季節限定露天風呂でお馴染の福島県会津・金山町の大塩温泉から近いところにある温泉民宿です。先日、立ち寄り入浴でお邪魔しました。すぐ前には只見線の線路の築堤が横切っています。元々は石材屋さんなんだそうですが、敷地内にはその石材やらボートやら材木やら、いろんなものがゴチャゴチャと置かれており、少々近寄りがたい雰囲気。玄関の傍へ行くと、今度は2~3頭の番犬が一斉にワンワン吠えて威嚇してきます。外来客が訪れて大丈夫なのかしらと戸惑っていたら、ちょうど玄関からご主人が現れ、入浴したい旨を伝えると「あぁ、はいはいどうぞ」と迎え入れて下さいました。その時にご主人は玄関の扉に掛っていた「準備中」の札を裏返して「営業中」に変えたので、私が訪問した時間(15:00頃)はちょうど切り替えのタイミングだったのかもしれません。
玄関の上がり框には和太鼓をはじめ、木彫りの置物が所狭しと陳列されているのですが、何が象られているかといえば、キャップを被った恵比寿さんだったり、仙台四郎だったり、虎だったり、北京のテーマランドにいそうな不自然なドラえもんだったりと、統一感が全くないのが面白いところ。いろんな物が雑然と置かれているので、もう少し整理整頓したら良いのに…と思ってしまいました。
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。玄関同様、脱衣所も少々雑然とした感じですが、神経質な人ならともかく、まぁ普通に使う分にはそれほど気にならないでしょう。
洗い場は石板が敷かれ、浴槽は正方形に近い形状です。温泉成分が濃いのでしょう、浴槽は勿論、洗い場の床も一面が成分析出により象牙色に着色されていました。また湯口や排水路などには石灰華のような析出がコンモリ付着しています。
カランは押しバネ式が2組と、シャワー付き混合栓が1基。室内の壁にはカビのシミが多く、ゴミ箱も溢れていました。たまたま訪問時は最後の清掃から時間が経っていたのかもしれません。
浴槽隅の岩の湯口から源泉が投入され、浴槽手前側の切り欠けから排湯されていきます。源泉温度が高いため加水されていますが、加温循環消毒は無く、完全放流式の素晴らしい湯使いです。薄い翠色とクリーム色を混ぜたようにも見える黄土色に濁ったお湯からは、明瞭な塩味に石灰味+弱金気味+微炭酸味が、また弱金気臭と芒硝臭・弱石膏臭が感じられます。訪問時はしばらく誰も入っていなかったのか、湯面にカルシウムの薄い膜が張っていました。泉質名にカルシウムや炭酸水素塩の文字は含まれていませんが、これは単にmval%の値が相対的に低いだけであり、絶対量としては他の温泉に比べたらかなり多く、それゆえにお湯が触れる箇所ではコンモリとした石灰質の析出がみられるのでしょう。浴槽の底にも砂みたいな沈殿が溜まっていましたが、これもカルシウム分でしょうね。食塩泉・硫酸塩泉・そして重炭酸土類泉の特徴がそれぞれ濃縮されているような個性的で濃厚なお湯です。
さらに驚くべきは、浴室の窓を開けたら目の前に聳えているこの源泉櫓。こちらの温泉は平成2年7月に掘り当てた自家源泉で、目の前の櫓から湧出したお湯をそのままダイレクト&短距離で浴槽へと供給しているわけですね。源泉井戸からは絶え間なくジュボジュボと音を立てながら勢いよくお湯が湧き出、また櫓の下部は漏れ出た源泉によって噴泉塔状態になっているので、こうした光景を見るだけでも温泉ファンとしては大興奮です。惚れ惚れしながらじっと眺めてしまいました。しかもこのお湯がわずか数メートルの隔たりを経るだけで浴室へ直行しているのですから、温泉はこの上なく新鮮! 最高です。
訪問時は独占状態でしたが、その後徐々に地元のお客さんが入ってきて、皆さんとはエネルギー政策や先般の水害についてなど、床屋談義ならぬ温泉談義といった様子で、いろいろとお喋りしました。もともと滝沢集落には共同浴場があったのですが、数年前に利用できなくなり、その後はこの民宿のお風呂が実質的な共同浴場的な役割を果たしているようです。100円という破格な料金設定も、そういった事情によるものかと思われます。
ちょっと雑然としている施設ですがお湯は素晴らしいので、泉質重視の方でしたら訪問必須ですね。
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 52.2℃ pH7.1 溶存物質11.61g/kg 成分総計11.78g/kg
Na:3055mg, Ca:365.3mg, Cl:3130mg, SO4:2720mg, HCO3:1754mg, 遊離CO2:174.8mg
JR只見線・会津大塩駅より徒歩20分弱(1.6km)
福島県大沼郡金山町大字滝沢字細田1455 地図
0241-56-4970
営業時間確認忘れ
100円
シャンプーあり、ロッカーやドライヤーは無し
私の好み:★★★
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●おまけ 滝沢温泉共同浴場の現状(2011年11月)
国道252号(沼田街道)を走っていると、滝沢集落内の路傍の小屋に「瀧澤温泉」と書かれている看板が目に入ってきます。国道からちょっと下ったところに宿と共同浴場が一軒ずつ並んでいるのですが、いずれも10年ほど前に既に廃業しており、建物は廃墟になったまま放置されています。現状はどんな様子になっているのか、ちょっと覗いてみました。
共同浴場入り口。
浴室内部。あぁ…、こりゃ酷い…。
元々廃墟になっていたところ、今年(2011年)7月末の水害が直撃して、こんな惨状になってしまったのでしょう。ガレキの下にはかつての浴槽が見え隠れしていました。非現住家屋である上に元々管理放棄されていた物件ですから、原状回復なんてするわけもなく、かと言って解体工事が実施されるわけでもないので、おそらくこのままの状態を晒したまま、風雪によって朽ち果ててゆくのを待つばかりなのでしょう。
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