白鳥温泉 上湯

宮崎県


えびの高原からえびの市街へ下る県道30号線「霧島バードライン」は、私が持っているロードマップでは細い線で描かれていたので、初めて通ろうと計画したときには「離合困難な狭隘路なのではないか」と警戒していましたが、実際に通ってみると、運悪く名前になっている鳥の姿こそお目にかかれなかったものの、終始1.5~2車線が続くごくごく普通の道で、山裾には加久藤盆地が、そしてその向こうに聳える矢岳高原が車の窓いっぱいに広がり、雄大なパノラマが眺められる爽快なワインディングでした。途中で車を停めつつ「綺麗だなぁ」なんて眺望に見とれながら山道を下っていたら、いつの間にやら今回の目的地である白鳥温泉に到着です。

 
白鳥温泉に温泉街はありませんが、数百メートルを隔てて上湯と下湯に分かれており、いずれも公営の施設として運営されています。運動公園やロッジなどと一体になった「下湯」と異なり、今回取り上げる「上湯」はロードサイドの宿泊施設兼食堂というべき色彩が強く、道の駅みたいな趣の施設といってよいかと思います。

 
入口からすぐに階段を上がった2階に当たるレベルに受付ロビーがありました。ログハウスのようなロビーでぬくもりが伝わってくる心地よい館内です。受付の方も明るく接してくれ、その際に「蒸し風呂はとっても気持ち良いので、ぜひ入っていってくださいね」と薦めてくださいました。どうやら温泉熱を利用した蒸し風呂のようです。スチームバス好きな私としては体験しないわけにはいきませんが、はやる気持ちを抑え、まずはお風呂に入って温泉入浴を楽しむことにします。脱衣所はそんなに広くありませんが、よく手入れされています。

 
全体的に赤っぽいイメージが印象に残る浴室は、四角い浴槽1つに洗い場が設けられているシンプルな構造ですが、その湯船は大きなガラス窓に面しており、窓からは雄大な眺望が見晴らせます。といっても、窓のすぐ前には露天風呂が横たわっているので、下方の視界には限界があり、じっくり眺望を楽しむならやっぱり露天がいいかもしれません。ここに限らず、内湯という場所はお湯に専念する場所なんですね。


シャワー付き混合栓が4基設置されています。カランから出てくるお湯からは少々の酸味と金気が感じられましたが、源泉を利用しているのでしょうか? 分析表によれば湧出量はそんなに多くないから、上がり湯にまで回せないように思うのですが、単に分析表の数値が違うだけなのか、あるいは私の知覚がおかしいだけか…。

 
シャコ貝のような形状の湯口からは激熱の源泉がチョロチョロと注がれていました。加水されているのかもしれませんが、それでも相当熱く、それゆえ投入量を絞っているのかもしれません。循環などは行われておらず、浴槽の切り欠けからしっかりと排湯されていました。

お湯は無色透明ながら金気がとても強く、浴槽内はもちろんのこと、お湯が触れるところは悉く赤銅色に染まっており、特に浴槽内はまるで鍍金を施したかのように綺麗に輝いていました。お湯からは刺激のある硫化水素臭に鉄錆の臭いが漂い、さらにはゴムタイヤが焼けるような匂いも少々混在しているように感じられます。また味覚面では弱い酸性の収斂味と赤錆味が舌にはっきり残りました。泉質名こそ単純温泉で、実際に溶存している物質量の数値も小さいのですが、そんな泉質名や数値からは想像もできないほど個性的であることに、ちょっと感動してしまいました。


「上湯」のお風呂は、個性的なお湯もさることながら、すばらしいロケーションに設けられた露天風呂が愁眉です。お風呂は岩風呂で、屋根は隅っこにちょこんとあるだけですから、非常に開放的。「サルと○○は高いところが好き」と言いますが、まさに○○な私はもちろん、そうでない立派な皆様でも、この眺めを目にしたら感嘆の声をあげること間違いなし。眺望だけで考えたら、九州屈指ではないでしょうか。温泉ファンの方々が高く評価するのも納得です。


内湯と同じく、浴槽内の岩は赤銅色に染まっており、いかにも金属のような鈍い光を放っていました。お湯はややぬるめでしたが、訪問日は気温が一桁に下がるほど寒い日でしたから、おそらく外気の影響でぬるくなってしまったのでしょう。でも、そのお蔭でのぼせることなく、大パノラマの展望にすっかり心を奪われながら、時間の経過を忘れてじっくり湯あみを楽しむことができました。

 
さて、次に受付の方がすすめてくれた「蒸し風呂」に行ってみます。別途料金は不要ですから、利用しなきゃもったいないですね。場所はちょっと離れたところにあるので、一旦着替えてから専用の玄関でスリッパに履き替え、看板に従って3~40メートルほど歩きます。

 
山の木々に覆われるようにして建っている小屋が蒸し風呂。注意書きには「一人で入るのは絶対やめてください」と書かれていましたが、私は一人旅ですから、仕方なく一人で入ります。尤も、これはここが係員の監視が行き届きにくい無人の離れ小屋で、しかも体調の崩しやすい高温の蒸し風呂であることが理由なのでしょうから、お年寄りやお子さんや高血圧の方でなければ、問題ないでしょう。本棟とは対照的に、この小屋はエラく質素で、脱衣所も狭くて棚しかありません。なんだか山村の鄙びた共同浴場みたい。


脱衣所を出ると小さな露天風呂みたいなものがありますが、これは水風呂。何も知らずに「うわーっ、露天だぁ」と勢い余っていきなり飛び込んじゃうと、とんでもない目に遭っちゃいますね。ここはあくまで蒸し風呂が主役なので、温浴槽は無いのです。


蒸し風呂入口の脇にはブルーのパケツがたくさん重ねてありました。これで水を汲んで室内へ持っていき、室内で水をバラ撒いて湯気を立てるようです。私が利用した時は十分な湯気が籠っていたので使いませんでした。


こちらが蒸し風呂のお部屋。脱衣小屋とは別棟です。内部は薄暗い上に湯気が立ち込めていたため撮影していません。全体がスノコのような作りになっている木組みの室内には、温泉熱による蒸気、そしてゴムのような匂いと金気臭が充満しています。ものすごい湯気と熱のためにあまり長居はできませんが、でも熱源が自然由来だからか、ここのミストサウナは他施設と比べて体への負担が少なく、熱くとも優しい蒸気に包まれて心地よく利用することができました。300円で大展望の露天風呂と蒸し風呂の両方を利用できるのですから、かなりお値打ちではないでしょうか。


ちなみに蒸し風呂エリアでのお湯はこの蛇口だけ。蒸し風呂エリアでは、湯船にドボンと入ることはできません。蒸し風呂を出てから水風呂に入った後に体を温めたかったら、このお湯を桶に汲んで体に掛けるか、あるいはすばやく着替えて浴室に戻るかのいずれかになっちゃいます。


蒸し風呂の小屋の手前に「地獄」と書かれた看板が立っていました。矢印に従って裏手の山を3~4分ほど登ると…

 
目の前に噴気帯が現れました。ここが温泉の源泉かつ熱源なんですね。それほど大きな噴気帯ではありませんが、地熱マニアとしては見逃せない光景であります。

 
湯上がりに隣接している食堂でカレーをいただきました。おすすめメニューの「黒豚カツカレー」です。美味なり!

単純温泉 65.5℃ pH3.9 66L/min(自然湧出) 溶存物質0.166g/kg 成分総計0.210g/kg
H:0.3mg(18.27mval%), Na:4.2mg(13.45Mval%), NH4:3.4mg(13.80mval%), Mg:2.4mg(14.54mval%), Ca:6.1:mg(22.42mval%),
SO4:65.1mg(94.14mval%),

宮崎県えびの市末永1470  地図
0984-33-1104
えびの市ホームページ内での紹介

7:00~20:00 第1火曜定休
300円
ロッカーあり(100円有料)・ドライヤーあり、シャンプー&石鹸あり

私の好み:★★★

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