前回記事で紹介した関子嶺温泉「警光山荘」で入浴した後のこと。まだその晩の宿を決めていなかった私は、熱い風呂に浸かってフラフラになり、もうこの場所から移動するのが面倒になったので、関子嶺で宿を探すことにしました。台湾屈指の温泉地である当地には多くの温泉ホテルが営業しているので、春節など余程のことがなければ部屋探しに困ることはないのですが、宿によってお部屋の値段とクオリティに大きなバラツキが見られることが、当地における宿選びの大きな問題。関子嶺の温泉街自体は、源泉があって戦前から温泉街が形成されてきた地区と、そこから急な坂を上がった先に広がる近年になって開発が進められた地区の2つに分けられ、前者は宿賃が安くてお湯は濃いけど設備的に見劣りする旅館が多く、後者は設備面は充実しているけどお湯が薄くて値段も高いホテルが多い傾向にあります。どんな点にプライオリティを置くかはお客さん次第ですが、どちらか一方を採れば他方を捨てねばならず、その取捨選択は実に悩ましいところです。
休暇をひがなのんびり過ごすのなら、多少奮発してリゾート性の高いホテルで寛ぐのも良いのですが、この時の私は、翌朝早く出発したかったので、濃い温泉に入れて一晩過ごせれば、多少部屋が見劣りしていても構わないと考え、古い温泉街にある「麗湯温泉渡假山荘」を飛び込みで訪ねてみることにしました。
夜8時頃にフロントを訪ねて、空室の有無を確認した上で料金を聞いてみると、1泊3,000元(日本円で10,000円強)という強気の料金が提示されたのですが、その金額に渋っていると「夜9時以降なら1,500元の部屋が空くよ」という答えが返ってきたので、これ以上交渉するのが面倒になった私は、この金額で泊まることにしました。
●夜9時までの時間つぶし。夕食と「水火同源」
さて、この晩の宿は無事決まりましたが、部屋に入れるのは1時間先。それまでの時間を潰すべく、まずは夕食を摂ることにしました。昔からある古い方の温泉街は、最近かなり寂れてしまったという話も聞きますが、さすがにこの日は週末だったからか、そこそこ賑わっており、メインストリートの道路の路肩は、路上駐車の車が隙間なく並んでいました。
この時の夕食は、以前拙ブログで取り上げた「関子嶺大旅社」の近くにある食堂でいただきました。注文したのはキャベツ(高麗菜)や山羊の炒め物。いずれもなかなか美味しかったですよ。
食後、温泉街から先の山奥へ車を走らせて、関子嶺の観光名所である「水火同源」を見学しに行きました(地図)
「水火同源」とは言い得て妙。なるほど水の真上で炎が上がっており、近寄ってみると熱気が伝わってきました。結論から言っちゃえば、自然噴出している天然ガスが燃えているだけなのですが、その真下に池があるため、あたかも水が燃えているかのような不思議な光景になっているわけですね。関子嶺温泉のお湯の特徴として強いアブラ臭を発することが挙げられますが、その匂いと「水火同源」で発生している天然ガスは、おそらくなんらかの関係性があるのでしょう。
でもこのあたりに人家のない鬱蒼とした山の中であり、街灯もほとんど無いので、夜に行くと真っ暗で何も見えません。しかも標高が高く、あいにくこの日は天気が悪くて濃霧が立ち込めていたため、温泉地から「水火同源」までの往復の険しい山道は、視界不良でめちゃくちゃ怖かったです。ここは夜に行く場所じゃありません。
●客室とお風呂
さて、夜9時を過ぎて宿に戻ると、宿のスタッフは、フロントがある「麗湯温泉渡假山荘」の本館ビルではなく、その左側に隣接している「清秀旅社」という木造のボロい建物へ私を案内しました。台湾で旅社といえば安宿のこと。どうやらこちらのホテルでは、本館のホテルの他に、別館のような形で旅社も所有しており、安い部屋を希望する私のような客には、本館のホテルではなく旅社を案内しているようです。ということは、先ほどフロントで値段提示された3000元のお部屋は本館にあるのでしょうね。
上画像は、翌朝にその「清秀旅社」の外観を撮ったものです。旅社の手前側には個室風呂が並んでおり、その奥で隠れるように建っている木造の古臭い建物が「清秀旅社」です。このお宿は日本統治時代に「清秀館」という温泉旅館だったらしいので、旅社の名前はその当時の名残なのでしょう。もしかしたら、この古い木造建築は戦前からのものだったりして…。
台湾の宿は日中に時間貸しを行うところが多いのですが、ご多聞に漏れずこの部屋でも、直前まで時間貸しの客が利用していたらしく、その客が退出した後に行われるルームメイキングの終了時間が夜9時だったわけです。室内はいかにも掃除したばかりという感が強く、床や什器類には布で拭いた跡がはっきり残っており、お風呂も清掃されていたものの全体的にビショビショでした。直線の利用客がどのような人だったのかわかりませんが、枕元に避妊具が置かれたベッドのある部屋で時間貸しということは・・・ま、おそらく、男女が本能のままに組んず解れつ・・・ということなのでしょうね。痴情の残り香が漂う部屋に、男一人で一晩を過ごすのかと思うと、ちょっと虚しい思いがしますが、でも決して汚いわけではなく、テレビ・エアコン・冷蔵庫など一通りの設備は揃っており、Wifiも使えますから、一夜を明かすだけなら特に問題ありません。
安宿とはいえ、さすが温泉地の宿らしく、客室には立派な浴室が備え付けられていました。宿泊中はお風呂に入り放題です。バスルームには、温泉浴槽の他、シャワーやトイレも設けられており、各種アメニティも用意されているので、使い勝手はまずまずです。
しかもお風呂は使う度にお湯を張り替えるタイプなので、その都度新しいお湯に入ることができるのです。お湯を重視する者にとって、これは嬉しいですね。浴槽用の水栓には「泥漿温泉」および「冷泉水」と書かれており、その字面からもわかるように「泥漿温泉」の水栓を開けると関子嶺温泉の泥湯がドバドバと吐出されました。
なお宿の説明によれば、行政から正式な源泉使用許可を得ている、関子嶺では数少ない旅館なんだとか。
水栓から出てくる泥湯の温度は52.2℃で、pH8.2。いかにも関子嶺のお湯らしく、版画インクのようなアブラ臭が強く漂い、まるで塩をたっぷり振りかけたゆで卵を食べているかのように、お湯を口に含むとはっきりとした塩味と弱いタマゴ味が感じられました。前回記事で「警光山荘」のお湯は濃厚だと申し上げましたが、こちらのお湯も負けず劣らずの濃さがあり、知覚的特徴も実に強く、アブラ臭の温泉が大好きな私としては堪らない匂いです。まるで中毒患者のように、浴室内で鼻をクンクン鳴らしながら、この匂いを嗅ぎまくってしまいました。
お湯だけで溜めようとすると、熱くて入れなくなっちゃうので、適宜加水をして温度調整をしながら、入浴に適した嵩までお湯を溜めました。グレーに濃く濁るお湯は透明度ゼロ。湯中では微細な粒子となっている湯泥がユラユラ動いて波状模様を描いており、見るからに濃厚な泥湯であることがわかります。
実際にお湯に浸かってみますと、泥湯はとってもクリーミーで、ヌルヌル&トロットロの滑らかな浴感が実に気持ち良く、まるで自分が美人に変身したかのように全身ツルツル。泥パックができるような湯泥はありませんが、でもお湯に浸かると、灰色の細かな湯泥の粒子が、肌の毛穴へ入り込んでいるのが見て取れます。
そうした泥湯ならではの浴感の他、このお風呂では使用の度にお湯を張り替えるわけですから、誰の肌にも触れていないフレッシュな温泉を自分一人で独占できちゃうという贅沢な湯浴みも、思う存分楽しめるわけですね。
はじめ部屋に案内された時は、こんなボロ宿で大丈夫なのかと、些か不安でしたが、お湯に満足し、宿泊中は夜2回、朝1回の計3回も入っちゃいました。
ちなみに、上画像は翌朝撮った本館の外観です。この本館には水着着用の大きな温泉プールがあるのですが、私のような旅社宿泊客は、本館のSPAは使えないと断られてしまいました。ま、お部屋のお風呂で濃厚な泥湯に入れましたので、私としてはそれだけで十分に満足ですけどね。
宿としてのレベルは可もなく不可もなしと言ったところですが、客室備え付けのお風呂で、自分が好きな時に思う存分、新鮮な泥湯の温泉を楽しめたことは、私にとって大きなメリットでした。
台鉄の新営駅前から新営客運バスの白河行で終点白河下車。白河で関子嶺行に乗り換えて「寶泉橋」バス停下車。
(数年前までは新営から関子嶺まで路線バスが直通していたのですが、最近は途中の白河で系統が分断され、乗り換えを余儀無くされてしまいました。でも白河での接続が比較的スムーズになるようなダイヤが組まれています)
あるいは嘉義から嘉義客運バスの関子嶺行きで「関子嶺」バス停下車(嘉義客運のバス乗り場は台鉄の嘉義駅からちょっと離れているので注意)。
台南市白河区関子嶺22号 地図
06-6822322
ホームページ
個室風呂では入浴のみの利用も可能なはずだが、料金調査忘れ。
宿泊料金は公式サイトでご確認を。
私の好み:★★
コメント