旭岳山麓 岩の湯・ピラの湯(弘法の湯群)

北海道

虫の活動が沈静化して藪の茂りも衰える秋は、絶好の野湯シーズンですね。ということで、今回から数回連続して北海道の野湯を取り上げていきます。今回は前回掲載した「中岳温泉」を含む旭岳登山(その1その2)の下山後に訪れた野湯「岩の湯」および「ピラの湯」です。

 
旭岳から下山してロープウェイで山麓駅まで戻った後、駅から近い某所から寂れた登山道へと入ってゆきます。この道はあまり使われていないのか、湿原に架かる木道はボロボロに朽ち果てており、慎重に歩かないと踏み抜いてしまいます。葦原からクマさんがひょっこり出没しないか、ヒヤヒヤしながら先へと進みました。

 
途中の経路に関する詳細は記述を避けますが、途中で登山道から離れて、黒くて太くて固い(いやんエッチ…)配管に沿って藪を突き進んでゆくと川に突き当たりますので、その川に架かる鉄の橋で対岸へ渡ります。


一帯は旭岳温泉の源泉地帯となっており、橋を渡ってすぐのところには配湯槽らしきタンクが設置されていました。先ほどの黒い配管は温泉街の施設へお湯を送る配湯管なんでしょう。この辺りはいろんなところから水や温泉が湧いてジメジメしているため足元がグチャグチャになっており、慎重に歩かないとズブっと足首まで泥に潜ってしまいそうな状態でした。また藪が茂ってすっかり踏み跡が消えており、面倒くさい藪漕ぎを強いられました。ネット上の訪問記を拝見していると、残雪期に訪れている方が多いようでして、どうしてわざわざ雪が積もっているコンディションを選んでいるのか不可解だったのですが、このひどい藪、そして泥濘と化した足元を目にしてよくわかりました。なるほど、積雪があったほうが歩きやすいかもしれません。


こんな感じで斜面のあちこちから温泉が沁み出ているので、どうしても足元が悪くなるんですね。


おお!この光景はネットでも見たことがあるぞ。大量のお湯が流れるこの坂を登るんだな。繰り返しますが足元はグッチャグチャ、しかも坂道ですから非常に滑りやすいのです。幸いにして坂にはロープがありますから、これに掴まって慎重に登りました。なお私は防水のトレッキングシューズを履いていたのですが、ちょっと奮発して高い靴を買った甲斐があったのか、坂を流れる温泉水に足首まですっかり浸かってしまったにもかかわらず、靴の中はかろうじて濡れずに済みました。長靴があれば楽チンだったでしょうね。


登りきったところで振り返ってみると、空の上を渡るロープウェイが姿見へ向かって登ってゆくところでした。車内から私を見つけたお客さんは、なぜあんな山の中に人がいるんだろうと不思議に思ったかもしれません。
実は当初、ここの場所の特定にあまり自信が無かったのですが、早朝登山のためにロープウェイに乗っていたら、ゴンドラの右手で勢いよく白い湯気が上がっている箇所を発見したので、ここで間違いないと確信したのです。

 
坂を上りきった箇所の崖では大量のお湯があちこちから湧出して坂へ向かって流れ出ていました。画面ではわかりにくいのですが、そうした崖の一部には集湯のための配管が設置されているのですが、配管に集めきれなかったお湯が溢れ出ており、温度を測ってみると38.0℃でした。

 
そのお隣の湧出箇所からあふれ出るこちらのお湯は44.4℃。ぞろ目ですね。入浴するにもちょうど良い温度ですが、残念ながら湯溜まりらしきものは無かったので入浴は断念。


さらに藪を掻き分けてゆくと…

 
川に接したところに今回の目的地である野湯のひとつ「岩の湯」が現れました。

 
人工的に造られたと思しき「岩の湯」は上方から滝のように落ちてくる温泉によって湯船のお湯が張られており、温度計を突っ込んでみたら33.1℃という数値がはじき出されました。一旦入ると出られなくなりそうな、かなりぬるめの湯加減ですが…


足元の泥濘と温泉、そして背の高い藪に苦戦しながらも難所を突破し、ようやく目的地へたどり着けた達成感、そして渓流沿いというすばらしいロケーションについつい興奮してしまい、気づけば全裸になって入浴していました。入る前のお湯は無色透明で清らかに澄み切っていましたが、底には泥や苔・藻がたくさん沈殿しており、一歩足を踏み入れただけで忽ちそれらが舞い上がって何だか汚らしいお湯へと変貌しちゃったため、悲しい哉それらにまみれながらの湯浴みとなってしまいましたが、でも湯の花と違って泥も苔や藻も重い物質ですから、しばらくじっとしていれば徐々に再沈殿してゆき、数分で元通りの澄んだお湯が復活しました。

  
岩の湯へお湯をもたらしているミニ滝の上方には、もうひとつの目的地である「ピラの湯」がありました。両者の間は10メートルもありません。苔に覆われた崖全体からお湯が湧出しており、温泉の雫を滴らせる苔がとても美しい光景を作り出しています。

  
「ピラの湯」は主に2箇所から湧出しており、その量は結構豊富です。湯溜まりの温度は33.5℃と「岩の湯」とほぼ変わらない湯加減でした。「岩の湯」に入っておきながらこちらに入らない理由はありません。


というわけで、こちらでも入浴し自画撮りしてしまいました。やはりこちらも足を入れると同時に汚らしい沈殿がブワっと舞い上がり、さっきまで綺麗に澄んでいたお湯が俄然ドブのような淀んだ濁りを呈しはじめましたが、可能な限りそれらを除去した上で再沈殿するのを待っていたら、数分後、期待通りに元通りの清らかな状態へと戻ってくれました。
さてお湯の知覚に関することですが、見た目は既に述べているように無色澄明、匂いは特に感じられず、味覚面に関しては衛生面にビビったため確認しませんでした(さすがにお湯を口にする勇気はありませんでした)。でも旭岳温泉の源泉であるということは、おそらく含食塩土類正苦味(or石膏)泉かそれに近い泉質なんでしょう。


ちなみにこのときの現地の気温は19.3℃。いくらなんでも9月末の旭岳山麓の気温とは思えない暖かさでしたが、それでも33℃のお湯はぬるく感じられ、あまり温まった気分になれませんでした。スタート地点から僅か15分しか歩かないのに、かなり面倒な道のりを経なければならず、たどり着くまでの距離の割りには苦労が多い野湯ですが、それゆえの達成感はひとしおですし、周囲の環境も開放感も抜群です。そして、至る所から温泉が湧き出る崖や、「ピラの湯」の苔の美しさは、一見の価値がありました。ぬるいので夏向きなのかと思いますが、夏になれば虫の猛襲が待っているでしょうから、やっぱり虫の季節は外したほうがいいんでしょうね。今回はアブが1匹ウロウロしていただけでしたので虫の被害には遭わず、心置きなく全裸になることができました。ただ、靴は泥だらけになりましたが…。

野湯につき温泉分析表なし

北海道上川郡東川町勇駒別

いつでも入浴可能
無料
野湯につき備品類なし
クマや虫には注意
長靴で行くとかなり楽。

私の好み:★★

コメント

  1. zataro50 より:

    Unknown
    旭岳山麓ワイルドですね。当方青森競輪場温泉で我慢したいと思います。
    ※10/7に小5の息子と湯田中翆泉荘再訪の予定です。食堂のTVどうなっているか確認してきたいと思います。

  2. K-I より:

    Unknown
    zataro50さん、こんばんは。
    >湯田中翆泉荘
    今度の連休ですね。お気をつけていってらっしゃいませ。あの博物館所蔵品クラスの古いテレビを、宿泊時にカメラにおさめておけばよかったと後悔しています。完全地デジ化後も使われているのかちょっと心配ですが、もし現役だった場合、お子さんが見たらビックリするでしょうね(^^)

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