今回記事から再び台湾の温泉を取り上げます。日本と海外を行ったり来たりしてゴメンナサイ。
台湾には「警光山荘」と称する警察関係者専用の保養宿泊施設があり、台湾各地の主要観光地を網羅する形で計13ヶ所の施設が存在しています。所在地は以下の通りです。
いずれも原則的に警察関係者しか利用できず、一般人は立ち入ることができません。一覧をご覧になるとわかるように、これら13施設のうち、泰安・谷関・廬山・東埔・関子嶺・知本の計6ヶ所は温泉地であり、施設内には温泉浴場が設けられているのですが、残念ながら入浴可能なのは警察関係者だけ。しかも国家権力の保養施設ゆえに、民間では手が出せないような好立地と良質の温泉源泉を確保しているらしく、台湾で質の良い温泉に入りたければ「警光山荘」が一番良いという話をよく聞きます。
では、一般人は指を咥えて諦める他ないのかと言えば、必ずしもそんなことはなく、泰安と関子嶺の2ヶ所だけは警察関係者以外の一般人や外国人旅行者でも日帰り入浴することが可能であり、中でも以前に拙ブログで取り上げた泰安の「警光山荘」に至っては台湾籍の一般人はおろか外国人旅行者でも宿泊できちゃいます。
さて前置きが長くなりましたが、今年(2016年)1月に台湾へ出かけた際、台南エリアを観光した後に泥湯の温泉で湯浴みしたくなったので、すっかり日が暮れた後だったのですが、レンタカーを飛ばして関子嶺温泉へ向かうことにしました。
上述したように、有名温泉地で良質なお湯に入りたければ「警光山荘」が一番良いわけです。関子嶺の「警光山荘」は一般人でも日帰り入浴が可能なのですが、ここはいつも混んでいるという話を聞いていたので、私はいままで何度も関子嶺を訪れていながら、その都度敬遠して別施設を利用していました。でも当地で一番濃いお湯を引いているのはここであることに間違いないので、芋洗いの大混雑を覚悟の上、意を決して訪問することにしました。
広くて明るいものの、やや素っ気ない感が否めないロビーに入り、フロントで入浴をお願いしますと、私を見たスタッフの方は、一目で私が日本人であると見破り、片言の日本語混じりでにこやかに対応してくれました。「関子嶺 警光山荘」というワードでググると日本人による旅行記がたくさん出てくるように、入浴目的でここを訪れる日本人観光客は結構多いんですね。
フロントの先にある階段を下ってお風呂へ向かいます。階段の途中には「公衆温泉」と表示されており、ドライヤーなどが設置されている廊下を進んだ先の左が女湯で右が男湯となっていました。
なお浴室入口を通過して廊下を突き抜けると、裏庭のような屋外に出られ、そこに置かれたベンチでは湯上がりで休憩しているお客さんの姿が見られました。
台湾の古い温泉旅館や公衆浴場では、脱衣スペースが非常に狭くて、着替えどころか靴の置き場所にすら難儀してしまうような施設がありますが、ここのお風呂はその典型。ドア代わりに掛けられた厚手のビニールカーテンを開けると、いきなり目の前に浴室が広がっており、カーテンのすぐそばには括り付けの小さな棚やフックがあって、その場で脱衣して衣類や荷物をそこに置く(あるいはフックに掛ける)ようになっていたのでした。
男女別に分かれた内湯であるこの浴場では裸で入浴するのが作法であり、水着入浴に違和感を覚える日本人としては嬉しい入浴環境ではあるのですが、日曜の夜7時という時間帯だったので、広くない浴室内には15人以上のお客さんで混雑しており、デブのおじさんや筋骨隆々の若者、そしてツルッ禿げのおじいさんまで、実に多種多様な容貌のお客さんが、みな一様に口を真一文字に結び、半ば瞑目しながら静かに泥湯の湯船に浸かっていらっしゃいました。全裸の男たちが狭い空間で肩を寄せ合いつつ、額に汗を浮かばせて沈黙しながら熱い温泉に浸かるという、ちょっと異様なこの光景。どこかで見たことあるなと記憶をたどっていったら、台北近郊の陽明山にある「国際大旅館」も同じようなお風呂であったことを思い出し、台湾の古い温泉旅館ってどこも同じようなものなんだなと、妙に納得してしまいました。
さて浴室内には2つの浴槽がシンメトリに配置されており、どちらも灰色に濁っているのですが、左側の浴槽は見るからに濃く濁るグレーであるのに対し、右側の槽はグレーの濃さが若干薄く、やや赤みを帯びているように見えます。それもそのはず、濃いグレーである左側の浴槽には源泉から直接引いている温泉が張られて熱くなっているのに対し、右側の槽は泥湯でありながら真水が加えられて水風呂になっているのでした。
両浴槽とも槽内は石板張りで、大きさは2.5m×4m。一般的なお風呂よりも深く、底から湯面まで80cm以上はありますので、湯船の中では槽内側面のステップに腰掛けるか、あるいは相撲の蹲踞の姿勢をとることになります。左側の熱い浴槽に設けられた温度計には44.9℃と表示されていましたが、私が実際に入った感覚でもその数値に偽りはなく、確かに熱くて長湯できないような湯加減でした。それでも台湾の方はみなグッと堪えてじっくり浸かっているのですから、その忍耐力には恐れ入ります。その一方、熱い浴槽にお湯を注ぎ込んでいるパイプ吐出口のお湯を触ってみますと、意外なことにちっとも熱くなく、せいぜい35℃前後といったところ。ということは、見えにくい別の場所に熱い源泉を吐出している供給口があるのか、あるいはそもそもぬるい源泉を加温しているのか…。透明度が全く無いお湯ですので槽内の様子がわからず、実際の湯使いについては如何とも判断することができません。
しかしながら、お湯の濃さはホンモノであり、私がいままで入ってきた関子嶺温泉のお湯の中でも、ここのお湯は泥湯としての濁り方が最も強く、匂いや浴感などの知覚的特徴も秀でているように感じられました。何しろ、関子嶺温泉の源泉はこの「警光山荘」のすぐ隣にあり、他のどの旅館よりも良い状態で源泉を引くことができるのですから、お湯が良いのは当然です。
浴室内には関子嶺温泉独特の、版画インクを連想させるような鼻をツーンと刺激するアブラ臭が充満しており、お湯を口に含むと薄い塩味が確認できます。そして何より素晴らしいのが泥湯ならではの浴感。老若男女を問わず誰しもがこの泥湯に浸かれば全身の肌がツルツルスベスベになり、容姿端麗な女性はより一層、そうでない方はそれなりに、誰しもが滑らかで潤いのある美人肌を体得することができるでしょう。でも熱くて逆上せやすいお湯ですから、こまめな水分補給は欠かせません。このお風呂へ入室する際には、あらかじめPETボトルの水などを持ち込んでおくと良いでしょう(飲料の持ち込み可能)。また適宜隣の水風呂に入ってクールダウンするのも吉です。
古い台湾の温泉浴場では、しばしばシャワーなどの上がり湯設備が無いお風呂に遭遇するのですが、このお風呂にも温水シャワーやカランは無く、冷たい水が出る水道の蛇口と洗面台があるばかりです。このため、入浴前に体を洗う際には、洗い場に積んであるバケツや手桶を手にして、浴槽用の湯口から直接お湯(当然ですが泥湯です)を汲み、洗い場として確保されているスペースまでお湯を運んで、そこで体を洗うという流れを踏むことになります。慣れていないと戸惑いますし、だいいち面倒ですよね。
しかも上がり湯がありませんから、風呂上がりは体についた泥湯を洗い落とすことができず、関子嶺温泉独特のアブラ臭が体にこびりついたまま、しばらく匂い続けることになります。私のようにアブラ臭が大好きな人間にとってはこの上ない極楽状態なのですが、アブラの臭いが苦手な方にとってはちょっと厄介かもしれません。
ついでに申し上げれば、その洗い場スペースにはトイレも併設されているのですが、なぜか仕切りが半透明の樹脂板であるため、湯船に入っていると、中で用を足している人のシルエットが見えてしまい、何とも言えない複雑な心境になります。
というわけで、濃厚な泥湯と独特の佇まいは温泉マニアのハートを掴むこと間違い無く、私のような温泉バカには最適なのですが、台湾の古いタイプの温泉浴場に慣れていない方には、衛生面や心理的なハードルが高いため、ちょっとお勧めできないかな…とも思ったりします。ちなみに、関子嶺温泉を取り上げる観光ガイドやウェブサイトなどでは、顔に塗る泥パックがしばしば紹介されますが、このお風呂にそんな泥はありませんので、もし泥パックを期待なさっている方は、他のリゾート性の高い温泉ホテルへ行くことをおすすめします。「アメニティとか気の利いた設備とか、そんな洒落臭ぇもんは要らねぇ。濃くて良質なお湯がありゃ、それで十分だ」という本物志向の御仁にぴったりな、通好みのお風呂でした。
弱鹼性碳酸泉(灰色泥泉) PH值8 温度攝氏75~80度左右
台鉄の新営駅前から新営客運バスの白河行で終点白河下車。白河で関子嶺行に乗り換えて「寶泉橋」バス停下車。
(数年前までは新営から関子嶺まで路線バスが直通していたのですが、最近は途中の白河で系統が分断され、乗り換えを余儀無くされてしまいました。でも白河での接続が比較的スムーズになるようなダイヤが組まれています)
あるいは嘉義から嘉義客運バスの関子嶺行きで「関子嶺」バス停下車(嘉義客運のバス乗り場は台鉄の嘉義駅からちょっと離れているので注意)。
臺南市白河區關子嶺16號 地図
06-6822626
ホームページ
入浴可能時間8:00~10:00, 10:30~12:30, 14:00~16:00, 16:30~18:30, 19:00~21:00
130元(一般客は日帰り入浴のみ利用可能)
ドライヤーあり、他備品類なし
私の好み:★★+0.5
コメント
Unknown
さすがK-Iさん、めちゃくちゃディープなお風呂ですね。
警察の保養所情報までお持ちとはすごいけれど、ここは他にも行く日本人がいると言うのもすごいですね。
ネットやブログがなければきっと知りえなかった温泉です。いずれ行ってみたいものです。関子嶺は絶対に再訪したいので。
それにしても混んでいる温泉で写真はどうやって撮ったのですか。
Unknown
さすがK-Iさん、めちゃくちゃディープなお風呂ですね。
警察の保養所情報までお持ちとはすごいけれど、ここは他にも行く日本人がいると言うのもすごいですね。
ネットやブログがなければきっと知りえなかった温泉です。いずれ行ってみたいものです。関子嶺は絶対に再訪したいので。
それにしても混んでいる温泉で写真はどうやって撮ったのですか。
Unknown
さすがK-Iさん、めちゃくちゃディープなお風呂ですね。
警察の保養所情報までお持ちとはすごいけれど、ここは他にも行く日本人がいると言うのもすごいですね。
ネットやブログがなければきっと知りえなかった温泉です。いずれ行ってみたいものです。関子嶺は絶対に再訪したいので。
それにしても混んでいる温泉で写真はどうやって撮ったのですか。
Unknown
Luntaさん、こんばんは。
関子嶺の警光山荘に関しては、台湾の温泉を取り上げた書籍で以前から紹介されていたこともあり、意外にも多くの日本人観光客が訪れているようです。正直なところ、かなりマニアックなお風呂で、台湾の古い浴場にありがちな、独特の雰囲気に慣れていないと、ちょっと心理的ハードルが高いかな、という気がします。でもお湯の質は抜群に良いです。台北・北投の「滝乃湯」の雰囲気が大丈夫ならば、ここのお風呂も平気かと思います。
ちなみに写真に関しては、終了時間を狙い、他の客がみんな出払ったタイミングをはかって、一言声をかけて撮らせてもらいました。
Unknown
Luntaさん、こんばんは。
関子嶺の警光山荘に関しては、台湾の温泉を取り上げた書籍で以前から紹介されていたこともあり、意外にも多くの日本人観光客が訪れているようです。正直なところ、かなりマニアックなお風呂で、台湾の古い浴場にありがちな、独特の雰囲気に慣れていないと、ちょっと心理的ハードルが高いかな、という気がします。でもお湯の質は抜群に良いです。台北・北投の「滝乃湯」の雰囲気が大丈夫ならば、ここのお風呂も平気かと思います。
ちなみに写真に関しては、終了時間を狙い、他の客がみんな出払ったタイミングをはかって、一言声をかけて撮らせてもらいました。
Unknown
Luntaさん、こんばんは。
関子嶺の警光山荘に関しては、台湾の温泉を取り上げた書籍で以前から紹介されていたこともあり、意外にも多くの日本人観光客が訪れているようです。正直なところ、かなりマニアックなお風呂で、台湾の古い浴場にありがちな、独特の雰囲気に慣れていないと、ちょっと心理的ハードルが高いかな、という気がします。でもお湯の質は抜群に良いです。台北・北投の「滝乃湯」の雰囲気が大丈夫ならば、ここのお風呂も平気かと思います。
ちなみに写真に関しては、終了時間を狙い、他の客がみんな出払ったタイミングをはかって、一言声をかけて撮らせてもらいました。
Unknown
「警光山荘」が一番良いわけです。
流石は国家権力の恩恵、おっしゃるとおりですね。
Unknown
「警光山荘」が一番良いわけです。
流石は国家権力の恩恵、おっしゃるとおりですね。
Unknown
「警光山荘」が一番良いわけです。
流石は国家権力の恩恵、おっしゃるとおりですね。
Unknown
渡部さん、こんばんは。
昨夜は雪がちらつく東北の山奥にいたのですが、麓の里へ下りてきたら、桜と菜の花がとても綺麗でした。
各温泉地の「警光山荘」は、いかにも国家権力という感じがしますよね。泰安や関子嶺以外でも一般開放してくれたらありがたいのですが…。
Unknown
渡部さん、こんばんは。
昨夜は雪がちらつく東北の山奥にいたのですが、麓の里へ下りてきたら、桜と菜の花がとても綺麗でした。
各温泉地の「警光山荘」は、いかにも国家権力という感じがしますよね。泰安や関子嶺以外でも一般開放してくれたらありがたいのですが…。
Unknown
渡部さん、こんばんは。
昨夜は雪がちらつく東北の山奥にいたのですが、麓の里へ下りてきたら、桜と菜の花がとても綺麗でした。
各温泉地の「警光山荘」は、いかにも国家権力という感じがしますよね。泰安や関子嶺以外でも一般開放してくれたらありがたいのですが…。