虎杖浜温泉 民宿赤富士荘

北海道

 
白老町の虎杖浜温泉は、湯量が豊富で施設も数多くあるにもかかわらず、登別という超有名温泉地が近くにあるためか、道民以外にとっての知名度がかなり低いマイナーな温泉に成り下がっているようであり、それが影響しているのか、昭和から時が止まっているような鄙びた風情の宿が多いような気がします。今回はそんな虎杖浜の国道36号沿いという極めてわかりやすい場所にある「民宿赤富士荘」で立ち寄り入浴してまいりました。建物には入浴利用を歓迎する電光看板が出ていますし、隣にはセイコーマートが店を構えていますので、車でここを走行しているとかなり高い確率で目に入ってくるかと思います。また通りの向かいには、以前拙ブログで取り上げた「民宿500マイル」が位置しています。


玄関の引き戸を開けて館内に入ると、下足場には誰のものともわからない靴やスリッパが散乱しており、早くもB級感を強く漂わせていました。B級施設に慣れていない方がその光景を見たら、畏れ慄いてすぐさま戸を締めて引き下がってしまうでしょう。かく言う私もちょっと嫌な予感がしましたが、でも客商売しているからには、それなりにちゃんとしたお風呂なんだろうと期待し、館内に上がって受付で声をかけて入浴をお願いしたところ、つげ義春の漫画に出てきそうな、影のあるキャラクターのおばちゃんがそろりと現れて、私から湯銭を受け取りました。
カウンターの上には「当店はあくまで宿泊優先施設です(中略)一般入浴は午前八時から午後九時まで」と日帰り入浴客を牽制する注意書きが立てられていました。朝8時から夜9時までの長時間にわたって日帰り利用できるのでしたら、わざわざ注意喚起しなくても良さそうな気もしますが、幹線道路沿いという立地ですから、真夜中に「ひとっ風呂浴びさせてくれよ」と求めてくる運転手さんもいるんでしょうし、実際に近所の国道沿いにある「花の湯温泉」は24時間営業ですから、うちは夜中はダメなんですよ、と説明しなきゃいけない事情があるんでしょうね。


帳場を抜けてラウンジに出ると、そこには2つの浴室の扉がありました。一般的に2つの浴室がある場合は、男湯と女湯に分けてその区分を固定させながら使用するものですが、どうやらこちらは違うらしく、片方を男性が使えば、他方が女湯になるようでして、ドアには表裏にそれぞれ「男湯」「女湯」と書かれた札が掛かっており、その時々によって不定期に男女が入れ替わるようです。実際にネットでこのお風呂について調べてみますと、右側の浴室を「男湯」であると説明するブログがある一方で、その逆を表示しているサイトもあったりして、何だかよくわかりません。ちなみに私が訪れた時にはなんとは両方とも「男湯」となっていました。おそらく先客が勝手に男女の札を裏返したために、こんなことになっちゃったのでしょうけど、この時は他にお客さんがいませんでしたし、宿のおばちゃんも「今なら両方とも大丈夫ですよ」と仰ってくださったので、せっかくですから両方見てみることにしました。

 
ちなみに浴室前のソファーが置かれたラウンジも結構ゴチャゴチャしていて、なぜかパーマ機がソファーの代わりとして用意されていたり、はたまた30年以上前のゲーム喫茶にあったようなテーブル筐体のアーケードゲームがテーブル代わりに置かれていたり、清掃用具やお風呂道具が床に雑然と置きっぱなしにされていたりと、ちょっとしたカオスと化していました。

●右側の浴室
 
先程のおばちゃん曰く「右は明るくて、左は広いですよ」とのことですので、まずは明るいとされる右側の浴室から入ってみました。ドアには葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」のコピーが貼り出されています。脱衣室は至ってシンプルで、棚に籠が置かれているばかりですが、棚には漂白剤やお風呂道具などが置きっぱなしにされており、また床に敷かれたマットはグッショリと湿っており、お世辞にも衛生的であるとは言えない状態でした。たまたまタイミングが悪かったのかもしれませんね。

 
タイル張りの浴室には大小に分かれた浴槽が設けられ、洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。カランから出てくるお湯は真湯ですが、ボイラーの調子が良くなかったのか、出始めはボコボコと音を立ててエアを噛みながら不規則に噴き出ちゃっていました。なお、おばちゃんが言っていたように、窓からは陽光が降り注いでおり、玄関から脱衣室へ至るまでに感じてしまった私の不安を払拭するほどの明るさが保たれていました。


壁には北斎の「凱風快晴」、いわゆる赤富士が描かれています。赤富士はこちらのお宿の屋号にもなっていますから、お宿の象徴でありますね。

 
2つに分かれた浴槽のうち、手前側の小さな槽は2人サイズで、床には古臭い化粧タイルが敷き詰められており、壁際にへばりついている岩の湯口から温泉が直接注がれていて、42~3℃くらいの湯加減となっています。そして小さな浴槽を満たしたお湯は仕切りの上を流れて、その隣の大きな槽へと流れこみ、大きな槽から床へとオーバーフローしています。湯使いは完全放流式で循環等は行われていません。大きな浴槽は3人サイズといったところですが、こちらには湯口が無く、小さな浴槽からのお湯を受けているだけなので、この時はぬるい上にお湯が淀んでいるような滞留感があったので、私は鮮度感がはっきりしている小さな方のみに入り、大きな方は入りませんでした。

こちらの宿に引かれている湯は柏透湯温泉であり、以前拙ブログで取り上げた「民宿500マイル」にも同じお湯が引かれています。見た目としては薄い茶褐色の透明で、小さな浴槽には茶色い浮遊物がチラホラしています。薄い塩味とほろ苦味を有しており、モール臭とミシン油臭をたして2で割ったような芳香を漂わせています。湯船に浸かるとツルツルスベスベ感が肌を滑らかに滑り、気泡の付着も見られ、その心地良さのため何度も肌を擦りたくなってしまいました。

 
浴室には奥へつながる扉があり、試しにそこを開けてみますと、眼前には半露天風呂の残骸のような空間が広がっておいました。足元には空っぽの浴槽が寂しく姿を晒しており、毛布かマットか得体のわからぬ大きな布が干されっぱなしになっていたのですが、その光景を目にした私は、見てはいけない場面を見てしまったような気がしましたので、ここには一歩も立ち入ること無く、すぐに扉を締めて浴室へ戻りました。

●左側の浴室

続いて左側の浴室へ。
こちらの脱衣室もシンプルなレイアウトながら、右側の脱衣室と同様に雑然としており、足拭きマットがグッショリ湿っていました。こちらのお風呂を利用するお客さんは、ビショビショのまま浴室から上がってきちゃう人が多いのかな。

 
宿のおばちゃんが言っていた通り、こちらの浴室は右側よりも一回り大きな造りになっていますが、窓が少ない分、明るさは劣っています。洗い場にはシャワー付き混合水栓は4基設置されています。室内の広さといい、シャワーの数といい、昭和の日本の男尊女卑的な発想から推測すれば、こちらの方が本来の男湯なのかもしれませんね。


浴槽の上の壁面には、北斎の「神奈川沖浪裏」の富士山を赤富士に染めなおしたものが描かれていました。富士の色を変えるのみならず、赤富士にする整合性をとるためか、空の色も茜色に変えられています。

 
こちらも大小2つの浴槽に分けられており、湯口のお湯が直接注がれる小さな方は3人サイズ、そこから流れてくるお湯を受けている大きな方は4人サイズとなっています。浴室の大きさに合わせる感じで、浴槽も右側の浴室よりそれぞれ一回り大きくなっていました。なお湯加減に関して、右側の浴室では小さな方が42~3℃で大きな方はぬるかったと述べましたが、こちらも全く同じ関係であり、引かれている源泉も同じものです。
こちらにも奥へつながる扉があり、開くと半露天風呂の残骸のような空間が広がっていましたが、やはり使われないまま放置されていて、空っぽの浴槽の中にはゴミが散らかっており、かなり荒れていました。お宿の名誉のためにもその様子の画像は写しておりませんのであしからず。

B級な雰囲気が色濃い施設ですが、アクセスしやすい立地ですし、日帰り入浴時間も長くとられていますから、ドライバーさんが長距離運転の最中にひとっ風呂浴びるには良いかもしれませんね。昭和的であり家庭的でもあるという、虎杖浜温泉の施設によく見られる特徴を兼ね備えたお風呂でした。

ナトリウム-塩化物温泉 46.8℃ pH8.6 湧出量記載なし(動力揚湯) 溶存物質1.040g/kg 成分総計1.040g/kg
Na+:299.6mg(96.23mval%),
Cl-:352.4mg(71.00mval%), SO4–:33.1mg(4.93mval%), HCO3-:144.3mg(16.86mval%), CO3–:28.7mg(6.86mval%),
H2SiO3:164.3mg,

JR室蘭本線・虎杖浜駅より徒歩17分(1.4km)
北海道白老郡白老町字虎杖浜6-21  地図
0144-87-2987

日帰り入浴8:00~21:00
300円
シャンプー類あり、他備品見あたらず

私の好み:★★

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