四万温泉(日向見) 中生館

群馬県

拙ブログでは全国の温泉を広くあまねく取り上げているつもりですが、なぜか有名温泉地にもかかわらず手薄になっている場所があります。群馬県の四万温泉はその代表例。特段恨みがあるわけでも敬遠しているわけでもないのですが、なぜか10年前に1軒(御夢想の湯)しか取り上げてきませんでした。そこで今日から連続して四万温泉を取り上げてまいります。2019年の初夏に四万を訪れ、日帰り入浴を楽しんでまいりました。


四万川の渓谷に沿って南北に広がる四万温泉は、日向見、ゆずり葉、新湯、山口、温泉口という5つの地区に分かれており、最も奥に位置する日向見地区は四万温泉発祥の地とされています。まずはこの日向見へ向かい、10年前に拙ブログで取り上げた共同浴場「御夢想の湯」の隣にある温泉旅館「中生館」を訪ねます。


扁額は立派なのですが・・・


正直なところ地味な外観であるため、宿名が書かれた看板に気づかなければ、この建物が旅館であるとわかる方は多くないかもしれません。玄関を開けて日帰り入浴をお願いしますと、対応してくださった女性スタッフの方は、建物の控えめな存在感と同化するかのように慎ましやかな佇まい。一旦中に入って、様子を確認した上で私の入浴を受け入れてくださいました。


その女性の方がお風呂の入口まで案内してくださいました。お風呂へ向かう途中の廊下には、爽やかな色合いのタイルが貼られた共用洗面台が設置されており、昭和のレトロな面影を色濃く残しています。


また、その洗面台の前にはアメニティ類やフェイスタオル、そして飲料水のサービスなどが用意されていましたが、これらは宿泊者用かと思われますので、日帰り入浴の私は持参したタオルを使用しました。

館内にあるお風呂は4つ。いずれも共用洗面台の奥にあるステップをちょっと下った先にあり、手前側が内風呂「槙の湯」、ステップ下の右側に内風呂「薬師の湯」、正面にある脱衣所の向こう側に露天風呂「月見の湯」、そして沢の対岸にある混浴露天風呂「かじかの湯」といったラインナップです。日中は「槙の湯」が女湯、「薬師の湯」が男湯という設定になっていますが、夜7~9時の間は男女暖簾替えとなるので、宿泊すると両方入れます。とはいえ、日帰り入浴利用の私は男湯にしか入れませんので、今回の記事で取り上げるのは「薬師の湯」と「月見の湯」です。


源泉名と同じ名前を冠する浴室「薬師の湯」は、まさに山の湯小屋といった風情。木造の上屋は川に向かって下る片傾斜の屋根で、足元には石が敷かれています。窓の外からは直下を流れる沢の音が聞こえ、山の緑も実に美しい。なお室内にシャワー等の設備はありません。昭和から時が止まっているかのような佇まいですが、それゆえ実に趣き深く、じっくりお湯と対峙するに相応しい静謐の空間です。


浴槽は2つに分かれており、両方とも2人サイズですが、ひとつは浅めで、他方は一般的深さ。その2つの間に湯口があり、双方に対して温泉をトポトポと投入しています。湯口の周りには羊の頭のような白い析出がビッシリと付着しており、温泉成分の多さがビジュアル的に伝わってきます。

綺麗に澄み切った無色透明のお湯は完全掛け流しで、それゆえちょっと熱く感じる湯加減かもしれず、また硫酸塩泉なので、お湯に入った瞬間、脛などにピリっと軽い刺激を覚えるかもしれませんが、でも一旦肩まで浸かって体をお湯に慣らすと、この上なく良い湯加減に感じること間違いありません。とても素晴らしいお湯です。


続いて、露天風呂へ向かいましょう。
露天の脱衣室には温泉を詠んだ俳句がたくさん貼られていました。句を嗜む方は、湯浴みしていると気持ち良くなって、自ずと句が思い浮かぶのでしょうか。俳句の才が皆無な私には全く思い及ばない世界です。


内湯同様、露天風呂の浴槽も石造りですが、内湯と違って2分されておらず、その代わり中央にテーブルみたいな大きな岩が沈められています。おそらくこの岩に腰を掛けたり凭れ掛かったりするのでしょうけど、その大きさが入浴スペースをつぶしているため、実際に肩まで浸かれる部分は狭く、露天に入れる人数はせいぜい2~3人程度でしょうか。
内湯よりも若干ぬるいので、どちらかといえば長湯向き。沢を吹き抜ける風を体に感じながら入るお風呂は格別の気持ち良さがあるでしょうね。

さて、この露天風呂にはサンダルが並べられています。
これを履いて塀を出て、階段を下り・・・


いまにも落ちそうなボロい橋で沢を渡たると、対岸でお湯を湛えているのがお宿ご自慢の露天風呂「かじかの湯」です。この「かじかの湯」は混浴であり、水着やバスタオルの着用が認められています(バスタオルは借りられます)。通年利用できるわけではなく、5月中旬~10月中旬まで入浴可能とのこと。お宿のホームページによれば7~9月の夏季が特におすすめなんだそうですが、沢沿いという環境ですから、ブヨやアブがちょっと心配です・・・。でも私が訪れた日は雨が降っていた上、梅雨寒だったため、あたりを飛び回る虫は皆無で、とっても快適な湯浴みが楽しめました。なお浴槽の脇には簡素な脱衣用の衝立と籠がありますから、ここで着替えることもできますね。


沢岸の岩盤上に石を積んで重ねて作った浴槽2つ並んでいますが、奥(上流側)はぬるいので、実質的に入れるのは手前側だけでした。大きさは2人サイズ。湯口からトポトポとお湯が落とされており、完全掛け流しの綺麗なお湯で、湯加減も絶妙。お湯に浸かるとお世辞抜きで夢心地でした。


沢の岸にひっそりと佇む秘湯然とした素晴らしいロケーション。
目の前を流れる沢は大変綺麗で、イワナの魚影もはっきりと見えました。山の緑も美しく、心まで洗われます。

さて、こちらのお風呂に引かれている源泉は薬師の湯源泉。無色澄明で、ほんのりとした石膏臭や弱芒硝味、そしてしっかりとした石膏味や硬水らしい味(重くて硬く、砂ではないが鉱石を連想させるような味)が感じられます。湯中ではキシキシと引っかかる浴感が得られますが、しっとり且つとろとろとしており、実に上質なフォーリングを有するお湯です。そして適温にもかかわらず硫酸塩のパワーが如何なく発揮されることにより非常によく温まります。完全放流式の極上湯です。

設備がとても古く渋い佇まいであるため、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、少なくとも私は大変気に入りました。今度は泊って時間を気にせずゆっくり湯浴みしたいものです。

薬師の湯
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 48.2℃ pH8.9 9.6L/min(自然湧出) 溶存物質1.13g/kg 成分総計1.13g/kg
Na+:113mg(29.95mval%), Ca++:229mg(69.31mval%),
Cl-:47.1mg(8.64mval%), SO4–:662mg(89.95mval%), CO3–:10.2mg
H2SiO3:67.4mg,
(平成13年3月28日)
加温加水循環消毒なし

群馬県吾妻郡中之条町大字四万乙4374
0279-64-2336
ホームページ

日帰り入浴10:00~14:00
500円
シャンプー類あり・ロッカー及びドライヤー見当たらず

私の好み:★★★

コメント

  1. ぬる湯マスター より:

    こんばんわ。
    「ぬる湯とは 私の為に あるのだよ」

    すみません、私に俳諧のセンスは皆無でした(><)
    え、ここ外から丸見えじゃないの?と思いましたが、
    やはり水着やタオルの着用OKなのですね^^;
    私の様な露出狂なら別にみられてもOKなのですが。

  2. K-I より:

    Unknown
    ぬる湯マスターさん、こんばんは。
    屁理屈ばかりで端的な説明や描写が苦手な私は、5.7.5の才能が皆無なので、俳句川柳を詠める方を心から尊敬しちゃいます(苦笑)。露天風呂かじかの湯はとっても雰囲気が良く、とても気に入りました。

  3. Takema より:

    Unknown
    こちらのお宿、実は自分と遠縁ではありますが親戚だったりします。

  4. K-I より:

    Unknown
    Takemaさん、こんばんは。返信が遅くなり申し訳ありません。
    なんと!遠戚の方だったんですね。いま、Takemaさんの2008年の記事を拝見し、Takemaさんとお宿とのご関係や、内湯とかじかの湯の関係がよくわかりました。温泉を愛する心は、この四万・日向見の地に起源があるのかもしれませんね。
    なかなか駒の湯でお会いできませんが、いずれ現地でお目にかかりたいと思っております。

  5. Takema より:

    Unknown
    古い記録をご覧いただきありがとうございます(自分でも竹の話はすっかり失念していました)。もう一度母が元気なうちに連れていきたいな、いや、行かなくちゃ。

  6. K-I より:

    Unknown
    Takemaさんの決断力や行動力を学び、私も親孝行しなければ…と反省しております。

タイトルとURLをコピーしました