東根温泉では比較的多くのお宿で立ち寄り入浴を受け入れていますが、可不可の判断は各お宿の営業方針によりますから、「お隣の宿で入れたからこちらの宿でも大丈夫だろう」なんて適当な考えて事前調査もせずに訪問し、あえなく玉砕することもしばしばです。東根の足湯そばに位置する旅館「小関館」も、かつては入浴のみの利用が難しいとされていましたが、先日そのことをすっかり忘れて何の気なしに「入浴お願いできますか?」と伺ったところ、「はい、どうぞ」と笑顔で快く受け入れてくださいました。
お昼すぎに伺ったため、館内にお客さんの姿は見えず、薄暗さ静寂が支配していました。帳場のカウンターに目をやりますと「1回の入浴料は400円でございます」と書かれたメッセージカードが立っており、偶々私がラッキーだったわけではなく、今では入浴のみの客も恒常的に受け入れていることがわかります。
入口に「鶴の湯」と彫られた立派な扁額が掛けられた脱衣室へ入りますと、室内は古風ながらもしっかりとお手入れされており、気持ちよく使うことができました。壁には安藤広重「東海道五十三次赤坂宿」の縮小版複製が飾られていました。
室内に置かれている懐かしいバネの体重計も、室内のレトロな雰囲気を一層濃くしています。洗面台は2台設けられており、ドライヤーも備え付けられています。
お風呂は男女別の内湯のみで、浴室の戸を開けると、湯気とともに室内に漂うミシン油のようなアブラ臭が、ふんわりと香ってきました。側面2方向にはガラス窓が設けられ、天井まわりの空間は女湯側と一体になっているため、画像をご覧になって想像される以上に明るくてゆとりが感じられます。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が2基取り付けられており、カランから出てくるお湯は源泉です。アブラ臭好きな私は、シャワーのお湯を頭からかぶって思いっきりアブラ臭まみれになり、まるで興奮した麻薬探知犬のように頻りに鼻を鳴らし、アドレナリンを大放出してしまいました。
ちょっと崩れた平行四辺形の浴槽は大体4~5人サイズ。縁には石材が、槽内にはタイルが用いられており、石灯籠のような飾りを載せた隅っこの湯口より熱めのお湯(協組12号源泉)が注がれています。湯船に張られているお湯は淡い鼈甲色をした透明で、湯中では綿のようなチャコールグレーの湯の華が浮遊しています。館内表示によれば加温加水循環消毒が一切ない完全掛け流しとのこと。ただ源泉の温度が高いためか、湯口からの投入量をやや絞ることによって温度調節を図っていました。上述のようなアブラ臭を放つお湯を口にしてみると、薄い塩味と清涼感のあるほろ苦みが感じられ、口腔を転がったアブラの芳香が喉から鼻へと抜けていきました。
こちらのお風呂でユニークなのが湯船の排湯方法でして、人が入れば縁から洗い場へしっかりオーバーフローするのですが、通常時にオーバーフローは見られません。でも槽内に排湯用の穴らしきものは見当たらず、オーバーフロー管が顔をのぞかせているわけでもありません。ではどのような仕組みになっているかと言えば、浴槽縁の内側の湯面ライン上に、ひと目ではわからないような隠し穴があけられており、そこから排湯されているのです。お湯の良さもさることながら、こんなさりげない上品さも気に入りました。
お湯をザバーっ溢れ出させながら肩までお湯に浸かると、ツルツルスベスベとしたとても気持ち良いなめらかな浴感が肌を滑り、熱めの湯船で逆上せそうになっても、その気持ち良い感覚に後ろ髪を引かれ、湯船からなかなか出られなくなってしまいました。東根のお湯はクオリティが高いので、何度入っても飽きません。
余談ですが、掲示されている分析表の泉質名には「含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉」と記されていたのですが、穴があくほど分析表のデータを隅々まで凝視しても、総硫黄が2.0mgを超えないので、硫黄泉には該当しないような気がするのです。具体的には硫化水素イオン1.4mgと遊離硫化水素0.2mgですから、硫黄泉を名乗るには総硫黄があと0.4mg足らないんですよ…。分析数値が間違ってるのか名称が誤っているのか、あるいは以前は硫黄泉だったがその後泉質が変わったにもかかわらず泉質名を変更していないままなのか…その辺りの事情はよくわかりませんが、データの数値や実際に自分で入浴した体感から申し上げれば、「含硫黄」を省いた「ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉」が現在の正しい泉質名ではないかなぁ…と素人ながらに考えてしまいました。ま、余計な屁理屈はともかく、湯上がりは程よいポカポカ感が続き、しかも爽快感まで伴い、実に心地よい感覚が持続しました。良いお湯でした。
さくらんぼ東根温泉協組12号源泉
含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 62.2℃ pH7.9 蒸発残留物1199mg/kg 溶存物質1327mg/kg
Na+:370.5mg, Ca++:46.0mg,
Cl-:440.6mg, Br-:1.1mg, I-:0.2mg, HS-:1.4mg, SO4–:203.4mg, 159.8mg,
H2SiO3:65.2mg, HBO2:20.0mg, H2S:0.2mg,
(平成17年3月14日)(掲示されている分析表の数値を訂正せず一部抜粋)
JR奥羽本線・東根駅より徒歩16分(1.3km)
山形県東根市温泉町1丁目8-15
0237-42-0003
ホームページ
立ち寄り入浴時間要問い合わせ
400円
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★;0.5
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