※現在お風呂には入れなくなってしまったようです。
石段を登り切った一番上に建つお食事処「処々や」。店頭カウンターでは「伊香保焼き」と称するたこ焼きを販売しており、その絶好な立地条件のために、石段を登りきって一休みがてらたこ焼きを摘もうとする観光客の姿がこの日もたくさんいらっしゃいました。さて、このお店に関して「伊香保 処々や」という検索ワードでググってみますと、本来は食事処のはずなのに、なぜか検索結果上位に列挙されるのは食べログでもぐるなびでもなく、名だたる温泉ファンサイトの数々。店頭のどこにも入浴可能なんて文言はありませんが、ネット上の情報によればここでお風呂に入れるらしいので、そんな隠れキャラのような存在感に誘惑され、ちょうどお昼でお腹が空いていたので、ランチがてら暖簾を潜ってみることにしました。
お食事の方は2階へ。元々は旅館だったそうでして、急な階段や低い天井はいかにも古い日本建築そのものですが、石段が眼下にまっすぐ伸びる客室の窓はとても見晴らしが良くて爽快です。また客席はテーブルで一席一席にもゆとりがあり、眺望を楽しみながらゆったりと食事することができました。
水沢うどんの土地柄ですからうどんを頼めばよかったのかもしれませんが、この時は蕎麦が食べたかったので天ざるを注文しました。そのオーダーの際に「食後にお風呂へ入りたいのですが」と伝えますと、係の方は心得たと言わんばかりに頷いて、伝票の一番下に温泉マークを書き入れてくれます。
食後に精算を済ませると、係の方がお風呂へと案内してくださいます。2階へ上がる階段の踊り場にその入口があり、私が入ろうとすると入口の札を裏返して「入浴中」にしてくれました。貸切利用なんですね。脱衣室は狭くてただ棚が備え付けられているだけ。前回取り上げた「吉田屋旅館」と同じく、浴室は男女別に分かれているものの、女湯へは男湯の脱衣室を通り抜けていかねばならない構造です。
浴室にはどなたもいなかったので、入浴前に女湯を見学させていただきました。
続いて男湯のお風呂へ。ひょうたんの縦に切ったような浴槽を反転させた「く」の字型の仕切りで男女に隔てたような構造をしており、昔の旅館らしく男湯は空間も浴槽サイズも女湯より一回り大きく確保されていました。男湯女湯ともにシャワー等といった現代的な設備はなく、水道の蛇口が一つとそれにぶら下がっているネット入りの石鹸が一個あるのみ。渋い佇まいのお風呂は、まるで湯治宿のようです。
天井に湯気抜きはあるのですが外気との温度差が影響してるのか、室内には濛々と湯気が充満しており、それとともに黄土色にらしい金気や石膏の匂いもしっかり篭っていました。
やはり「吉田屋旅館」と同じく両浴室の間にはパイプシャフト的な空間があり、その内部では滝のように源泉が落とされていて、飛沫をあげながら轟々と落とされるその音は浴室内で大ボリュームで響いており、また飛び散る温泉によってタイルの壁面も赤茶色に染まっていました。お湯を手にとって口にしてみますと、鉄錆味+石膏味+土気味+微塩味が感じられます。なお、この湯口の空間を覗くと女湯が丸見えだったりするんですね。ま、貸切利用だから問題ないですね。
入浴する前の湯船に張られているお湯はモスグリーンを帯びた暗い山吹色の薄混濁でしたが、足を入れてお湯を動かすと底に溜まっていた沈殿が撹拌されて忽ち赤錆色に強く濁り、その透明度は15cmあるかないかで、底は全く見えなくなっちゃいました。
上画像で2枚の写真を並べ比較しましたが、左(上)画像の暗いモスグリーンのお湯が入浴前、右(下)の赤い濁り湯が入浴後です。沈殿の撹拌によって混濁具合が全く異なることが、明確におわかりいただけるかと思います。
浴室へ入る際にお店の方が「今時期の伊香保のお湯はぬるいですので、ゆっくり長湯してください」とおっしゃっていましたが、その通りに40℃を下回っているような湯加減でした。でもこれは即ち非加温ということであり、加温加水循環濾過が一切行われていない正真正銘の完全放流式の湯使いであり、実際に長湯をしたら湯上りには外套が暑く感じられるほど体の芯までしっかり温まりました。これぞ伊香保の湯のパワーなんですね。
湯船に体を沈めるとオーバーフローによって洗い場が洪水状態になってしまいます。また湯上りに体をタオルで拭うと、タオルはオレンジ色に染まってしまいました。前回取り上げた「吉田屋旅館」では、このお風呂より石段の下方に位置しているにもかかわらず、ここほどお湯は濁らず、またタオルもそれほど染まりませんでした。この違いはどういうことなんでしょうか…。お湯の濁り方は石段の上下位置によって左右されるのかと言えば、そう単純な原理では片付けられないんですね。
そんな屁理屈はともかく、完全かけ流しの黄金の湯が貸切で堪能できる素晴らしいお風呂を利用することができ、温泉ファンの皆さんが絶賛されていた理由に心の底から納得しました。
総合湯
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉 42.0℃ pH6.3 蒸発残留物1.05g/kg 成分総計1.39g/kg
Na+:115mg, Ca++:138mg, Fe++:7.34mg,
Cl-:127mg, SO4–:313mg, HCO3-:278mg,
H2SiO3:181mg, CO2:174mg,
JR渋川駅より関越交通バスで伊香保温泉バスターミナル下車、徒歩4分(約350m)
群馬県渋川市伊香保町伊香保10 地図
0279-72-2156
10:00~17:00 水曜・木曜定休
食事をすれば入浴可能
備品類なし
私の好み:★★★
コメント
たぶんですが…
バスはJR沼田駅ではなく、JR渋川駅からだと思います。
Unknown
とんとんさん、ご指摘ありがとうございます。いま確認しましたら、伊香保の他の記事も「沼田」と誤記しておりましたので、訂正させていただきました。大変失礼いたしました。助かりました(^^)
近況
先日伊香保温泉に訪れた際に立ち寄った所、店の営業はしておりましたが温泉入浴は無理でした。設備故障とかではなく「温泉が落ちてこなくなった」そうで、再開についても難しい顔で言葉を濁していました…。
これは話に聞く伊香保の配湯権益を巡る黒い噂が事実ということなんでしょうか?
ブログの写真では健在な隣の旅館も廃墟になっているし、そもそも半数近い旅館が廃墟状態だし…伊香保はその泉質・湯量に対して旅館の数があまりにも多過ぎたのが全ての元凶だと思いましたね。
Unknown
>たちかわ某さん
お風呂に入れなくなってしまったのですか!? しかも隣の旅館も廃墟になってしまった!? この記事を書いた時点で既に空き家の多い斜陽な温泉街になっていましたし、その後の噂も耳にしていましたが、しばらく伊香保へ行かないうちに、輪をかけて残念な状態になってしまっているのですね。おっしゃるようにお湯の配分にも無理があったのでしょうし、伊香保という場所そのものがいろんな意味で負のスパイラルに陥っているような気がします。大きな資本はそれなりの集客があるのでしょうけど、囲い込みが強化されてしまうと、大手以外はますます厳しくなっちゃいますね。