いつも半年前のネタを小出しにしている拙ブログにしては珍しく、今回記事は時事ネタから入ってまいりましょう。
麗らかな陽気で桜の花が一気に開いた3月下旬の連休。
いつもだったら多くの利用客で賑わっているはずの成田空港第二ターミナルは、上画像をご覧の通り人通りが絶えてガランと静まり返っており、利用客をはるかに上回る数の空港スタッフがマスクを着用しながら所在なく途方に暮れていました。
フライトの案内板も「欠航 cancelled」の赤い文字ばかりが並んでいます。いつもならこの高い天井のホール内に各種案内のアナウンスが絶え間なく流れていますが、さすがにお客さんへ伝える情報がないためスピーカーも開店休業状態。普段は雑踏や放送にかき消される空調の音が、不思議なほどホール内に響いていました。
さて私は旅立つために成田空港へやってきたわけではありません。新しく開業した温泉施設「成田空港温泉 空の湯」に入ることが目的です。その名前通り空港の目の前で湧く温泉であり、施設内には温泉浴場のみならずカプセルホテルやレストランなどを兼ね備えることにより、空港利用者のニーズに応えようとしています。とはいえ空港ターミナル内ではなく、そこからちょっと離れた場所にあるため・・・
第二ターミナル1階の23番バス乗り場より発着する専用無料送迎バスに乗車することにしました。本記事の後半でも触れますが、公共交通機関でこの施設へアクセスする場合、送迎バスのほか、芝山鉄道の芝山千代田駅から徒歩5分程度で行くこともできます。空港のみならず駅からも至近にある温泉なのです。しかし、無料送迎バスが30分毎の運行であるのに対し、芝山鉄道が日中45分毎であり、しかも京成本線方面にしか行き来できないため、各方面とつながっている空港の第2ターミナルを経由した方が容易にたどり着けるかと思います。
フェンスで囲まれた空港の外縁をバスに揺られること約10分で現地に到着しました。施設へのアプローチ(道路)には、滑走路を思わせるような文字やサインが敷かれていました。
こちらは2019年12月に新規開業したばかりの温泉入浴施設です。私は「このご時世で空港利用者がいないから、たぶん空いているだろう」と見当をつけていたのですが、予想に反して駐車場にはそこそこ多くの車が止まっていました。ナンバーを見ると地元の方が多いようでした。浮き沈みが激しい旅行利用者より、安定した需要が読める地元利用者を固めた方が、商売としては無難かもしれませんね。
バスは入口前で降ろしてくれました。同乗していた他のお客さんは目の前の通路を真っ直ぐ歩いて受付へと向かっていったのですが、子供の頃から注意力散漫で寄り道が多いと先生に叱られていた私は、当然ながら真っ直ぐ歩くことはせず・・・
通路からフラフラと左の方へ逸れてしまいました。と言いますのも、温泉櫓のような形状でオブジェ化されているとはいえ、温泉掘削のボーリングピットが展示されていたからです。傍らに立てられた小さな説明板によると、2018年4月に掘削が始められ、最終的には1013mまで掘り進んだんだとか。このエリアで掘って出てくる温泉は化石海水型になるわけですが、その説明として「チバニアンより古い時代の前期更新世の堆積物に閉じ込められた海水」と表現しているところに、昨年末に千葉県で開業した施設らしい個性が表れています。
ボーリングピットを拝見し、玄関まわりに誰もいなくなったところで、私も玄関から入館しました。下足箱には精算用チップのリストバンドが差し込まれており、靴を収めてリストバンドを抜くことにより、下足箱が施錠されます。そしてそのリストバンドを受付に差し出し、利用したい料金プラン(時間制限ありの入浴、あるいは岩盤浴を含むプランなど)を選択することで、そのプランがリストバンドの番号に登録されます。入浴料金は、館内で利用する各種有料サービスや飲食の代金と共に、退館時に一括精算することになります。なお、料金支払いには現金やクレジットカードのほか、交通系ICも利用できるので便利です。
受付を済ませた後は、上画像の自動改札にリストバンドのセンサー部分をタッチさせて、お風呂がある3階へ上がります。
なお岩盤浴や貸切風呂、カプセルホテル、休憩スペースは2階に設けられており、レストランは1階の改札前です。2階休憩スペースには漫画本の蔵書がたくさん開架されていました。近年の岩盤浴併設施設では、館内でゆっくり過ごしてもらうツールの一つとして、大きなビーズクッションとともに漫画本をたくさん用意するところが多いですね。子供の頃から今に至るまで漫画を読む習慣が無い変わり者だった私には残念ながら全く役に立たないのですが、でもこちらを含めた各施設では漫画を手にして思い思いの格好で漫画を読み耽るお客さんがたくさんいらっしゃいますから、やはり時間つぶしにおける漫画需要は無視できないことを、温浴施設へ行く度に実感させられます。
3階にあがり、マッサージチェアが並ぶ明るい廊下を包んだ突き当たりに、紅と紺の暖簾が下がっています。
浴場内は撮影禁止なので、以下文章を中心にレポートさせていただきます。
上画像は男湯の案内図です。
暖簾をくぐった先の脱衣室にはロッカーがたくさん用意されており、リストバンドの番号とは関係なく任意の場所を使うことができます。さすがに開業したばかりですから、どこもかしこも綺麗で清潔ですが、土地が余っている割には、空間的に少々狭く感じるかもしれません。また、お風呂から上がった後に身支度を整えるパウダーゾーンはそこそこの広さが確保されているのですが、なぜか流し台がなく、手を洗ったりタオルを絞ったりしたければ、一旦浴室入口に設置されている洗面台まで移動しなければなりません。
脱衣室を抜けて浴室へ。
内湯は明るくて天井が高い開放的な造り。男湯の場合、後述する露天風呂出入口を挟んで右側手前に洗い場が配置されており、計21個のシャワーが設置されています。各シャワーブースには仕切り板が取り付けられているので、隣客との干渉が気になりません。また各種アメニティーも置かれています。
露天風呂出入口の右手窓側には高濃度炭酸風呂、左手窓側には入浴剤を溶かした「人工温泉」の各浴槽が据えられています。両浴槽とも沸かした真湯です(温泉ではありません)。なお私の訪問時、人工温泉には由布院の湯と称する入浴剤が投入されていたようです。内湯にはこの他、水風呂とサウナ(定時でロウリュウあり)が設けられていますが、いずれも温泉は使われていません。
(上画像は公式サイト内の予約ページよりお借りしました)
露天風呂はテラスのような場所に設けられています。確かに開放的なのですが、「空の湯」という名前ながら成田空港に背を向けるような位置にあるため、露天風呂から滑走路や駐機場などを眺めることはできません。かといって、周囲には空港以外に見るべき目立つ景色もなく、ただ北総台地の畑が広がるばかり。まわりに何も無さ過ぎて、却って周囲からお風呂の様子が丸見えなので、視線を遮るための目隠しが露天風呂のまわりに立てられています。
滑走路こそ眺められないものの、すぐ目の前が空港であるというロケーションゆえ、いつもだったら、頻繁に離発着する飛行機を間近で見上げることができるのでしょう。でも上述のように今のご時世はとにかく飛行機が飛べませんから、私が露天風呂に入っている時間帯で飛んでいた飛行機は4機程度だったような気がします(しかも半数はカーゴかな)。なお滑走路の位置の関係で、飛行機はお風呂の真上を飛ばず、東や西の方角を飛び交うことになります。
前置きが長くなりましたが、この露天ゾーンには「かけ流し湯」「くつろぎ湯」「ジェットバス」「寝ころび湯」「つぼ湯」という計5種類の浴槽が設けられています。このうち温泉が張られているのは「かけ流し湯」「くつろぎ湯」の2つで、あとの3つは真湯です。個人的な感想として真湯の3浴槽に特筆すべき点は無いかと思われましたので(異論がある方、ごめんなさい)、ここでは温泉槽のみについて述べてまいります。温泉が張られている「かけ流し湯」と「くつろぎ湯」は隣りあっており、いずれも槽内に段が設けられていて、一定方向を向かって座湯するスタイルがとられています。上段に座ると半身浴になり、下段に座ると全身浴になるのですが、自分の好きな格好で入浴できないのがちょっと残念。こうした浴槽の造りは東京国立市の「湯楽の里」など複数の施設でも見られるため、おそらく同じ設計事務所が手がけているのではないかと勝手に想像しています(間違っていたらごめんなさい)。
つづいてお湯について見ていきましょう。「かけ流し湯」では名前通り放流式の湯使いが実践されています。具体的には加温消毒あり加水濾過循環なしという湯使いのようです。開業してまだ3ヶ月しか経過していないのに、お湯の濃さを物語るように、早くも湯口は赤茶色に染まっていました。浴槽のお湯は3ヶ所の切り欠けからオーバーフローしており、うち2つは「くつろぎの湯」へ流下し、残る1つは浴槽ステップ脇から排水口へと捨てられています。
一方「くつろぎ湯」は同じ温泉を使いながらも加水加温循環ろ過消毒ありで、お湯の見た目は「かけ流し湯」と大きく異なります。濾過されていない「かけ流し湯」のお湯は緑色を帯びた黄土色(下品に表現すると青っ洟みたいな色)に濃く濁っており、濁り方が強いために浴槽の底は全く見えません。一方「くつろぎ湯」はジャスミン茶のような色を帯びつつも底がはっきり見える透明度を有しています。当然見た目のみならず味や匂いも大きく異なり、「かけ流し湯」のお湯からは非常に塩辛い味とともに少々苦味や金気の味と臭い、そしてヨウ素臭がしっかりと感じられる一方、「くつろぎ湯」はしょっぱいが強烈ではなく、金気やヨード感もかなり弱まっているようでした。源泉の成分がほぼそのままの状態で注がれる「かけ流し湯」は、その濃さゆえに温浴効果も強く、非常によく温まるのですが、あまり長湯をすると強烈に火照って強い疲労感を覚えますから、長湯せず適当なところで湯船から上がることが大切です(特に夏は要注意)。一方で、加水循環によってマイルドになっている「くつろぎ湯」は、湯加減もややぬるめにセッティングされているため、「かけ流し湯」に比べると体にとっては優しく、まさに寛ぐにはもってこいのお湯と言えそうです。
ちなみに、黄土色に濁る塩辛い化石海水型の温泉は、千葉県内、特に下総・北総エリアでよく見られます。たとえば拙ブログで取り上げた「牧の原温泉 リスパ印西」はその好例ですし、2019年夏にオープンしたばかりの新習志野駅前「湯~ねる」も同様です。従いまして、この手のお湯自体は決して珍しいものではありませんが、比較的大きな浴槽で掛け流しの湯使いを実践しているという点では貴重な存在と言えるかもしれません。
最後になりましたが、冒頭でも申し上げましたように、こちらの温泉は空港の目の前でありますが、同時に電車の駅前でもあります。京成と一体運用されている芝山鉄道の芝山千代田駅から徒歩5分程度で辿りつくことができるので、東京方面から京成電車に乗ってアクセスするのも良さそうに思われるのですが・・・
この芝山鉄道は平日ラッシュ時ですら20分に1本、日中になると45分に1本という超ローカル路線になってしまい、その殆どは京成成田と芝山千代田の折り返し運行ですから、接続や乗り換えの手間・時間を考えると、意外と不便なのです(しかも芝山千代田駅は交通系ICカードが使えません)。もしこちらへ公共交通機関で訪れるならば、空港の第二ターミナルから送迎バスに乗ってしまった方が便利でしょう。
空港至近で温泉施設がオープンしたことにより、当然ながら空港利用者の利便性向上が期待されていたわけですが、これから軌道に乗せてゆこうとした矢先に、全世界を失望のどん底に落とす厄介な疫病の影響を受けてしまいました。実際に私が訪問した時も、空港利用者の姿はあまり見られませんでした。しかしながら、空港からの無料送迎バスは早朝や深夜にも運行されていますし、なにしろカプセルホテルがありますから、レガシーキャリアの国際便のみならず、深夜早朝に離発着するLCCの利用者にこそ便利な施設と言えましょう。COVID-19という疫病禍から全世界が抜け出て、再び自由に空の旅が楽しめるようになったら、この施設も脚光を浴びることになるでしょうね。一日も早く世界中に日常が戻ってくることを祈念して本記事をアップさせていただきました。
含ヨウ素-Na-塩化物強塩温泉 29.3℃ pH不明 溶存物質31160mg/kg 成分総計31200mg/kg
Na+:10850mg(89.07mval%), NH4+:112.9mg, Mg++:363.5mg, Ca++:269.0mg,
Cl-:18510mg(98.23mval%), Br-:123.5mg, I-:83.3mg, HCO3-:426.3mg,
H2SiO3:67.9mg, HBO2:12.5mg, CO2:40.1mg,
(平成30年9月5日)
加水あり(一部の浴槽において温泉の供給量不足を補うため)
加温あり(入浴に適した温度を保つため)
循環ろ過あり(一部の浴槽において衛生管理のため)
消毒あり(一部の浴槽において衛生管理のため塩素系薬剤を使用)
千葉県山武郡芝山町香山新田27-1
0479-78-2615
ホームページ
入浴営業11:00~翌朝8:00
入浴のみ(時間制限あり):平日1000円、土日祝1200円、朝5~8時:500円
岩盤浴や館内着のセット料金、カプセルホテル宿泊、貸切風呂など各種料金は公式サイトでご確認ください。
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
.
コメント
Unknown
環境の変化で温泉巡りできず、すっかりご無沙汰してしまいました。”再”環境の変化で温泉巡りができるようになり、かつ拠点が千葉になりました。
地域(内容)別索引千葉を見て当記事に心惹かれました。ここぜひ訪れたいですね!
千葉といえば、柏みのりの湯で夏季限定壺湯への加温加水循環消毒なしの約27℃源泉掛け流しが行われてます。
サウナや加熱浴槽と源泉壺湯の交互入浴で5時間くらい滞在できます。
お暇がありましたらぜひ。
またどうかよろしくお願いいたします。
Unknown
一つ書き忘れました。
グルーポンで1900→800円かつワンドリンク付きです。
Unknown
国民温泉さん、こんにちは。
温泉巡りができるようになり良かったですね。千葉県は火山こそないものの、意外と面白い温泉や鉱泉が多く、巡り甲斐があるかと思いますので、ぜひいろんなところを巡ってみてください。
柏みのりの湯の情報もありがとうございます。小耳には挟んでいたのですが、具体的なお話を頂戴し、ますます行ってみたくなりました。