人吉温泉 鶴亀温泉

熊本県

熊本県球磨地方の人吉盆地は、至るところに風情ある温泉の共同浴場が存在している、温泉ファンにとって垂涎の聖地です。当ブログではこれまで熊本県の温泉を取り上げてこなかったので、今日を皮切りに次々と紹介させていただく所存です。まずは人吉盆地の中でも私が特に気に入っている鶴亀温泉から参ります。

数ある人吉の温泉浴場の中でも、ここ鶴亀温泉は最も鄙びた雰囲気を漂わしている浴場ではないでしょうか。戦前に建てられ、一部は手が入れられているものの、ほぼ当時のままの姿を残している年季の入った湯屋は、表通りから奥に入った路地に面しており、あまりに地味で民家と変わり映えしないため、気をつけて探さないと見過ごしてしまうこと必至です。
玄関入ってすぐのところに番台があり、お婆ちゃんが愛想よく対応してくれます。民家の広間のような脱衣所を見回すと、昭和の香りがプンプン。まるでここだけ時計の針が止まってしまったかのようです。棚は無いので、荷物や衣類は籠に入れます。浴室入口の上には旧かな遣いで書かれた「入浴者の皆様え」と題する心得書きが掲示されており、その日付を見ると昭和24年となっていました。

 
左:脱衣所から浴室を眺める
右:浴室入口上に掲げられた心得書き。8項には「痰壷」という語句がでてきますが、結核の恐怖が薄らいだ今となっては完全に死語ですね。また1項では混浴させてはいけない年齢が「七才」からと訂正されていますが、訂正以前は何歳がリミットだったのでしょうか。

 
いずれもかなりレトロです
左:症状にある「カタール(カタル)」とは、中東の国のことではなく、炎症を起こして粘膜の分泌が盛んになる症状一般をさす医学用語(ドイツ語)です。風邪をひいたときの鼻水や咳、喉の痛みなどはその典型ですね。
右:今でもこの映画館は存在しているのでしょうか

浴室は脱衣所から数段下りたところにあり、その中央にコンクリート打ちっぱなしの浴槽が据えられ、その底はこの浴場の歴史を物語るかのように、温泉成分によって黒光りしています。浴槽の手前は浅めで、湯口のある奥が一般的な深さになっています。また湯口は恵比寿様の顔をした意匠で、その口からお湯が吐き出されるような形になっています。湯口が奥にあって、その下流(つまり手前側)が浅くなっており、カランが殆ど無いことを考えると、手前の浅い部分は掛け湯するために桶で汲み上げるためのスペースなのでしょう。浅い部分の両角からお湯がオーバーフローしています。

人吉の温泉はモール泉的な特徴を顕すことが多いのですが、ここもその典型で、烏龍茶のような色を帯びて透明、モール泉の匂いに硫化水素っぽい匂い(アンモニアにも似た匂い)が混ざり合って香ります。味はほぼ無味ですが、喉をすぅっと通って飲みやすいお湯です。ツルツルスベスベとした浴感がとても気持ちよく、お湯の中には綿埃状の湯の華が舞っています。

私の訪問時には、他にお客さんがおらず、独り占めしてこのお湯を堪能しました。浴室内はとても静かで、湯口から浴槽へ注がれるお湯の音だけが木霊しており、その音に耳を澄まして、当たりの優しいモールのお湯に浸かっていると、この浴場が歩んできた歴史と一体になれるかのような心地をおぼえました。
この温泉は数年前に一度源泉涸れを起こしたそうですが、ボーリングし直して復活を成し遂げ、現在に至っています。これからも昔ながらの姿を留めていってほしいものです。(一部ネット上の情報では、もう鶴亀温泉は廃業したという話が出ていますが、少なくとも09年10月時点ではちゃんと営業していました)

 
左:浴槽全景
右:恵比寿様の湯口です

ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
53.9℃ pH7.7 160L/min 成分総計2.18g/kg

JR肥薩線・人吉駅 徒歩10分(800m)
熊本県人吉市瓦屋町1120-6 地図

14:00~21:00 第2・第4月曜休業
300円

私の好み:★★★

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