二ノ平温泉 翠の宿

神奈川県

 
最寄り駅の名前が「彫刻の森」であるためか、箱根17湯の中でも知名度が低い二ノ平温泉。温泉の初湧出が昭和38年と歴史が浅く、渋くて小規模な旅館ばかりが並んでいるという点も知名度の低さに一役買っちゃっているのかもしれませんが、山椒の粒のように小さいながらもキラリと光る施設が存在しており、箱根をあまり好きになれない神奈川県民の私も、この二ノ平はなぜか惹かれてしまう場所であります。i以前にも当ブログの開設初期に、二ノ平唯一の共同浴場「亀の湯」を記事にしていますが、今回はその「亀の湯」の向かいに位置する旅館「翠の宿」を取り上げてみます。表に料金表が書かれた看板が立っており、日帰り入浴も積極的に受け入れていることがわかります。

 
お宿の名前を意識しているのか、玄関からグリーンのカーペットが敷かれています。こちらのお宿は傾斜地に建てられており、玄関が最上階で、客室や浴室・厨房などは下のフロアへ下りてゆくことになります。呼び出しブザーを鳴らすと、中から「はいどうぞ、お入りください」という声が聞こえてくるので、その声のする方へ階段を下りてゆくと、そこには「く」の字に曲がった老躯の上から白い割烹着を纏っているおばあさんがお辞儀しており、入浴を乞うと「はいどうぞ、いつもありがとうございます」と、ただでさえ屈曲している腰をさらに折って丁寧に対応してくださいました。都家かつ江を彷彿とさせる白い割烹着なんて今のご時世では滅多に見かけない絶滅危惧種ですが、それはともかく、昔の方の礼儀正しい姿勢を、今に生きる我々は謙虚に見習わなきゃいけないと、このお婆さんとお会いする度に痛感させられます。


浴室は2室。左の緑色基調の浴室が男湯で、右の赤色基調が女湯。両浴室とも、脱衣所・浴室も1~2人入るといっぱいになってしまいそうな、こじんまりとした造りです。お風呂も隅々まで綺麗にお手入れされているので、気持よく入浴できます。

 
浴室には人一人でちょうど良いサイズの浴槽がひとつと、シャワー付き混合栓が1基。浴槽は膝を曲げれば2人は入れますが、ちょっと窮屈でしょうね。一般家庭のお風呂をちょっとだけ大きくさせたような感じと言って差し支えないかもしれません。


浴槽には「温泉」「水道」「ボイラー」という3つの蛇口が用意されており、「温泉」蛇口からは言わずもがな源泉が掛け流されています。熱ければ各自で加水すれば良いのですが、私は若干熱いと感じた程度でしたので、全く加水せず源泉そのままで気持よく入浴できました。
無色澄明、微芒硝味+石膏味、そして石膏っぽい何かが焦げたような香ばしい風味が微かに感じられます。味わいだけで表現すれば、最近小田急の各駅や売店で販売しているミネラルウォーター「箱根の森から」に近いかもしれません(とはいえ、そのミネラルウォーターは二ノ平から離れた仙石原で採水しているんですけどね…)。弱い重曹のツルスベと硫酸塩泉的な引っ掛かりが混在したような浴感。蒸発残留物839mg/kg、成分総計1003mg/kgという数値からもわかるように、ギリギリのところで単純泉から逃れられたような成分濃度ですから、大雑把に言えば癖があまりないさっぱりしたお湯であるとも言えそうです。加水加温循環消毒一切なし。


天井の縁には横に細長いスリットが開けられており、外部と常時貫通して換気されているため、湯気が室内にこもりにくい構造になっています。浴室の換気は快適な入浴には欠かせませんので、原始的な構造ながら嬉しい配慮ですね(虫の侵入が心配ですが)。

 
こちらは女湯。誰もおらず、開けっ放しになっていたので、ちょっと見学させていただきました。基本的な構造や大きさは男湯と変わりません。


(上画像クリックで拡大)
完全掛け流しである証拠。お役所のお墨付き。箱根で完全掛け流し、且つ噴気造成泉じゃない温泉を探すとなると結構骨が折れますから、この湯使いはありがたい限りです。

先日もこちらへ伺った際、おばあちゃんは湯上りに、いつものようにお茶とお菓子を出してくださり、短い時間ながらも四方山話をさせていただきましたが、おばあちゃん曰く、最近は暇で困っているとのこと。けだし、震災以降はその傾向が顕著に違いありません。「暇なんです」と嘆息するその口調がとても悲哀に満ちていました。箱根や伊豆は観光客の足元を見ているような料金設定の施設が多いなかで、小さいながらも綺麗なお風呂で完全掛け流しの温泉に入ることができるこちらのお宿は、お湯のクオリティを重視する温泉ファンにとっては貴重な存在ですから、是非皆さんで利用しておばあちゃんを支えてあげていただきたく存じます。

ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩温泉
64.2℃ pH8.5 蒸発残留物839mg/kg 成分総計1003mg/kg

箱根登山鉄道・彫刻の森駅より徒歩5分弱(約500m)、または二ノ平バス停下車すぐ
神奈川県足柄下郡箱根町二ノ平1077  地図
0460-82-2715
二ノ平小涌谷地区飲食店組合による紹介ページ

9:00~17:00
入浴のみ550円
石鹸あり、他の備品類なし

私の好み:★★★

コメント

  1. あんちゃん より:

    翠の宿3回目
    こんにちは。
    昨日翠の宿に再再訪しました。2時間休憩を利用しましたが、実際には3時間くらい滞在しました。お婆さんは大分脚が弱っている様子です。ご本人も「おじいさんよりも私の方が弱くなっちゃって」と仰っていました。
    昼前に入館し持参の弁当を食べていたのですが、ホウレン草のおひたし・トマト・バナナ・柿をサービスで戴きました。今回初めておじいさんを見かけました。お二人ともかなりのご高齢なのでいつまで当宿が存続できるのか心配です。これまで年に1回訪問していましたが、これからは半年に1回行かなきゃ駄目かなと思っています。
    ここは温泉もさることながら、静寂が心身の緊張をほぐしてくれます。自分はこういう所が大好きです。

  2. K-I より:

    Unknown
    あんちゃんさん、こんばんは。
    今年の夏は箱根にとって試練の毎日だったでしょうから、女将さんの心労も相当だったのではないかとお察しします。この宿は女将さんあってこそ。あんちゃんさんがおっしゃるように、あの静かな環境は心身を安らげるにはもってこいですよね。箱根であのような施設は貴重ですから、近々に私も再訪して、溜まっている仕事をこなしつつ、湯あみを楽しんでみようかと思っています。

  3. あんちゃん より:

    おばあさん入院
    こんにちは。二ノ平の翠の宿へ来ています。箱根峠はまさかの雪で、途中で引き返そうかと思いましたが、何とか辿り着きました。新道は、チェーンなし車は係りの人に止められていました。
    宿は、おじいさん一人しかおらず、おばあさんの姿がなかったので、尋ねてみました。そうしたところ「調子が悪くて入院している」とのことです。前に訪れた時も「私の方が弱くなっちゃって」と言っていたので、心配していたのですが。

  4. K-I より:

    Unknown
    あんちゃんさん、こんばんは。ニュースでも報じられていましたが、今日の箱根は積雪5cmだったそうですね。今日の東京の最高気温は北海道と同じくらいで、実が縮こまる冷たい雨の一日でした。三寒四温といいますが、三寒二温ではないかと思うほど、最近は寒い日が続いていますね。
    「翠の宿」のレポート、ありがとうございます。おばあさんのお体が心配ですね。私は行こう行こうと考えながら、なかなか足を運べていないのですが、支援の意味でも早いうちに再訪できればと思っています。そしておばあさんの早い回復を祈っています。

  5. みと(秋田) より:

    Unknown
    みどりの宿の営業終了のお知らせ

    みどりの宿は1月10日の日帰り温泉をもって
    営業を終わりました。61年間のご愛顧に感謝いたします。
    2月からの改装後は温泉付きゲストハウスとして開業予定です。
    経営は別会社となりますが
    温泉は マツコの知らない箱根の世界 でも紹介された
    弊社 二ノ平温泉供給 が引き続き担当致します。
    今後もゲストハウス、足湯ともよろしくお願い致します。


    今年の情報です。亀の湯ばかりでお向かいのこちらは知らず終いでした。残念です…(TT)
    コロナで当然のお籠り生活がはじまり、ネットサーフィンで辿り着いた当ブログ、毎日むさぼるように拝見させて頂いております。汗
    これからも頑張ってください✩.*˚

  6. K-I より:

    Unknown
    みと(秋田)さん、こんにちは。
    情報をお寄せくださりありがとうございます。
    宿を切り盛りしていたご夫婦が相当のご高齢でしたので、もしかしたら…と思っていたのですが、やはり閉じてしまったのですね。残念ですが仕方ありません。でも新しいスタイルで再スタートを切ってくれるのならば、それはそれで嬉しいですね。どんなゲストハウスになるのか楽しみです。

    さすがにしばらくはどこにも出かけられませんが、拙ブログをご覧になって、せめて画面だけでも湯めぐり気分を楽しんでいただければ幸いです。

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