滝ノ上温泉 滝峡荘

岩手県

初冬の今時期に、冬季休業の施設を取り上げて申し訳ありません。


岩手県雫石町の滝ノ上温泉や鳥越の滝一帯は日本屈指の地熱地帯で、あちこちから大地の力を感じさせる白い噴気が上がっており、また最奥部には地熱発電所としては東日本最大である葛根田地熱発電所(見学不可)も稼働していたりして、地熱ファンのアドレナリンまで大噴出してしまう興奮の光景が広がっているわけですが、にもかかわらず、滝ノ上温泉には宿泊施設が実質的に3軒しか無く、日帰り入浴もこのいずれかでお願いすることになります。
今回はその3軒の中でもっとも素朴な「滝峡荘」を取り上げてみます。川の右岸の県道沿いにある他2軒と異なり、この「滝峡荘」だけは川の左岸に位置しているため、橋で対岸へ渡ります。烏帽子岳や三ツ石山への登山拠点にもなっていて、建物は周囲の景色の中にすっかり溶け込んでおり、宿というより山小屋と表現すべき施設ですね。そんな風情を求めて、滝ノ上では敢えてこちらを選ぶ方も多いのではないでしょうか。私もそんな人間の一人です。

 
玄関を入って声をかけると、小窓を開けてご主人が対応してくれます。表札をよく見ると「元国民宿舎」と書かれていますが、あくまで「元」なんですね。ま、この宿を訪れるようなお客さんは、そんな肩書きなんて気にしないでしょう。また扁額には「日本一のラジウム温泉」と記されており、ラジウム温浴の効能を強調していますが、そのあたりに関して詮索するのはやめておきます(^^)


廊下を進んだ左側にはこのような大広間が。建物全体が下界とは一線を画すような、いかにも山小屋らし風情に包まれていました。


こちらの宿の特徴の一つは、呼び鈴やインターホンなどの代わりに、板と小槌が随所にぶら下がっていること。急用などでご主人を呼び出すときにはこれを乱打して音を鳴らすわけですね。


浴室は内湯のみ2室あり、どうやら男女入れ替え制のようでして、私はいままで2度訪問していますが、前回は手前側、先日は奥の浴室に男湯の暖簾がかかっていました。
まずは奥側(川側)の浴室から。脱衣所は2人入ればいっぱいになってしまうこじんまりとしたものでした。

 
トタン葺きの屋根以外は総木造の、いかにも山奥の小屋のお風呂らしいお風呂で、余計なものが無く、実によい雰囲気ですね。後背の源泉地で集められた源泉は、浴槽の脇に這わされたパイプを通って一旦小さな枡に落とされてから浴槽へと注がれています。その枡には温度計が突っ込んであり、目盛は50℃を指していましたが、湯船では43℃くらいまで下がっており、加水することなく入浴することができました。

浴槽は4人サイズの長方形。お湯は僅かに白く霞んでいるように見えますが、ほぼ無色透明で、薄い茶色の浮遊物がたくさん湯中を舞っており、弱い砂消しゴムのような匂いと味、そして石膏のような匂いと味、更には微かな酸味とほろ苦さが感じられます。湯加減こそ熱めですが、お湯自体はとても柔らかく、肌にしっとりと馴染む優しい浴感です。


お湯はもちろん掛け流し。排水は床に空けられた穴から真下へ落ちてゆきます。尾籠な譬えで恐縮ですが、まるで昔の列車の垂れ流しトイレのようです。


浴室内にも呼び出し板が。熱いお湯ですから、急にのぼせてフラフラになっちゃったお客さんに遭遇したら、これをガンガン叩いて緊急を知らせばいいわけだな…。

 
浴室の隅っこには掛け湯用の枡が置かれています。浴室内にはカランが無いので、これで掛け湯したり体を洗ったりするのですが、浴槽と違ってこちらはそんなに熱くありませんでした。


窓の外には鳥越の滝の上流部にあたる葛根田川の渓流や滝ノ上温泉の小さな河原が広がり、山肌ではあちこちで白い噴気が上がっています。紅葉は終盤を迎えていました。

 
次に手前側(山側)浴室の様子。室内空間も浴槽も、こちらは奥側(川側)の浴室より一回り小さめ。細い筧からお湯がふんだんに落とされており、しっかり掛け流されています。浴槽が小さいからか、こちらではあまり湯温が低下せず、かなり加水してようやく入浴できる湯加減となりました。


もちろんこちらの浴室にも掛け湯用の枡が。この画像でも一目瞭然ですが、やっぱり手前側(山側)の浴室は全体的に小さめですね。

ふんわり硫化水素らしさを主張しつつも、全体的には非常に優しく柔らかいお湯。このような繊細なお湯は、こちらの山宿のように、余計なものが一切ない質素なお風呂で味わうのが一番です。お湯の良さに集中できますからね。また浴室が総木造なのでお湯が有する自然性に同化できるような気がします。いままでこちらには日帰り入浴でしか利用したことが無いのですが、素泊まりのみの設定ながら宿泊もできますから、今度は食材を持ち込んで宿泊してみようかしら。

滝峡荘 ラジウムの湯
単純硫黄泉(硫化水素型) 68.3℃ pH3.9 湧出量測定不可(自然湧出・4ヶ所混合) 溶存物質0.0850g/kg 成分総計0.1088g/kg
Na:2.8mg(13.64mval%), Ca:9.8mg(55.68mval%), SO4:43.5mg(92.78mval%), 遊離H2S:4.1mg

岩手県雫石町長山東葛根田国有林176ホ
019-676-2175(長谷川さん)
ホームページ

8:00~18:30 冬季(11月下旬~4月)休業
400円
ボディーソープあり、他の備品類なし

私の好み:★★★

コメント

  1. 裏ぱと より:

    Unknown
    縁合ってコチラの管理人さんと仲良くさせて頂いてます!ラジウム泉のどっぷり疲れるお湯は魅力的でファンが多いですが荒らされたく無いお湯の一つです!個人的には女湯の湯舟の方が好きです、カメムシは御愛嬌と言う事で…

  2. K-I より:

    カメムシ・・・
    山間の自然豊かなお宿では、どこでもカメムシやアブに悩まされますよね。たしかにここのお宿もそんな環境ですし…。
    でも本当にここのお湯は素晴らしいですね。あの風情あふれる素朴な造りの浴室だからこそ、その魅力が余計に引き出されるように思います。

  3. ぱと より:

    Unknown
    ご無沙汰です、やっと働き始め先程愛知県から帰って来ました!
    さて、滝峡荘は先月21日で今期の営業を終了し現在は更地と成って折ります!来年新しく建屋で営業すると思いますが、以前とは別物のスタイルで営業再開すると思われます!それと山梨の某温泉施設もそう遠く無い内に廃業するみたいです!

  4. K-I@津軽 より:

    Unknown
    ぱとさん、ご無沙汰しております。
    お仕事お疲れ様です。
    東北の朝晩の冷え込みに体が慣れず、風邪をひいてしまいました。

    >現在は更地
    営業終了から更地になるまで、あっという間だったんですね。雪が降る前に…ということなんでしょうね。以前の山小屋然とした建物も良い雰囲気でしたが、新しい建物にも期待したいところです。情報をお寄せ下さりありがとうございます。

    >山梨
    どこだろう…。地域を問わず、温泉宿の廃業が相次いでいますね。東京・京都・大阪等は急増する需要に宿泊施設の供給が追いついていない一方で、地方のお宿は依然として経営が厳しいのでしょうね。後継者の問題もあるのでしょうし。

  5. シロー より:

    ここも廃業
    15年の秋に1ヶ月かけて北海道を周ったあと、東北に入り最後の1週間で青森・秋田・岩手を回り鳥越の滝と温泉と渓谷の紅葉を見にやってきた時に入ったのがここでした。
    確か入り口に今日で最後みたいなことが書いてあったように記憶しています。なのでいつもは早く上がる私ですが、最後と言うことでじっくり長湯させていただきました。
    同年、桜野温泉熊嶺荘も廃業したとこのブログで知りましたが、いい温泉がどんどん無くなっていきますね。リニューアルしたら風情はなくなりますがそれが残念です。

  6. K-I より:

    Unknown
    >シローさん
    おっしゃるように、風情や味わいのある良い温泉が、次々に過去帳入りしており、ブログで紹介している私としても、実に寂しい思いです。シローさんはこちらへ最終日に訪れたのですね。先日の熊嶺荘もそうですが、ギリギリのタイミングで辛うじて間に合っているんですね。温泉がシローさんを呼んでいるのかもしれませんね。

  7. ぱと より:

    Unknown
    最新情報です、先程元管理人さんと電話で話ししたのですが滝峡荘が復活に向けて動いているらいしいです、時期等は判りませんが色々根廻ししてるらいしです、全て更地にしたと思って居たら浴室は残して有ったらしいです

  8. K-I より:

    Unknown
    ぱとさん、こんばんは。
    ぱとさんだからこその情報、ありがとうございます。復活に向けて動いているんですか。それは吉報ですね。多少時間を要するかと思いますが、またあの場所で入浴できる日が来ることを祈っています。

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