信州・松本の浅間温泉にはいくつかの共同浴場が温泉街に点在していますが、その多くは地元の方しか利用できない所謂「ジモ専」であり、たまたま浴場を見つけられたとしても、私のような外来者は指を咥えて外観を眺める他ありませんが、例外的にガイドブックにも載るほど外来者に対してオープンなのが湯の街通り沿いに建つ「仙気の湯」であり、温泉ファンのみならず多くの旅行者によってネット等で紹介されております。従いまして今更私が取り上げるほどでもありませんが、なぜか今まで拙ブログでの掲載歴が無かったので、いつもながら枝葉末節ばかりが膨らんで肝腎要の幹がやせ細っている頼りない文章を以て、この浴場に関して敷衍してみます。
玄関にある券売機で料金を支払い、男女別に分かれた戸口より中に入って、番台のおばあちゃんに入浴券を手渡します。
脱衣室内は銭湯そのものの雰囲気ですが、全体的にこぢんまりしており、週末の混雑時にはちょっと窮屈かもしれません。また室内に設置されている棚には扉が付いていますが、鍵はかけられません。ドライヤーは有料となっており、利用の際は近くの缶にセルフで20円を投入します。
その料金入れの缶が置かれている棚には「おしらせ はりがみ いろいろ」というタイトルが貼られた青いファイルも備え付けられており、表紙をめくってみますと、仙気の湯の源泉および供給状況や、清掃管理状況、温泉分析表、浴場の名前の由来などについて、図や大きな文字を用いて詳細に説明されていました。お湯に自信があるからこそ、湯使いに関して細かいところまで開示できるのでしょうね。
この資料によりますと、「仙気の湯」では混合泉の総合溜から約200メートル引いて7トンの貯湯槽へ一旦ストックし、浴槽へと供給しているとのことで、かつては加温槽や集毛器などを使用していたものの、平成17年にこれらの設備は廃止されており、総合溜や貯湯槽から直接的な供給を受け、そのまま使い捨てているんだそうです。また洗い場のシャワーにも貯湯槽の温泉が用いられているとのこと。浴槽は毎日お湯を抜いて清掃を行い、お湯や浴槽への塩素系薬剤の投入は行っていないんだそうです。こうした情報に対する真摯で誠実な姿勢は、他の温泉地も大いに見習っていただきたいものです。
なお「仙気の湯」という名のお風呂は、新潟県の蓮華温泉、福島県の飯坂温泉、岩手県の夏油温泉、そして山形県肘折温泉など各地の温泉地にあり、場所によっては「疝気」と表記しますが、仙気(疝気)とは尿道炎や膀胱炎、または胆石などシモの局部に発生する激痛の総称でして、古典落語には「疝気の虫」という有名な噺がありますから、落語がお好きな方ならその言葉の意味をご存知かと思います。
タイル貼りの浴室は実用本位で、温泉風情はあまり感じられないかもしれませんが、壁の白と浴槽内の水色、そして浴槽縁の黒御影石という鮮やかなトリコロールが美しく、お湯の清らかさがより際立って見えます。浴槽の手前には洗い場が左右に分かれて配置されており、計4つの水栓(シャワー付混合水栓が3基、スパウトのみの水栓が1基)設置されています。上述のように、カランから吐出されるお湯は温泉です。
浴槽は5~6人サイズで、お湯は無色透明、糸屑にも似た細かな湯の華が湯中を舞っています。槽内で循環などは行われておらず、浴槽に注がれたお湯は、縁の下を潜って洗い場の排水口へデベソにちょこんと突き出ている塩ビ管より排湯されています。
浴槽の左隅に湯口があり、その上に掲示されているように飲泉許可を得ていますので、湯口のお湯を心置きなく飲むことができます。実際に飲泉してみますと、ほぼ無味無臭ですが僅かに芒硝のような感覚が得られました。なお温泉分析表には「微硫黄味・微硫化水素臭」と記載されていましたが、貯湯や配湯されるうちに飛んで消えてしまうのか、殆ど感じられませんでした。浴感としては弱サラスベと引っ掛かりが混在していると表現すれば良いかと思いますが、取り立てて特徴的な浴感は無かったようにも感じました。訪問時はかなり混雑していたので、お湯が若干鈍っていたのかもしれず、もしかしたら「仙気の湯」本来の個性を味わうことができなかったかもしれません。
一応浴場の前には駐車場があるものの、1~2台分しか確保されていないため、混雑時間帯には付近の路肩に駐車する車が増えてしまいます。浴場前に路上駐車されている車の多寡が、中の混雑状況を推し量る目安になるでしょう。とはいえ、混雑しているということは人気を博していると言い換えることもでき、つまりそれほどお湯が良いということでもあります。地元の共同浴場とはいかなる雰囲気かを気軽に体験することができる、外来者にはありがたい外湯ですね。
山田源泉・2号源泉・4号源泉・大下源泉の混合泉
アルカリ性単純 49.7℃ pH8.9 815L/min(混合槽における分析) 溶存物質422.3mg/kg 成分総計422.3mg/kg
Na+:88.5mg(68.77mval%), Ca++:34.1mg(30.37mval%),
Cl-:33.7mg(16.93mval%), HS-:0.33mg, SO4–:197.5mg(73.26mval%), HCO3-:22.6mg(6.69mval%),
H2SiO3:38.5mg,
JR松本駅よりアルピコ交通バスの浅間温泉行で「湯坂」バス停下車、徒歩1~2分
長野県松本市浅間温泉3-4-22 地図
0263-46-5553
浅間温泉観光協会ホームページ
6:30~20:30(受付20:00まで) 第2・4水曜定休
250円
ドライヤー有料(20円)、他備品類なし
私の好み:★★
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