今年もたくさんの温泉に入ってきましたが、その中で強く印象に残っているところのひとつが湯岐(ゆじまた)温泉の共同浴場「岩風呂」です。山間にひっそり湧く湯岐温泉は、500年近い歴史を有しているにもかかわらず、不便な場所だからか湧出量が少ないからか、3軒の鄙びた宿が山陰に隠れるように佇んでいるばかり、秘湯のような趣すら感じられます。そんな温泉地にもかかわらず共同浴場が存在しているのですからなかなか侮れません。
湯屋は常時無人。管理している山形屋旅館(上画像。湯屋の手前)で料金を支払います。
岩風呂と名づけられたその共同浴場はとても小さな湯屋で、浴槽はひとつだけの混浴、飾り気なんてありません。
入口のドアを開けるとすぐに下足場で、更に左手奥のドアの先が更衣室です。更衣室も浴室も男女共用で、双方はガラスのサッシで隔てられているため、入浴している様子も着替えている姿も丸見え。鰻の寝床のような細長い更衣室内には籠がずらりと並んでいます。
浴槽は思いっきり花崗岩がせり出した大きく深い槽の隣に、掛け湯用と思しき小さな槽が据えつけられています。主槽の岩が浴場の名の由来になっていることは容易に想像できますね。浴槽上の壁にはめ込まれた小窓には、盆栽と小さな額縁に収められた書が飾ってありました。主槽は半分が岩、残りがコンクリ造で、コンクリ部分は船舶に使うような空色のペンキで塗装されています。
一方小さな槽は、若干高めに位置しており、やはりこちらも半分は岩ですが、残りはタイル貼り。人が入るにはやや狭めで浅いので、掛け湯程度にしておいたほうが良さそうです。主槽より湯温が高く、ここから主槽へとお湯が注がれています。
カランはこれひとつだけ。まぁカランを使わなくても、直接お湯を湯船から汲んじゃえばいいんですけどね。
(右画像はクリックで拡大)
上述の通り、お湯は上段にある小さな槽が湯口代わりとなって、そこから落とされていますが、それのみならず、岩がせり出している先端部の底に空いているパイプからも供給され、更には岩の下のほうの割れ目からも頻りに泡がプクプク上がっているので、その間隙からも湧出しているものと思われます。足元湧出を証明するかのように、普通浴槽は上の方が熱いものですが、ここでは底が熱くなっていました。それぞれの湧出量(投入量)は少ないのですが、湯船がそれに見合った大きさなので、お湯が滞ることもなく、しっかりとオーバーフローされています。循環消毒はもちろんのこと加温加水もされていないのも嬉しいところです。
そのお湯は無色澄明、弱めのタマゴ臭が香り、ほろ苦さを含んだタマゴ味が感じられます。ツルツルスベスベ肌触りが滑らかでとっても気持ちよい浴感で、じっとしているといつの間にやら体中に細かい泡がビッシリ付着します。
不感温度に近いぬる湯である上、腰をしっかり沈められる深さがあるので、いつまでもじっくり浸かっていることができ、普段は落ち着きがなくじっとしていられない私ですら、軽く1時間は浸かり続けていました。
成分がとても薄いため肌に対する当たりが非常に優しく、でも薄いからといって没個性とはならず、しっかりとした知覚と浴感を有しているため、心地の良いぬるさや泡つきがこれに相俟って、一度入ると後を引いて出ようにも出られなくなってしまい、入浴者を虜にする魔力を持っているのです。
ぬるいので寒い厳冬期の入浴には不向きかもしれませんが(加温はするようです)、掛け流しのお湯が少ない地域にあって、こちらのお風呂は実に貴重な存在だと思います。神がかったようなお湯の良さと湯屋の素朴さが強く印象に残る共同浴場でした。
単純温泉 38.7℃ pH9.6 蒸発残留物157.3mg/kg 成分総計175.1mg/kg
(平成17年7月21日分析)
福島県東白川郡塙町大字湯岐字湯岐28 地図
0247-43-1370(山形屋旅館)
ホームページ
6:00~21:00(21:00~22:00は宿泊者の女性専用)
300円(一日入浴500円)
シャンプー・ドライヤーあり
私の好み:★★★
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