増富温泉 津金楼

山梨県

半年前の記録で申し訳ございません。
2018年秋、日本百名山のひとつである山梨県瑞牆山を登りました。瑞牆と書いてミズガキと読むことを、私は登る直前に知ったのですが、そんな無知な私でも十分に楽しめる魅力的で素晴らしい山でした。


今回の登山のスタート地点である「みずがき山自然公園」にて。
園内の紅葉、そして荒々しい岩肌が特徴的な瑞牆山。
この公園に車を停め、瑞牆山を登りながら反時計回りで周遊してまいりました。


不動滝ルートを登ること約2時間で頂上に到着。


裏道的な存在である不動滝ルート(黒森コース)を登っている時にはわからなかったのですが、紅葉シーズン終盤にもかかわらず、山頂には多くの登山客が登頂達成を悦んでいました。この山に登る多くの方は、瑞牆山荘側のルートを利用するでしょう。


山頂で背嚢をおろし、持参したおにぎりを頬張りながら360度の大パノラマを堪能。
↑画像は前年に私が登った八ヶ岳。自分が登ったことのある山を、別の山の山頂から眺めることって、特別な感慨がありますね。


山頂付近ではまるでキノコがニョキニョキ生えるように奇岩が屹立していました。ちょっと日本離れしたこの光景に、登山者は誰しもが反射的にカメラを向けていました。かく言う私もその一人。
そんな奇岩の彼方には南アルプスの稜線が左右に広がっていました。山稜が重畳する壮大な景観を眺めながら頬張るおにぎりは、どんな三ツ星レストランの料理よりも美味しいはずです。なおこの日の富士山は雲に隠れてしまい、姿を現すことはありませんでした。


さて、無事下山した私は、登山の汗を流して疲れを癒すべく、麓の温泉街である増富温泉へと向かいました。温泉街には数軒のお宿が営業していますが、今回訪ねたのは温泉街の一番奥に位置している「津金楼」です。大湯元を名乗っているお宿であり、なんと明治18年創業という老舗でもあります。玄関で声をかけて日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。


湯銭を支払った時、宿の方に「増富温泉は入ったことありますか」と聞かれました。後述しますが、増富「温泉」と称しているものの、当地で湧出している温泉の温度は20℃前後であるため、事情を知らない方がいきなり非加温で冷たいままの「温泉」に接すると驚いてしまうのでしょう。しかもこちらのお風呂には非加温浴槽がありますから、その入浴方法をご存知ないお客様ではないか、という配慮に基づいて声をかけて下さったんだと思います。
こんな屁理屈をこねられる私は当然ながら事情を知っていますので、「大丈夫です」と答えてお宿の方の説明を遠慮させていただきました。
帳場前にある階段で2階へ上がり、廊下を進んで浴室へ向かいます。館内は綺麗にされているものの、寄る年波を隠すことはできないようで、館内の随所に昭和の鉄筋コンクリ建築らしいレトロな雰囲気が横溢していました。

 
途中で大広間の前を通過します。このお座敷って休憩室として使えるのかな? なおその前には冷水のサービスが用意されていました。


長い廊下を歩き、やっとのことで浴室入口に到着です。脱衣室の内部も昭和から時が止まったかのような佇まいですが、特に不自由なく使えますので問題ありません。

 
男女別のお風呂は内湯のみ。男湯の場合、入って右側に洗い場が設けられており、カランが4ヶ所並んでいます(うちシャワー付きは3基)。

 
一方、洗い場の反対側には大小の浴槽がそれぞれ1つずつ並んでいます。
脱衣室側にある小さな方(↑画像)には加温された鉱泉が溜められています。小さいと言っても6~7人は入れそうな容量を有しており、非加温浴槽からの流れ込みを防ぐためか、隣の浴槽よりちょっと高くセッティングされています。
この浴槽では加温したお湯を循環させていますが、冷たい源泉もチョロチョロ注がれており、結果的に41℃前後という長湯したくなるような夢心地の湯加減に調整されていました。お湯からは金気味と石灰味が感じられるほか、若干の甘みや塩味も得られますが、どの特徴も非加温源泉よりは弱まっているように感じられました。またお湯の色はモスグリーンのような色を帯びて濁っていました。


一方、窓に面しているこの浴槽は源泉100%の冷たい鉱泉が張られた主浴槽。山や渓流の景色を眺めながら湯浴みできます。容量は失念してしまいましたが、かなり大きいので相当人数が同時に入れそうです。

 
岩積みの湯口から冷たい非加温源泉が投入されており、完全掛け流しの湯使いを実践しています。明るい黄土色に濁るお湯がオーバーフローする床一面には、千枚田のような析出がしっかりと現れています。また湯口周りの壁面にも鱗状の模様ができています。炭酸カルシウムが多いのですね。
浴槽では濁っているお湯も、湯口から出た瞬間は無色透明。空気に触れたり大気中に出て減圧されることにより濁りが生じるのでしょう。先程から冷たい冷たいと申し上げておりますが、そうは言っても20℃くらいなので、湯船に入る瞬間こそヒヤっと冷たいのですが、一度入ってしまえば体がすぐに慣れ、むしろ気持ち良く、ずーっと長い間浸かっていられます。増富温泉はラジウム鉱泉としても知られており、虚実はさておき、ラジウムの効能、つまり放射能泉の効能を得るには加熱してはいけませんから、この非加温源泉は当地の温泉の恩恵を受けるために欠かせない施設なのであります。

湯口のお湯をテイスティングしてみますと、山の中の鉱泉とは思えないほどしょっぱく、鉄さび系の金気味や土気味、そして炭酸味が強く得られます。また、出汁味も含まれており、金気の匂いも嗅ぎ取れます。口に含むとシュワシュワ感が口腔の粘膜に伝わってきたのですが、でも肌への泡付きは無かったように記憶しています。湯中ではキシキシ引っかかる浴感が肌に伝わります。こうした特徴を見ていきますと、泉質名こそナトリウム-塩化物温泉ですが、実際には重炭酸土類泉のような特徴を兼ね備えた実に面白い鉱泉であることはわかります。
塩分や炭酸のおかげなのか、非加温の湯船に浸かっても湯上がりは体の芯からポカポカするのが実に不思議で面白いところ。登山で疲労した筋肉をひんやりした湯舟でクールダウンしながら、不思議な温浴効果で心身をのんびり癒すことができました。ラジウム云々は正直なところ眉唾なのですが、食塩や炭酸の効果は本物だと思います。しかもこの鉱泉は自然湧出している自家源泉。温泉ファンでしたら是非入っておきたい一湯です。
派手さこそありませんが、質実剛健と言うべき実力派の良質な鉱泉でした。

津金楼源泉
ナトリウム-塩化物温泉 26.0℃ pH6.3 13.7L/min(自然湧出) 溶存物質10254.8mg/kg 成分総計1115.1mg/kg
Na+:2940.5mg(80.80mval%), Mg++:18.8mg, Ca++:269.7mg(8.50mval%), Fe++:7.6mg,
Cl-:3927.3mg(74.33mval%), Br-:9.6mg, I-:0.4mg, SO4–:606.5mg(8.47mval%), HCO3-:1543.1mg(16.97mval%),
H2SiO3:206.6mg, HBO2:176.1mg, CO2:860.3mg,
(平成21年5月15日)

山梨県北杜市須玉町小尾6699
0551-45-0711
ホームページ

日帰り入浴10:00~16:00
800円(1時間程度)
貴重品帳場預かり、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5

コメント

  1. 国民温泉 より:

    こんばんは
    素晴らしい景色。素晴らしい写真!これ見ながらローソンのツナマヨ食べてましたが、とてもおいしく感じました。
    アブラ臭、にゅるにゅる、不感温度、モール泉・・・いろいろ魅力的なものありますが、冷鉱泉源泉と加熱鉱泉の交互入浴も素晴らしいですね。
    ここで増富の記事はまさにグッドタイミング、佼成寮宿泊とセットで近々行ってこようと思います。

  2. K-I より:

    Unknown
    国民温泉さん、こんばんは。
    増富へ行かれるご予定があるのですね。湯めぐりの参考になれば幸いです。写真には自信がないのですが、お褒め下さりありがとうございます。
    山の頂上で頬張るおにぎりは実にうまく、そして下山後に入る温泉も最高に気持ち良く、山と温泉は切っても切り離せない関係にあり、かつ両者とも素晴らしい快楽をもたらしてくれる、非常にありがたいものだと思っています(^^)。
    おっしゃえるように冷温浴の繰り返しもまた爽快ですね。慣れてくるほど中毒性を帯びてくるように思います(笑)。

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