前回記事で紹介しましたように知本温泉の「開天宮」は完全に解体されてしまい、もう二度とあの汚いお風呂でニュルニュルのうなぎ湯に入ることはできないことが判明したわけですが、転んでもただでは起きないのが不肖わたくしの逞しいところ。あの廟に代わる入浴可能な廟を探すべく、知本の温泉地をウロウロしていたところ、メインストリートである龍泉路沿いの老爺飯店付近で、ちょっと気になる看板を見つけました。黄色い看板には廟の名前とともに温泉マークや浴室という語句が記されており、看板の前に立つ貯湯タンクの上からは湯気が立ち上っていたので、その二文字と湯気に誘われて訪ってみることにしました。
黄色い看板のところで龍泉路から川の方へ逸れる路地に入ると、すぐに駐車場が広がり、その先に中華風の派手やかな廟がデンと構えていました。「玉明宮」というその廟は知本渓の川沿いにあり、画像に写っている平屋の廟だけでなく、宿泊できるビルディングを併設しています。
私が訪れた時、中華圏ではよく見かける上半身裸のおじさんが、脚立の上に乗ってペンキを塗っていました。おじさんに会釈しながら本殿の中へお邪魔しますと、どこからともなくおばさんが現れ、入浴できるか尋ねたところ、笑顔で快く受け入れてくださいましたので、お賽銭を納めて神様を拝んでから、お風呂へ向かうことにしました。
社殿の左側へ進むと、個室風呂や露天風呂が温泉関係設備まとまって配置されていました。
まず目に入ってくるのは露天風呂「露天公衆湯池」です。露天とはいえ、浴槽の頭上はガッシリとした屋根で覆われており、川とは別の方角に向かってひらけているため、大きな川沿いという開放的なロケーションを活かしきれていません。浴槽に張られている水が温かく、しかも黄土色に濁っているため、単なる水ではなく温泉であるとわかるのですが、さもなくば何かを養殖している池、あるいは炊事洗濯用の生活用水に見えなくもありません。もっとも、この頑丈な屋根が無いと灼熱の陽射しや篠突く雨の直撃を受けるわけですから、南国という自然環境の中では欠かせないものなのでしょう。なお湯加減は(体感で)40℃未満でしたから、子供の水遊びにちょうど良いかもしれません。
露天の浴槽は2m弱×3mの四角形で、武骨なコンクリ造りのお風呂からは温泉風情がいまいち感じられません。でも湯口からは温泉が供給されており、湯口の周りは湯船の湯面ライン上、そしてオーバーフローの流路など、お湯と空気が触れやすい場所は赤く染まっていました。そしてお湯自体は薄い黄土色に染まっており、湯口や浴槽のまわりには温泉成分の起因するものと思しきトゲトゲが付着していました。知本温泉といえば無色透明のアルカリ泉ばかりかと思っていたのですが、ここのお湯は重炭酸土類泉や塩化土類泉のような特徴を示しており、想定外の泉質のお湯に出会えてびっくりしてしまいました。いや、猜疑心に満ちた見方をすれば、温泉は他と同様にアルカリ泉であって、赤い着色は配管のサビ、濁りは加水の影響、そしてトゲトゲはアルカリによるコンクリの溶解が原因なのかもしれませんが…。
上述の露天風呂を囲むようにしてオレンジ色の壁の廊下が環状に伸びており、その廊下に沿って個室風呂が5室ほど並んでいました。露天風呂は水着が必要ですが、個室風呂なら裸で入浴できますね。通路にはスツールや脱水機のほか、ドライヤーやサンダルなども用意されていました。
こちらが個室風呂の内部です。各部屋とも大体同じようなレイアウトで、白いタイル張りの室内に、小さな棚、シャワー、そしてFRP製の浴槽がそれぞれ一つずつ設けられています。知本で個室風呂がある廟といえば、ガイドブックでも紹介されている「温泉忠義堂」が有名ですが、この「玉明宮」の個室風呂は「温泉忠義堂」のそれよりも広く、しかもシャワーがあるので、利便性では「玉明宮」に軍配が上がります。
個室風呂は空いているところを任意で選べます。
私が実際に利用したのはこの個室です。特に決め手はないのですが、この部屋がなんとなく綺麗だったように見えたので、気づけばこの部屋に入っていました。まずはシャワーで水を出し、浴槽の中をすすぎ洗います。
そして「熱」のコックを全開にして温泉を溜めました。ただ、お湯だけでは熱すぎるため、水も一緒に出して温度調整しながらお湯を張ったところ、ものの数分(5分ほど)であっという間にお湯が溜まりました。
湯口の吐出温度はなんと73.1℃! これではさすがに加水せざるを得ませんね。でもそれだけの高温ということは、けだし本物の温泉をそのままお風呂まで引いているということなのでしょう。なお湯口のお湯を若干冷ましてから計測したpH値は8.80でしたので、(計器が故障していない限り)アルカリ性泉と判断してよいでしょう。
露天のお湯と違って、こちらのお湯は無色透明で濁りや色付きは全く無く、湯気と一緒に温泉由来のタマゴ臭が香ってきました。そしてお湯を口に含むと弱いながらも明瞭なタマゴ味が感じられました。ここまで見てきた特徴の数々は知本温泉の典型的なお湯そのものです。しかしながら、高いアルカリ性を示しているにもかかわらず、ツルスベの滑らかな浴感は期待していたほど強くなく、「たしかにツルスベしていたかな」程度の弱いものでした。そもそも滑らかさが弱い源泉なのか、はたまた加水によって変質してしまったのか、そのあたりは不明ですが、知本温泉らしい滑らかさを期待していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまいました。でもお湯のフレッシュさはしっかりと感じられますので、大規模施設の大きな温泉プールに入るよりははるかに良いフィーリングの湯浴みを楽しむことができました。なおこちらのお風呂はお湯を使い捨てていますので、利用後は栓を抜いて湯船を空っぽにしておきましょう。
知本温泉にしては滑らかさがいまいち物足りないのですが、お賽銭で入浴できるという非常にありがたい施設であることには違いなく、知本温泉で同じく廟に付帯している個室風呂の「温泉忠義堂」よりも広くて衛生的ですから、当地でリーズナブルに個室風呂に入りたい場合には、こちらをオススメしたいと思います。
泉質名など不明
GPS座標:22.693147, 121.004223
台東バスターミナル(台東轉運站)もしくは知本駅(知本火車站)から鼎東客運(山線)の知本温泉(内温泉)行バスで「清覺寺」バス停下車
台東県卑南鄉溫泉村龍泉路128巷6號
利用可能時間不明(露天風呂開放時間は7:00〜9:00、15:00〜21:00)
入浴料はお賽銭で。
ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
コメント