蔵王温泉 伊藤屋旅館

山形県


前回取り上げた「招仙閣」の隣にあるお宿です。はじめ見た時は食品店かお土産屋かと思ったのですが、れっきとしたお宿なのですね(失礼しました)。湯めぐりこけしで入浴を乞うと、いかにもカメラマンらしいニコンのベストを着たご主人が対応してくださいましたが、そのベストといい、帳場に飾られた沢山の写真といい、ホームページのフラッシュといい、ご主人は余程カメラがお好きでいらっしゃるとお見受けします。

 
旅館と言うより民宿と表現したくなるようなアットホームな雰囲気が漂うロッジ風のお宿で、建物自体は古くて渋いのですが、蔵王という場所柄、玄関にはちゃんとしたスキー置き場が用意されており、ゲレンデでシュプールを描きたいお客さんの要望にもしっかり応えてくれるみたいです。
浴室は玄関を入って右側にありました。脱衣所は至ってプリミティブ。2人同時利用が限界のこじんまりとした空間で、ただ棚があるだけです。折戸を開いて浴室へ。


お風呂も3~4人サイズの四角い湯船が据えられているだけの単純なレイアウトで、洗い場は変わり映えの無いタイル貼りなのですが、蔵王の温泉らしく浴槽は風格を醸す木製で、使い込まれていい味わいが出ています。


湯口には竹筒が継がれており、源泉温度が高いためか、訪問時の投入量は若干絞り気味でしたが、その塩梅が絶妙で、湯船はやや熱めながら加水しなくとも気持ち良く入れる湯加減に保たれていました。誰も入っていない湯船のお湯ははじめ僅かに灰白色とウグイス色が混ざっているような透明に見えますが、浴槽の底にはほのかにレモンイエローを帯びる白い湯の華が大量に沈澱しており、攪拌させるとそれらが一気に舞い上がって、青白い乳白色に強く混濁しました。青みを帯びる乳白色の硫黄泉は、日本人がイメージする温泉そのもの。蔵王のらしく湯面から硫黄臭が漂い、強い酸味や塩味が感じられるものの、他の源泉でみられるような攻撃的な渋みやえぐみは弱く、口に含んだ際に感じられる不快感も蔵王の他源泉と比べると幾分マイルドであるように思われました。そうした知覚への低刺激に比例するのか、肌への当たりも蔵王にしては優しいようで、長く使っても湯疲れが少なく、その分じっくり温まれると実感することができました。

さてこちらに引かれている源泉は蛇荒川折口源泉であり、近隣の旅館にも配湯されていますが、分析表によれば泉質名は酸性・含硫黄-硫酸塩・塩化物温泉となっています。蔵王ではごく普通に見られる泉質名と思いきや、よく見ると陽イオンの名前が見当たりません。水素イオンが17.5mg(54.11mval%)とmval%値で最も多く、他の金属イオンは20mval%に至っていないため、陽イオンの名前が欠落しちゃっているんですね。私の朧ろげな記憶では、同じく硫酸系で強酸性の硫黄泉である草津温泉の「大滝乃湯」も陽イオンの名前がブランクだったような気がしますが(酸性-硫酸塩・塩化物温泉)、日本にはあまたの温泉があるとはいえ、これって結構珍しいかと思います。とにかく、お湯の良さに私はぞっこんしてしまいました。温泉とじっくり向き合いたい方にはピッタリかと思います。

蛇荒川折口源泉
酸性・含硫黄-硫酸塩・塩化物温泉 56.6℃ pH1.76 湧出量不明(自然湧出) 溶存物質2079mg/kg 成分総計2555mg/kg
H+:17.5mg(54.11mval%), Mg++:59.0mg(15.12mval%), Al++:42.9mg(14.87mval%), Fe++:6.5mg(0.72mval%),
Cl-:241.7mg(22.66mval%), HSO4-:497.4mg(17.01mval%), SO4–:849.8mg(58.77mval%),
H2SiO3:219.5mg, 遊離H2SO4:21.8mg, 遊離CO2:464.9mg, 遊離H2S:10.6mg,

山形駅より蔵王温泉行バスで終点下車、徒歩2~3分
山形県山形市蔵王温泉21  地図
023-694-9027
ホームページ

立ち寄り入浴10:00~15:00
300円(湯めぐりこけし利用可能)
貴重品帳場預かり、シャンプー類あり

私の好み:★★★

コメント

  1. ぱと より:

    Unknown
    蔵王では独自源泉一本の所やメインの源泉が温く、熱目の蛇荒川折口源泉とブレンドし二本を入れる宿、中には七本の源泉をブレンドし使用してる所まで温泉好きにはワクワクして堪りません!蛇荒川折口源泉って珈琲で例えるならブレンドのブラジル豆みたいな存在だと思うのですが!

  2. K-I より:

    目からウロコです
    >ブレンドのブラジル豆みたいな存在
    なるほどなるほど。温泉をコーヒー豆で喩えるってユニークですね。でも言われてみれば確かに場所(産地)によって味わいや風味に傾向があったり、あるいはブレンドすることで新たな味が生まれたりと、温泉とコーヒーには意外にも共通点があるものですね。ちなみに私は中米系の豆を中深煎りした豆が好きだったりしますが、蛇荒川折口源泉がブラジルならば、私の好きな豆はどこに当たるのかな…、なんてことを考えながら、今度からはコーヒーを味わうときの感性も動員しながら湯めぐりしてみます。

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