然別峡 野湯めぐり

北海道

初夏を迎えた今、北海道の野湯を巡るには丁度いい時期ですね。今年もどこかへ行きたいなと今まで撮ってきた画像を眺めていたら、然別峡の野湯群に何回か訪れておきながら当ブログで全く書いてこなかったことに気づいたので、ここでまとめてアップしてみることにしました。ブログというものは鮮度が命ですが、去年の画像だったりそれ以前のものだったりと、記事としての統一性や新鮮味を欠いており、しかも撮影のタイミングがバラバラ。あまり情報価値の無い記録かもしれませんが、所詮は素人ですのでどうかご了承を。

・鹿の湯
道道1088号線を北上、現在休業中のかんの(菅野)温泉手前で左に折れ、坂を下ってゆくと、T字路にぶつかりますが、ここを左に行くとやがて野営場が現れるので、その場内を徒歩で進んでいって「露天風呂」と書かれた看板に従い川縁へ下ると、たどりつくのが鹿の湯です。然別峡の野湯の中では最も入りやすく万人受けするのではないでしょうか。

 

渓流の岸にきちんと浴槽が築き上げられており、野湯というよりはちゃんとした露天風呂と表現したほうがいいかもしれません。訪問時はお湯の量が少なく、しかもぬるめ。折しも雨が降っていたので、軽く震えながらの入浴になってしまいました。
大きな浴槽のすぐ傍の崖沿いには「夫婦の湯」と呼ばれる小さな湯壺があります(画像右)。湧きたてのお湯が溜まっており、湯温も高め。鹿の湯と夫婦の湯を足しで割ればちょうどよい湯加減になるんですが、そう簡単にはいかないのが野湯の宿命。

 

・テムジンの湯
上述のT字路を右へ進むと、ダートの林道が原生林の中をクネクネと縫うように伸びているので、ここをしばらく走ると、やがて「いでゆ橋」という小さな橋を渡ります。その名前から想像できるように、ここから先は然別峡の野湯地帯です。
 

この橋のすぐ右側(東側)に小さな駐車スペースがあるので、そこに車を止め、川の方へ伸びる杣道を歩くと、間もなく右側にユトルクシュナイ川のせせらぎが沿う形となり、滑りやすい足元に注意しながら坂を下っていけば、視界に入ってくるのがテムジンの湯。ちょうどユトルクシュナイ川とユウヤンベツ川の合流地点に当たります。
 
当然ながら野湯は定期的な清掃が行われているわけではないので、ちょっとでも放置するとすぐ藻が発生して、かなり不衛生になってしまいます。訪問時のテムジンの湯はまさにその状態で、湯面からはドブ臭さも漂っており、とても入浴に耐えられそうにありませんでした。上の左側画像で川の水と比べれば一目瞭然、お湯は一面淀んだ深緑でおどろおどろしい有様。こういうときはお湯を抜いて清掃し、またお湯を張りなおせばよいのですが、一人でそこまでやる根性の無い脆弱な私は入浴を断念。湯温だけ測ってきました。48.8℃なので結構熱め。なお、湯船のそばにはホースが置かれているので、熱ければそれで川の水を入れて薄めたり、あるいは清掃の際にすすぐ水としても使えるわけです。

・ペニチカ(チニカ)の湯
上述のテムジンの湯へ行く杣道の分岐点より林道を数百メートルユウヤンベツ川の上流へ進むと、再び川のほうへ分かれる道が現れます。こちらは車の轍があるので、行ける所まで車で行って(2台くらい停められる駐車スペースあり)、あとは歩いて川のほうへ下れば、ペニチカの湯あるいはチニカの湯と呼ばれる湯溜まりに到着です。駐車スペースに1台の車が止まっていたので、もしやと思って道を下ってみたら、案の定先客のおじさん一人がいらっしゃって、ちょうどお風呂の清掃を終えたところでした。私のような都会育ちの軟弱野郎とは違い、一人でできることは自分でやっちゃうのが開拓民の血を引く道民の方の逞しいところ。ご挨拶したら「これから入るところだから一緒にどうぞ」と言ってくれたので、お言葉に甘えて清掃したばかりのお湯にタイミングよく入ることができました。
 
お湯を張ったばかりなので、入りしなは熱かったのですが、川の水を少しずつ入れてちょうど良い塩梅に。水で薄める前後を比べると、薄める前(直上の画像左)は透明度があるものの、薄めた後(直上の画像右)は薄く白く濁っています。ここのお湯は、ちょっとの温度や成分量の違いで、こんなに変化するものなんですね。口に含んでみると、お出汁から塩っ気をかなり抜いたような味、土気の匂いと硫黄臭そして燻したような匂いが感じられました。
浴槽はしばしば大きさが変わるようで、おそらくは増水で石が流されたり、あるいは浴槽に土砂が埋まったりするためだと思われますが、それでも浴槽としての形は維持されており、そばには枝を組み合わせて作った洋服掛けもあったりして、ここを愛用する人のお風呂への愛情が感じられました。
件のおじさんは札幌在住で、よく一人で道内の温泉を巡っているとのこと。氏曰く、然別峡の野湯にはそれぞれを管理している愛好家によって暗黙のうちにテリトリーが張られているので、各湯で余所者は余計なことをしてはいけないんだとか。こんな山奥深くにも人間の縄張り意識が染みついていることに幾許かの驚きをおぼえましたが、でもそういう方々のおかげでこうした野湯が築き上げられて維持されているのですから、ごく自然なことなのかもしれませんし、私の如き本土から来た一介の外部者がとやかく嘴をはさむ筋合いの話ではないでしょう。

・たぶんメノコの湯(あるいは崖下の湯)
ペニチカの湯から川下へすぐのところにもお湯が湧いて溜まっていました。これがおそらくメノコの湯あるいは崖下の湯と呼ばれるものでしょう。サイトによって呼称が異なり、上述のおじさんも「人によって呼び名が違うんだよね」と言っていたので、確証は持てません。
ここも藻が大量発生しており、清掃するのが面倒なので入浴はパスしましたが、湯溜まりの崖側には洞穴のようなものがあって(直下の画像右)、おじさん曰くサウナっぽくなっているそうです。
 

・対岸の湯
直上で紹介したメノコの湯(あるいは崖下の湯)と思しきお風呂のユウヤンベツ川を挟んだ対岸には、その名も「対岸の湯」と呼ばれる野湯があります…、と言いたいところでしたが、この時は増水していて浴槽はすっかり川に呑み込まれていました。画像ではわかりにくいかと思いますが、対岸の川岸に石が列をなしている辺りが「対岸の湯」の位置になります。

・ダム下の湯
 
こちらも一定の名前があるのかわかりませんが、ロケーションから察するに、おそらく「ダム下の湯」と呼ばれているものだと思います。おじさんに「こっちにも温泉が湧いてるから、ついておいで」と言われるのに従い、笹藪をかき分けて川上のほうへ進むと、目の前には轟音を立てながら水を落とすダムが聳え立っており、その下には石で組まれたかわいらしい湯溜まりがありました。
直射日光がモロに当たるロケーションなので藻が発生しやすく、この時もお湯は一面藻だらけで、深緑どころか部分的には泡や浮き上がった腐敗物で白くなっていましたが(直上の画像左)、ここはおじさんと一致団結して清掃することに。お湯を抜き、ホースで川の水を注ぎ込みながら傍に置かれていたデッキブラシでゴシゴシ洗い、改めてお湯を張りなおして完了。約1時間を要したその清掃の結果が直上の画像右。全然違いますよね。男二人入るとちょっと窮屈さを感じてしまうほどの小ささですが、なかなかお湯が溜まらないので待ちきれず、おじさんと肩を並べながらほとんど寝湯状態で湯あみしました。


御覧の通り、ダムの直下だから「ダム下の湯」。周囲は木が伐採されているので、然別峡の他の野湯群より明るく開放的です。それにしてもここの湯溜まりは川からちょっと離れているのにしっかりと石が組まれて、しかも平らに均されていて、実によくできています。
ここにも枝や細い幹を組んで作った洋服掛けがありました。

 
湧出箇所は赤く染まっていました。お湯からはペニチカの湯のような知覚の他に、金気っぽい匂いと味が感じられたので、おそらくその成分析出によるものでしょう。51.8℃とやや熱めですが、湧出量があまり多くないので、お湯を張り終わるまでには冷めて、むしろぬるく感じてしまうぐらいでした。

 
更に上流側のダムサイト直下にも小さな湯溜まりがありました。こちらは石組などが施されていないため、いくら清掃しても底の泥や腐った葉などが舞い上がってしまい、入浴できるような状態にはなりませんでした。しかし、おじさんが言うには「こないだ女性がここに入ったんだよ」。ちょっと信じられません。余程肝が据わった好事家なのかも。男より女のほうが度胸ありますからね。

この他にも然別峡には野湯がたくさんあるそうなのですが、それらはまだ未踏なので、機会があれば訪れてみたいと思います。
余談ですが、菅野温泉はもう復活しないんですかね…。3年前に行ったきりなので、もう一度あのお湯に入りたいのですが、現実的には相当難しいようです。

野湯なので分析表なし

北海道河東郡鹿追町然別峡
【地図】
 鹿の湯
 テムジンの湯
 ペニチカの湯
 ダム下の湯

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