私が卒業した中学校は、修学旅行の行き先が東北と北海道だったのですが、北海道での宿泊先は洞爺湖温泉の「万世閣」でした。しかし、それ以来洞爺湖は日中にちょこっと立ち寄るばかりで泊まったことがなかったのですが、たまには湖畔で一晩を過ごすのも良いかと考え、パソコンを開いて某大手宿泊予約サイトを閲覧していたら、今回取り上げる「洞爺山水ホテル和風」が1泊2食付きでビジネスホテル並みの価格を提示しており、しかも温泉を掛け流しているという情報も入手できたので、それら二点の要素に惹かれて即座に「予約」ボタンを押してしまいました。私が中学生の時に泊まった「万世閣」から一本山側に入ったメインストリート沿いに建つ、規模の大きな旅館です。
玄関脇の置行灯には「歓迎 日帰り入浴」と記されているように、私のように宿泊しなくとも入浴可能のようです。調べたところによれば、以前は日帰り入浴を受け付けていなかったんだとか。玄関左手にはつくばいに温泉が落とされている「手湯」が設けられており、つくばいは温泉成分の付着によって全体が黄土色に染まっていました。
和洋折衷な雰囲気を醸し出しつつラグジュアリー感を演出するエントランスホールから、階段もしくはエレベーターでひとつ上のフロアにあるフロントへ向かいます。ロビー前のラウンジは広闊としており、静寂と優雅さが兼ね備えられていました。
某大手予約サイトでは部屋の禁煙喫煙が選択できなかったのですが、フロントでお願いしたところ、要望に応じて禁煙室へ振り替えて下さいました。そのお部屋は最上階にある10畳の和室で、どの旅館にも見られるごく一般的なレイアウトですが、ユニットバスやトイレが備わっているので、結構便利でした。
最上階ですから客室の窓から望む眺めはまずまず。湖岸に「万世閣」や「湖畔亭」が立ちはだかっているので、高さの割には、湖面がさほど視界に入ってこないのは致し方ないところです。
プランによって異なるのかのしれませんが、格安プランを利用した私の場合、お食事は2食ともに食堂でいただきました。上画像は夕食です。紙鍋のしゃぶしゃぶ・焼き魚・刺し身・煮物・もずく酢などのほか、画像には写っていませんが釜飯がついてきます。低コストと旅館らしい彩りを両立させた献立であると言え、取り立てて注目すべき内容ではなかったのですが、いずれも美味しく、お腹を満たすには十分でした。
こちらは朝食の様子です。夕食にも引けをとらない品数に驚きです。尤も、朝はご飯・味噌汁・温野菜などをセルフで装い、しかも味噌汁は牛丼の「吉野家」みたいにベンダーでお椀へつぐので、せっかくの和風旅館風情も台無しになってしまうのですが、そうした工夫によってコストカットを図っているわけであり、その御蔭で私も安く泊まれたのですから、文句は言いますまい。
●灯心の湯
館内にはお風呂が2種類あり、夜9時を境に男女入れ替え制となっているので、宿泊すれば両方を楽しむことができます。まずは「灯心の湯」から。浴場名が書かれた置行灯の脇から伸びる廊下を進んでお風呂へと向かいます。入口扉の鴨居には、伊勢地方に見られるような「蘇民将来子孫家門」と記された注連飾りが取り付けられていました。宿の方がお伊勢さんを篤く信仰していらっしゃるのか、はたまた式年遷宮にあやかっているのか…。
なお浴室へ伸びる通路の手前には、ソファーが置かれていたり、あるいは座敷スペースが設けられていたりと、休憩スペースが充実しており、お客さんの好みに合わせて使い分けができます。
ウッディで綺麗な脱衣室。さすが旅館だけあってお手入れにぬかりありません。間接照明を用いることにより、明るすぎず暗すぎず、落ち着きのある室内空間を生み出していました。とりわけ各ブースをパーテーションで仕切っているパウダーゾーンは、女性が使いやすそうな感じです。
宿側の説明によれば「ヒノキの薫る大浴場と竹の庭の露天風呂」が「灯心の湯」のコンセプトとのこと。天井が高く開放的でストレスフリーな内湯は、中央に大きな浴槽が据えられ、その左右に洗い場が配置されています(左右にシャワー付き混合水栓が7基ずつで計14基)。浴槽の上では太いヒノキ材による柱や梁が存在感を放っていますが、無粋な私はこの屋根のような構造物を目にして、お隣の壮瞥町は北の湖の出身地だから土俵を象っているのかな、などと的はずれな発想をしてしまいました。
若干露天風呂側へせり出た形の内湯は、檜を多用した大きな四角形のもので、窓側の湯口よりお湯が注がれ、縁からしっかりとオーバーフローしています。槽内に吸引口や供給口らしきものは見当たらないので、掛け流しの名に偽りはないのでしょう。湯加減は42~3℃で最適でした。洞爺湖温泉は源泉や配湯を組合で一括管理しており、貯湯槽で加温したものを各施設へ配っているんだそうですが、このお宿では再加熱することなく、配湯されたまんまの状態で各浴槽へ注いでいるんだそうです。
※参考:洞爺湖温泉利用協同組合ホームページ、(一社)日本エレクトロヒートセンター「温泉の排水熱を利用したヒートポンプシステム」
坪庭のような空間に竹や石、そして濡縁が配置される日本庭園風の露天風呂。周囲は塀に囲まれているので景色は全く望めず、入浴中は庭園の雰囲気を味わうことになります。露天風呂も放流式の湯使いでして、右側のステップからしっかりとした量のお湯が川のように捨てられていました。
露天風呂にお湯を注ぐ木樋の内側は、温泉成分が瘤状にコンモリと付着しており、温泉の濃さがビジュアル面でも伝わってきます。ただ、内湯ではちょうど良い湯加減だったものの、露天はちょっとぬるく、人によっては敬遠しちゃうかもしれません(晩秋ですらぬるかったのですから、厳冬期はどうなっちゃうのかな)。外の景色が眺められないとはいえ、れっきとした露天ですから、外気の影響を受ける露天では相当ぬるくなっちゃうわけですね。某予約サイトの口コミにも、この露天風呂のぬるさを指摘する声が散見されましたが、加熱しないで放流式にしているのは、できるだけお湯に手を加えないでお客さんに提供しようとするお宿の善意の表れですから、無碍に批判するのはちょっと酷な気もします。特に洞爺湖温泉は変色や湯鈍りが発生しやすい重炭酸土類泉的なお湯であり、貯湯槽で一旦加熱されているものを再度加熱しちゃうと、お湯の良さが台無しになってしまうのでしょうから、現状の湯使いは致し方なく、実に難しいところですね。お湯の湯加減ひとつとっても、お宿の方の苦悩が伝わってきます。
後編へ続く・・・
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