ダイアナズ・パンチボール  Diana’s Punch Bowl

アメリカ


まずは、アメリカ・ネバダ州の中央部を捉えたGoogleマップの衛星写真をご覧ください。
おおまかに言えば、左側の青い一帯は太平洋。海沿いにサンフランシスコの街が位置し、そこからシエラネバダ山脈を越えた東側の茶色い陸地がネバダ州です。ネバダ州の中央部では南北方向に山脈がいくつも並んでおり、その山脈に挟まれる形で谷も同じ方向に行く筋も並んでいます。この衛星写真の中央部を拡大してみると・・・


南北に伸びる谷のひとつであるモニターバレーの地面に、巨大な穴がポッカリあいているのです。実に不思議な地形なのですが、この大地にあいた大きな穴の正体は、なんと天然温泉の源泉だというのです。そこで、どんな場所なのか実際に行ってみることにしました。

 
人工物が全くない荒野のモニターバレーを南北に貫く広い未舗装路、ネバダ州道82号線。前回記事で取り上げたモニターバレー温泉(Pott)からこの州道へ戻り、砂埃を上げながら南下してゆきます。

 
左手(州道の東側)の車窓には緑の放牧地が広がるのですが、そんな緑の大地の中に突如としてオフホワイトの小高い丘が現れます。モニターバレー温泉への分岐点から4.8マイル南下すると、周囲の景色の中で明らかに浮いているこの白い丘へ向かう路地が分岐しますので、路地に入って東進します。

 
小高い丘の目の前までやってきました。上述のように周囲は放牧地であるため、牛が丘へ侵入しないよう有刺鉄線のフェンスが張られていますが、一部はゲートになっており、容易に取り外せますので、車をフェンスの前に止め、一旦ゲートの鉄線を外してそこから中へ入り、入ったら再びゲートを閉めておきます。そして歩いて丘を登っていきます。

 
斜面に転がっている石ころなどから推測するに、この白い丘は全体がどうやらトラバーチン、つまり石灰岩の一種で成り立っているようです。なだらかな斜面にはところどころに花が咲き、荒涼とした丘の表面に彩りを添えていました。麓から丘の頂上までの高度は大したことがないのですが、登る途中で辺りの景色を眺めてみますと、放牧地の牛が点に見えるほど高度感があることに気付かされます。

 
丘を登りきると、そのてっぺんには衛星写真で見た巨大な穴が口を開けていました!! そして穴の底には青々としたお湯が溜まっていました。穴を覗きこんで内部をよく見ますと、水面からは白い湯気が上がっているので、かなり熱いお湯であることが窺えます。画像ではその穴の大きさがわかりにくいかと思うので・・・


三脚を立ててカメラに12秒のタイマーを設定し、ダッシュで穴の反対側に回り込んで、自分撮りしてみました。どうですか、大きさをわかっていただけましたか? 12秒でギリギリ反対側へ廻れるほど、かなり大きな穴なのです。
この穴は「ダイアナズ・パンチボール」(Diana’s Punch Bowl)と称されています。”punch bowl”を辞書で調べると次の2項目が出てきます。
 1:パンチボウル。半球形の大きなガラス製ボウル
 2:山間のくぼ地
この場合は後者ですね。長年にわたって自噴する温泉により、まるで成層火山のように石灰質が積み重なって大きな丘となり、お湯が湧出し続けるところだけ穴ぼこになって残ってしまったのでしょう。もし日本に同じようなものがあれば間違いなく観光名所になっているはずですが、ここアメリカでは見向きもされないらしく、丘の周りには牛のフンが転がるばかりでした。とはいえものすごい迫力ですよね。

 
改めて穴の中を覗いてみましょう。底深いところに溜まっているお湯は極めて透明度が高いのですが、湯面の縁と岸が接するところは赤茶色く染まっているところから推測すると、おそらく塩化土類泉かそれに類する泉質の温泉ではないかと思われます。また他からお湯が流入できるような環境ではないため、この穴の底から自噴しているのでしょう。できれば穴の下まで行ってみたかったのですが、どこの崖も垂直に落ちているため、素人が下りられるような状況ではなく、仕方なく上から覗き込むだけにとどめました。

 
丘の外側、特に車を止めた場所とは反対側の麓には小川が流れています。これは衛星写真でも確認できます。私はこの小川にちょっとした予感を覚えたので、丘を下って小川へ向かってみました。

 
丘の外側の東麓を流れる小川は、透明度が極めて高いのですが、両岸が淡い橙色に染まっており、巨大な穴の内部の縁と似たような状況になっています。私が覚えた予感とは、この小川を流れる水の温度。温度計で測ってみますと41.1℃という入浴に適した温度でした。予感的中! 両岸にこびりついている淡いオレンジ色の正体は、温泉成分の付着というより温泉藻の繁殖によるものでしょう。小川が深くなっているところを探し当てれば、ここで野湯を楽しめるかもしれない。ということで・・・


入れそうな場所を見つけ・・・

 
入っちゃいました。
ここの温度は44℃ですから、先ほどの場所より3℃も高いのですが、それもそのはず・・・

 
川底からも砂を吹き上げながらお湯が湧いており、それによって温度が上がっているのでした。お湯の供給源は2つ考えられ、一つは丘の底の穴で湧いたものが、地下水のような形で一旦地中に潜った後、改めてこの場所で地表に現れているというケース。もう一つは、この場所で直接湧いているというケース。おそらくこのいずれかでしょう。
湯加減としては良いのですが、川底に沈む大量の湯泥が一気に上がって、たちまちお湯が泥で濁り、しかもズブっとかなりの深さまで体が泥の中に潜ってしまうため、湯中に浸かる私の体もたちまち泥まみれ。あまり気持ち良い湯浴みとはなりませんでした。
とはいえ、大きなトラバーチン丘の真ん中にできた巨大な穴の迫力には圧倒されます。しかも観光地化が全くされていないので、温泉がつくりあげたこの自然の造形美を、ありのままの姿で見学することができるのです。日本語メディアではあまり紹介されていないようですが、もしネバダを旅するときには、訪問地の候補としてご検討なさってはいかがでしょうか。


GPS:39.030227, -116.666527,

野湯につきいつでも入浴可能。穴の内部は危険。
※周囲にはお店が全くありません。ガソリンスタンドは皆無です。携帯の電波も飛んでいません。
食料や水分、そしてガソリンを十分に確保しておくことをおすすめします。

私の好み:★+0.5(穴の迫力と景観は★★★)

コメント

  1. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    こんばんわ^^。
    日曜日の夜、いつもの様に湯上りに当ブログへ。
    グイグイと読み進め、圧倒的なアメリカ編を経て、
    更に読み進めて参りました。シエラネバダの景観は、
    正に圧倒的過ぎて、非現実的にすら思えるほどでしたが、
    そこにK1殿の定番のガッツポーズが眩しく輝き、
    今回の記事で思わずコメントを書いてしまいました^^。
    いつにも増してK1殿の行動力には驚かされますが、
    この穴に万が一落ちてしまったら自力で上がれるのでしょうか???
    源泉の色も、何やら死海の様な色合いになっており、
    これに入ったらどうなるのでしょうか・・・^^?

  2. K-I より:

    Unknown
    ぬる湯マスターさん、こんばんは。
    おっしゃるように、アメリカの景観には圧倒され続け、徐々にその非現実性に麻痺してしまいそうになりました。そんな景観の中で湧く温泉もまた素晴らしく、どうしてもっと早く行かなかったんだろうと、少々後悔しているほどです。ワイルドな温泉が好きな方ならぜひともお勧めしたいところばかりです。
    ところでこの穴ですが、穴の内部の崖はほぼ垂直にストンと落ちているので、落ちたら果たして這い上がってこられるかどうか。しかもその底で湧く温泉は相当熱いようですから、抜け出せない地獄釜のような状態かもしれませんね。

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