佇まいです。でも当地の文化には仏教信仰の色が濃いので、この外観は昔ながらの神仏混淆の顕れと捉えたほうが良いんんでしょう。
この初湯は奈良時代の僧侶である行基が最初に発見し、托鉢の鉢を洗ったことに因んで鉢湯と名付けられたものが、いつの間にやら初湯に転じて今に至っているんだそうです。
浴室は木造の湯船、簀の子状の洗い場、側壁も羽目板貼りと、木造に拘った造りです。伝統ある湯屋にはやっぱり木造が相応しいですね。湯口から短い筧を通して熱い源泉が投入され、その筧には白い硫酸塩の析出がビッシリこびりついています。お湯は黄土色に濁り、弱い金気臭&石膏臭が漂い、金気味+口腔をちょっと収斂させる弱い酸味が感じられます。お湯の濁り方はその日のコンディションによって異なるようで、あまりはっきり濁らない時もあるようです。
訪問時はメチャクチャ熱くて、水で薄めないと入れませんでした。前に誰か入っていれば、その人が水で薄めて適温になっていたはずですが、この時は暫く誰も入っていなかったのでしょう。ま、これも源泉をそのまま投入しているからこそなんですけどね。
(画像クリックで拡大)
脱衣所には木板に記された昭和24年の分析表が掲げられていました。
初湯の地図
荒井河原比良の湯・山ノ内町横湯(温泉寺)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 75.7℃ pH4.3 溶存物質1145.3mg/kg 成分総計1196.3mg/kg
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二番湯 笹の湯
かつては笹薮の中から湧出していたという話が残っているのが「笹の湯」。
こちらも小さな神社か祠みたいな雰囲気です。小さな建物ながらその前面を覆うかのように構える破風が立派ですね。
表の道路に面したところにはお湯を汲むためのコックが設けられており、早朝にここを通ると、白衣を来た板前さんがお湯を汲んでいました。
内部は小さな湯屋の多い渋の外湯の中でも一二を争う狭さかもしれません。
浴槽は3人サイズですが、形状が台形で奥のほうが先細りなので実質的には2人しか入れないでしょう。湯口が樋でなく鉄パイプとバルブで、浴槽や洗い場はタイル貼りというごく普通の共同浴場なので、いまいち風情に欠けてしまいます。
お湯は初湯と同じ源泉(温泉寺源泉)を使っていますが、湯使いが違うのか、初湯のように濁っておらず、かすかに赤みを帯びた笹濁りでした。弱く金気の臭いと石膏臭を帯び、金気味+口腔をちょっぴり収斂させる酸味が感じられます。金気のために湯口や排水溝、そして洗い場のオーバーフロー部分は赤く染まっていました。またお湯の中では小さな白い湯の花も浮遊しています。
笹の湯の地図
荒井河原比良の湯・山ノ内町横湯(温泉寺)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 75.7℃ pH4.3 溶存物質1145.3mg/kg 成分総計1196.3mg/kg
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三番湯 綿の湯
渋温泉の外湯の中では最も西側に位置する浴場。白い湯の花が多く、それが綿花を連想させるために綿の湯と名づけられたんだそうです。破風が連なる立派な玄関に高い天井を湯気抜きを備えた、風格ある湯屋です。でも内部は実用本位のタイル貼り。
3人サイズの浴槽は、側面が水色タイル、縁が御影石、底が石板敷きで、底は成分析出によって赤く染まっています。お湯は樋やバルブなどを経由することなく、直接浴槽へ投入されています。
こちらで使われている源泉は渋温泉総合源泉で、小規模旅館によく配湯されているものです。ほんのり赤みを帯びた弱い貝汁濁りで、白系半透明の小さな湯の華が舞っており、その幾つかは纏まって大きくなっていました。湯の華は目立つほど多くはありませんでしたが、これが綿の湯の名前の由来なんでしょうか(昔と現在とでは使用源泉が違うかと思いますが…)。弱く口腔が収斂するような酸味と金気味を有し、弱い金気臭と石膏臭が感じられ、キシキシとした浴感、トロミのあるお湯でした。
なお洗い場には上がり湯用の小さな槽も用意されています。こちらのお湯はちょっとぬるめでした。
(画像はありませんが、浴室上部には木板に書かれた古い分析表が掲げられていました。でも設置位置が高く、男女浴室の間にあるため、仕切りが邪魔してよく読めませんでした。まぁ分析表としてではなく、古い湯屋のオブジェとして見ればいいんでしょうけど)
綿の湯の地図
渋温泉総合源泉(比良の湯・薬師の湯及びとんびの湯の混合泉)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 57.7℃ pH4.0 溶存物質1159mg/kg 成分総計1204mg/kg
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