野々湯温泉

鹿児島県

星の数ほどある日本の温泉施設の中には、「ここのコンセプトって何? 客を迷わせてどうする気?」と訪問した客の思考回路を混乱させる訳の分からない不思議なところがありますよね。今回取り上げる「野々湯温泉」は私がそう実感した場所のひとつです。

 
霧島山麓に広がる茶畑の間を縫うように細い山道を登っていきます。鹿児島県は日本第二位の生産量を誇る茶処で、主な生産地は薩摩半島の知覧やこの霧島一帯ですが、その事実をご存知の方は日本国民の中でどのくらいいらっしゃるのでしょうか。


やがて茶畑も視界から消え、山裾の樹林帯をジグザグによじ登る坂道をひたすら進みます。道を間違えたかと不安を抱きはじめたころ、目の前にこんなゲートが現れました。ゲートから先の坂道はひどくバンピー。


登りきると妙に荒涼とした広い敷地が広がっていました。まずはどこに行けば良いのかしら…。
しばらく利用されていないようなコテージが立っているかと思えば…


その手前のちょっと眺望が開けたところには、古ぼけた双眼鏡が一台だけポツンと立っていたり…


更にその右奥には長い間使われた形跡が見当たらないステージが放置されていたり…。ここって廃墟だらけなのかしら。

 
駐車場を中心にした寒々しい敷地を見渡すと、LEDの電光看板や幟が立っている棟を見つけたので、とりあえずそこを訪ってみることに。


玄関前には「お湯汲み場」と称する設備がありました。
中に入るとそこは古民家調の食事処で、中央に据えられた囲炉裏から立ち上る煙のために室内は目がショボショボするほど煙い状況。その煙に燻されて追い出されてしまったのか、室内には誰もおらず、どうしたらよいものかと路頭に迷ってウロウロしていたら、やがておばちゃんが建物の奥から現れ「お支払はここでね。お風呂はここから出て左に曲がってちょうだい」とのこと。


ぶっきらぼうな説明に呆然としながらも、とりあえずお金を払って指示された通りに煙が充満する食事処を出ると、そこには足湯が設けられていました。

 
足湯が設置されている見晴らしの良い場所からは、庭園の向こうに見える山腹に建物が建ち並んでいますが、どうやらそれらが温泉棟なんですね。ずいぶん広い敷地だこと。


案内看板に従い、足湯と細長い池の間を歩いて脱衣所に到着。手前が男用。女性はさらに奥へ。


ログハウス調の脱衣所はムダに広い。結論から申し上げますとデッドスペースが多く、非常に非効率的な空間なのです。地形に合わせて作られているのかもしれませんが、室内にはやたらと段が多く、また2階にはマッサージチェアが数台置かれているのですが、全て故障中なので階段を上がるだけ無駄。入口すぐのところには脱衣用の棚がありますが、ここで着替えるとお風呂まで結構歩かなきゃいけないので、この棚の利用はおすすめしません。かといって、広い空間がある割には棚や洗面台など、お風呂に必要な実用的設備が少なく、どんな目的をもってこの建物を建てたのか、設計士のその真意を聞いてみたいものです。


ステップを下りながら廊下を奥へ進むと…


そのどん詰まりにも更衣スペースがありました。棚が無くロッカーが数個のみ。狭くて使い勝手が悪いのですが、こちらの方がお風呂に近いので、混雑していなければここを使うべきでしょうね。私は初見ながら経験則による予感が働いてこの建物の構造を推測できましたが、それを知らず入口を上がったところで着替えちゃうと、「なんだよ。こんなお風呂に近いところでも着替えられたんじゃねぇか」と、ちょっとしたトラップに引っかかったような感覚に陥るかもしれません。

 
浴室へ足を踏み込んだ途端、鼻孔を刺激する硫化水素の匂いが室内に漂っていました。設備面ではいまひとつだったこの施設でも、お湯に関しては期待が持てそうです。一見すると露天のような広々としたお風呂ですが、匂いが籠っていることからも推測できるように、側面はガラスサッシで、頭上は透明なアクリルの屋根でそれぞれ囲われているため、内湯と称すべきでしょうね。屋根を支える柱や梁に使われている木材が太くて立派!
奥へ長細い岩風呂は中央に仕切りが設けられており、ここを境に湯温が異なります。それぞれについて岩肌には「温(ぬる)湯」「熱(あつ)湯」とペイント書きされていましたが、実際にお湯に触れてみるとその逆で、「温湯」と書かれた奥側がやや熱く、手前の「熱湯」サイドがぬるめという、アベコベな状態でした(たまたまこの日だけかもしれません)。手前側の浴槽のぬるいお湯は、単に温度が低いのみならず、若干お湯がなまっているようにも感じられ、湯中には薄い褐色の浮遊物が目立っていました。


この湯口は「温湯」と書かれた奥側にあります。湯口のお湯は加水されているのか大して熱くありませんが、この投入のおかげか、奥側の浴槽のお湯は手前側の浴槽よりはるかに鮮度感があり、浮遊物もあまり目立ちませんでした。お湯は無色透明、砂消しゴムのような味+弱酸味(微収斂)が感じられます。室内に充満していた硫化水素臭は、なぜかお湯からはあまり嗅ぎ取れません。

 
ここで注目すべきは岩風呂の岩にホンモノの噴気孔が口を開けている点。これには私もビックリしました。噴気孔を目の前にして湯あみできるお風呂って、他に類を見ないのではないでしょうか。硫化水素臭の正体は、お湯ではなくてこの噴気ではないかと思われます。噴気孔の周りには硫黄の結晶が固まっており、岩自体もけっこう熱いのです。

 
洗い場にはシャワー付き混合栓が3つありますが、水栓金具は硫化して真っ黒に。


噴気孔の岩肌の上には温泉熱を利用した蒸し風呂が設けられています。噴気の岩を右に見ながらステップを上がって室内へ。


室内はこんな感じ。温度は45℃くらいで、この程々の温度と温泉ミストがやさしく体を温めてくれるので、私はこの施設の中でこの蒸し風呂が最も気に入りました。

 
窓サッシが並ぶ一番奥からテラスへ出ることができ、そこには木枡の露天風呂が据え付けられていました。広い敷地や内風呂に反し、この露天はやけに小さく、そのアンバランスさが初訪問の私には解せません。露天には視界を遮るものが無いので、一応見晴らすことはできるのですが、目に入ってくるものは山の木々の他、この施設のコテージ群、何かを作って壊したと思しき形跡、そして無秩序にウネウネと地面を這うホース類ばかりで、自然の中にありながら殺風景なんですよね。この殺風景さは日本というより台湾に近いものを感じます。

HPを拝見すると、他にも広い露天などいろんなお風呂があるみたいですが、私が利用した男湯の雰囲気から察するに、そうした未入浴のお風呂にはあまり興味が抱けなかったので、パスさせていただきました。広い敷地を持て余しているのか、無駄な設備や施設が多いようです。グランドデザインを描かず、行き当たりばったりでビルド・アンド・スクラップor放置を繰り返しているような感を受けました。これが原因か、お湯に関するインプレッションも薄れてしまい、良いお湯だったか否か、正直なところ記憶にございません。いずれにせよ不思議な施設であることは間違いないので、B級感の濃い場所が大好きな御仁には垂涎モノかもしれませんね。

温泉分析表見当たらず

鹿児島県霧島市牧園町三体堂1824-41  地図
0995-76-9336
ホームページ

9:00~21:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★

コメント

  1. あたる より:

    もう訪れることもないでしょう
    実に的を得た表現をされています。
    まず脱衣所を含め全体的に清掃がなされていない。
    そして不具合がまったく点検修理されていない。
    お湯がでない。
    シャワーがチョロチョロ、一つは使えない。
    洗い場は3つだけ。
    家内の女湯では、子供を連れてきている人が多かったために並んでいたとのこと。
    しかもお湯が出ないので寒いと皆さん口々に言ってたとのこと。
    結論は、たとえ100円でももう来ない! とカミさん。
    でも僕はタダでも来ません。

    身体とそして心もゆったりと癒そうと思って行きましたが、ストレスと不満が噴出。

    もてなす気持ちがかけらも感じられない野々湯でした。

    ホームページを見て行ったのがマチガイ!!

  2. K-I より:

    Unknown
    あたるさん、こんばんは。ここは上手く活かせば良い温泉になるはずなんですけど、はっきり言っちゃえば宝の持ち腐れ状態で、野放図な構内を目にして「勿体無いなぁ」と思いました。言わずもがな、霧島エリアには九州屈指の温泉の宝庫。あたるさんご一家が寛げる良い温泉が他に必ずあるはずですので、今回にめげず、是非再訪してお気に入りの温泉を見つけてくださいませ♪

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