霧島神宮温泉 蓬泉館

鹿児島県

 
南九州屈指の古社である霧島神宮の周辺には参詣客のための宿が点在しており、温泉が引かれている施設も少なくありません。今回はそんな宿の中から温泉ファンの間でしばしば話題に上がる「蓬泉館」で日帰り入浴してまいりました。裏参道に面しているこちらのお宿は昭和初期に開業したそうで、建物の外観はかなり草臥れているのですが、さてお風呂はどんな様子なのでしょう。

 
建物はいくつかの棟に分かれているのですが、道路に最も近い玄関は宿泊専用で、日帰り入浴の受付は別に設けられているようです。駐車場から奥へ進んでゆくと、通路に沿って無銭入浴を警戒する看板類が複数掲示されていました。その手の被害に多く遭っているのでしょうか。一番奥の「入浴料金徴集所」なる場所は厨房の勝手口であり、そこにいたお婆さんへ湯銭を支払うのですが、勝手口から覗く厨房内部は、何と言ったら良いのかわからないほど表現しがたい光景が広がっており、いくら安いとはいえ、果たしてここで入浴して大丈夫なのかという不安を抱かざるを得ませんでした。具体的な描写は敢えて控えますが、以前からそうなのか、あるいは近年こうなってしまったのか…。つげ義春的な空気感を強く覚えました。

 
ま、なんとかなるだろうと開き直って、客室棟(左or上画像)を右に見ながら浴場(右or下画像)へと向かいます。聞きにし勝る鄙び方に、つい腰が引けてしまいました。料金を支払ったものの、本当に営業中なのかな。俺が見たお婆さんは幻ではないのかな。

 
浴場棟の上がり框を上がって右が女湯、左が男湯です。小さく区切られた棚がたくさん並ぶ脱衣室は、下足場を挟んで男女に分かれているものの、ドアやカーテンなど視界を遮るものがないため、奥の方で着替えないと丸見えです。壁の張り紙には「浴場内に犬猫は絶対に入れないで下さい」という俄かに信じがたい文言が書かれており、ペットを宿の風呂に連れ込む客なんているのかと首を傾げざるを得なかったのですが、後で調べたところによれば、この宿はペットと一緒に宿泊可能なんだそうですから、過去には愛犬や愛猫と一緒にお風呂へ入っちゃおうとするお客さんがいたのでしょうね。

 
浴室は完全に鄙びきったガタピシの陋屋。明るい昼間であろうとも、お化けが現れても不思議ではない雰囲気です。霊感が強いことを自称している人は、黒ずんだ壁のシミから何かを感じ取っちゃうかもしれません。自分で言うのもおこがましいのですが、古い温泉に関しては百戦錬磨を自負する私ですら、この光景を目にして気持ちが折れかかってしまいました。室内には後述する丸い浴槽がひとつある他、打たせ湯の跡が残っています。洗い場はありません。

 
ネット上の情報によれば数年前まで打たせ湯は現役だったようですが。私が訪れた時には完全に止められており、足元はコケむしてゴミが散らかっていました。

 
石で縁取られた円形の浴槽は直径約2.5mで4〜5人サイズです。壁を見上げると古い入浴心得が掲示されていました。

 
浴槽にお湯を注ぐ配管は屋外から伸びているのですが、壁を貫通する穴は隙間だらけですし、配管自体も継ぎ接ぎ状態。そんな配管を流れてくるお湯はべらぼうに熱いため、温度調整のために供給量の半分ほどが床に捨てられており、足元の一部は思わず飛び上がっちゃうほど熱くなっていました。ある意味で話題に事欠かないお風呂です。

湯船のお湯はほぼ無色透明で、底面、特に湯口直下には白い湯の花がたくさん沈殿していました。そして私が入浴すると沈殿が一気に舞い上がり、湯中の私は湯の花まみれになりました。お湯からは軟式テニスボールのようなゴムっぽい硫化水素感(味と匂い)がふんわりと得られますが、変なクセがなくアッサリしていますので、典型的な蒸気造成泉といって良いでしょう。
営業しているのが不思議に思えるこちらのお風呂ですが、それでも先客が2人いらっしゃったので、しっかりと固定客を掴んでいることがわかります。湯浴みしながらそんな先客のおじいさんとおしゃべりしていたのですが、曰くこのお風呂のおかげで元気になったと、まるで自慢するかのようにこのお風呂のことを誇らしげに語っていらっしゃいました。温泉ファンが話題にする理由は、お湯の質云々ではなくその独特な鄙びにあるのでしょうけど、実際のお風呂の様子がどうであれ、心から愛する方がいらっしゃるのですから、私のような一見の他所者があれこれ言う筋合いなんて無いのかもしれません。
いつまで営業できるか不安になる佇まいですが、お風呂を愛する人がいる限りは、是非とも頑張ってお風呂を守りつづけていただきたいものです。

湯之野1号・2号・10号・13号
単純硫黄泉(硫化水素型) 61.0℃ pH5.5 溶存物質135.4mg/kg 成分総計269.9mg/kg
Na+:5.8mg(22.83mval%), NH4+:6.3mg(31.60mval%), Ca++:6.2mg(27.99mval%),
SO4–:8.3mg, HCO3-:59.9mg(81.42mval%),
H2SiO3:43.2mg, CO2:122.5mg, H2S:12.0mg,
(平成20年6月16日)
加水加温循環消毒なし

国分駅もしくは霧島神宮駅より鹿児島交通(路線バス)の霧島いわさきホテル行(重久・霧島神宮経由)で「蓬泉館前」バス停下車すぐ
(路線バスの時刻は「九州のバス時刻表」で検索してください)
鹿児島県霧島市霧島田口2442  地図
0995-57-1171

日帰り入浴7:00〜21:00
200円
備品類なし

私の好み:★+0.5

コメント

  1. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    こんばんわ^^;
    うーむ、、、ここは何とも形容しがたく、、、。
    K1殿は狐に化かされたのではありませんかな!?
    私は霊感など欠片も持ち合わせてはおりませぬが、
    お化けに会いたくなった時はここに来ようと思います^^b
    私は今日もお風呂の王様に寄って来たのですが、
    お湯に関してはこちらとは比較にもならず、、、。
    食事は美味しいんですけどね、、、。
    本物の温泉には、程遠いです。

  2. K-I より:

    Unknown
    ぬる湯マスターさん、こんばんは。
    ブログという場は不特定多数の方がご覧なので、物事を表現する場合には言葉のチョイスに配慮を要するのですが、この施設を記事にする際には、いつも以上に細心の注意を払いました。でも何を言わんとしたか、お気づきかと思います。間違いなく狐に化かされ、得体の知れない霊みたいなものを背負っっちゃったような気がします(笑)。でも先客のおじさんはこのお風呂があってこそ、自分の体が健康でいられるんだ、とおっしゃっていましたから、そんな方々のためにも長く続いてほしいものだと、自分の浅はかな考えを反省しました。
    最近はなかなか休めず、天候不順もあいまって、温泉にはちっとも出かけられません。仕事の帰りにちょっと時間があれば、車で稲城の「季乃彩」か多摩境の「いこいの湯」に行っています。でも、せいぜいその程度です。

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