※この記事の「王湯」は旧施設であり、現存していません。
現在は移転先で新たな施設として営業しています。
群馬県吾妻の川原湯温泉は、私が温泉巡りを始めた初期に鄙びた温泉の魅力を教えてくれたところであり、温泉について方向性を見失い原点帰りをしたいときには必ずここへ戻ってくるようにしています。
近年ではダムに沈む温泉としてその名を知られるようになり、政権交代時の八ツ場ダム騒動でも脚光を浴び、その後も着実に工事は進んで、つい先日は私が愛する「笹湯」が終焉の時を迎えてしまいました。
同じく川原湯の共同浴場である「王湯」は正面に掲げてある源氏の「笹竜胆」の紋が誇らしげな当地のランドマーク的存在であり、「笹湯」と異なり観光客の利用も多かった施設ですが、まだ営業を続けているものの、周囲の建物は次々に取り壊されており、温泉街の移転とともにこの浴場もいずれは新施設へと生まれ変わり、現在の風情ある姿は過去帳入りしてしまうのでしょうね。
受付右手の廊下から伸びる渡り廊下を進んで、突き当りの階段を下ると露天風呂。梢の向こうに吾妻川の渓谷や川原畑集落一帯を眺望でき、観光客の皆さんはまずこちらを利用する傾向にあるようですね。尤も景色と言っても、ダム工事が進捗中の現在では、移転が済んで更地になった温泉街跡と伐採された木々が荒涼とした姿を晒しているばかりですが…。
こちらには新湯源泉が引かれているらしく、析出がビッシリこびりついたパイプからアツアツのお湯が湯船へと注がれ、このままでは熱すぎますからカランで加水して薄めて利用しています。主観的な感想ですが、この露天風呂はお湯の質感やお風呂の使い勝手、そして狭苦しい雰囲気などなど、私のストライクゾーンから外れてしまうような要素が多く、また後述する内湯と露天との行き来には一旦着替える必要があり、私は断然内湯が好きなので、「王湯」を訪れても露天に入る機会は少なめです。
露天風呂への通路から途中で右に分かれる階段を下りて玄関へ戻る方向へ曲がると内湯。
ちなみに露天風呂への渡り廊下には「元湯」源泉があって、自噴するお湯によって濛々と湯気が上がる様子を観察することができますが、いずれこれもダムの底に沈んでしまうのかしら。そのために新湯源泉をわざわざ掘削したわけですし…。
浴室を見下ろすような作りの脱衣室。傾斜地に建てているからこその構造なんでしょう。
浴室には石造りの浴槽がひとつ。手前側の切り欠けから排湯されており、当然ながら放流式の湯使い。
室内には川原湯温泉ならではの、タマゴが焦げたようなアブラのような香ばしい香りが充満しており、思わずクンクンと鼻を鳴らしてしまいます。この匂いを嗅ぐと「あぁ俺は川原湯にいるんだ」と実感でき、幸せな気分に満たされます。この匂いがあるからこそ、私は露天より内湯の方が好きなのかもしれません。
湯口は3つあり、石の枡から出ているお湯は焦げたようなタマゴの味と匂いが明瞭、パイプ湯口のお湯からはタマゴというより焦げたゴムのような匂いにほろ苦さとタマゴ味が感じられます。また両方に共通する特徴としては、石膏味と匂い、そして微かな塩味を有していることが挙げられるでしょう。パイプの湯口には石膏析出がビッシリ、石枡の右側湯口にはネットが被せてあります。湯中には微細な白い湯の華がたくさん浮遊。硫酸塩の影響か、かなり引っかかりのあるキシキシとした浴感。外観は透明ですが澄み切ってはおらず、薄らと白い靄がかかっているように見えます。
ここに限らず川原湯のお湯はどこでも熱湯が投入されていますが、湯船のお湯をしばらく掻き混ぜないとすぐに湯船の上の方が熱くなってしまいますから、経験則で申し上げると、いきなり湯船へ足を入れず、面倒でもその都度軽く攪拌させてから入浴したほうがよろしいかと思います。でもこのピリっとする熱さが不思議な中毒性を持っており、熱いお湯に全身浴すれば、心身ともに冴えわたること間違いなし。
浴室内には地元民専用の入口があり、外来客の利用可能時間帯以外(特に夕方6時以降)はここから出入りするわけですね。
内湯浴槽の傍にも桟敷のような第二の脱衣スペースがありますが、位置関係から考えるに、これはおそらく地元専用入口から入ってきた利用者に配慮されたスペースなのでしょうね。もちろん誰でも利用可。
窓から外を眺めると、立ち退いた後の建物基礎やむきだしになった土、伐採された木々がむなしい姿を晒すばかりの、荒涼とした光景が…。ここへ初めて入浴したときには既に工事が始まっており、訪れるたびに、歯が欠けてゆくが如く徐々に建物が減ってゆくのを目にしてきました。いまでは地域住民がダム建設を推進し、生活拠点の移転はもはや山場を越えたといってもよさそうです。移転先でも浴場が設けられるという話を聞いております。リニューアルして良かったと思えるような、すばらしい浴場を目指していただきたいものですね。それまでの間は、現在のお風呂で元湯をじっくり堪能することにします。
混合泉(元の湯と新湯)
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 71.6℃ pH7.1 湧出量不明(元の湯:自然湧出、新湯:掘削自噴) 溶存物質1.95g/kg 成分総計1.96g/kg
Na:289mg(43.69mval%), Ca:321mg(55.62mval), Cl:576mg(55.56mval%), SO4:584mg(41.62mval%),HS:1.2mg(0.12mval%), 遊離H2S:1.0mg
JR吾妻線・川原湯温泉駅より徒歩15分(約1km)
群馬県吾妻郡長野原町大字川原湯字上打越乙290 地図
0279-83-2591(川原湯温泉観光協会)
川原湯温泉観光協会ホームページ
10:00~18:00(受付17:40まで)
300円
有料ロッカー(100円)あり、他の備品類なし
私の好み:★★★
コメント
Unknown
こんにちは。
王湯っていい雰囲気持ってますよね。
私も大好きです。
脱衣してまず、あの階段の上からみた浴槽にニンマリワクワクしてしまいます。
それとあの湯の上品な硫黄臭とこれまた品のある焦げ臭。
基本的に熱い湯があまり得意ではないのですが、ここの湯は熱くてもついつい長居してしまいます(^v^)
出来ることならずっと残って欲しい湯ですよね。
※はずかしながらここ王湯の露天には一度も浸かったことがありません(笑)あのベランダに無理矢理作ったような浴槽をどうも好きになれないんです。
全て同感です
脱衣所からお風呂を見下ろした時に高揚感、浴室に入ったときの芳しい湯の香、不思議と長居したくなる熱いお湯、そしてあまり興味を惹かれない露天(^^)・・・すべてに共感です。
先週、国立府中IC近くに開業した「湯楽の里 国立」に行ってきました。感想はしーさんさんのブログに後程書き込ませていただきます。
温泉とは全く関係ありませんが、落語が大好きな私は、談志の訃報にかなりヘコんでしまいました。