キュタフヤ県 ウルジャス温泉 公衆露天風呂

トルコ


前々回の記事で、源泉が集中しているウルジャス温泉の川沿いを散策していると、下流側の人道橋を渡った川の向こう側で、怪しげな掘っ建て小屋を発見したことに言及しました。怪しいと言っても無論、化け物が現れそうだとか、犯罪の臭いがするとか、そういった類の怪しさではなく、温泉ファンの心をくすぐってくれそうな予感をもたらしてくれるというポジティブな意味であります。ちょっとした期待を抱きながら、橋を渡ってその小屋に近づいてみますと…

 
バラック然としたトタン葺きの小屋は、安普請なのか、はたまた経年劣化なのか、屋根の棟はグニャッとひん曲がっており、屋根自体もすっかりくすんでウネウネと波打っていました。また基礎部分のモルタルも一部が崩れており、小屋全体が川側へ若干傾いでいます。しかも戸板には使われなくなったコンパネや看板を継ぎ接ぎしているような有り様。強風で一気に吹き飛んでしまいそうな見窄らしい茅屋ですが、人の背丈ほどの高さまで格子に目隠しが施されており、また屋根が湯気抜きのような構造をしていますので、これが単なる茅屋には思えません。むしろ、各地で湯めぐりをしてきた私の経験から判断するに、この手の小屋では温泉ファン的な至宝と邂逅できることが多い。
念のため、戸口の横に掲示されている看板の文言をスマホで翻訳してみたところ、「12歳より小さな子供は利用不可」「13時まで男性、13時から24時まで女性」「きれいに維持しましょう」とのことですから、外部者の立入を禁止したり、何らかの料金が必要であるような文言は見られません。まわりを見回しても、特段私を咎めようとする人もいませんでしたから、興味津々、扉を開けてみたところ…


私の勘は見事に的中。ボロ東屋の下には、四角い温泉浴槽が据えられ、四方をスノコが囲み、その周りにベンチが置かれていたのでした。鄙び系を好む温泉ファンには、まさに垂涎の光景であり、この光景を目にした瞬間に一目惚れし、私のハートは鷲掴みにされちゃいました。確認をしておきますが、ここは九州や東北の僻地にある温泉の共同浴場ではなく、トルコ・キュタフヤ県のウルジャス温泉ですよ。サイズ感といい、スノコ敷きといい、草臥れた佇まいといい、この画像を見ただけでしたら、それこそ鹿児島県や大分県、あるいは福島県奥会津や青森県津軽地方に実在していそうな、実に日本の古きスタイルの共同浴場と見紛えてしまいますね。前回記事では、公衆浴場の番台に関して、トルコと日本で共通した佇まいがあると申し上げましたが、番台だけでなくこうしたプリミティブな温泉浴場についても、両国では類似の様式なんですね。温泉という自然の恵みは、遠く離れたアジアの東西両端に、相通じる文化をもたらしているようです。

 
表の看板によれば「13時まで男性、13時から24時まで女性」とのことですから、13時を境にして男湯と女湯を入れ替えているんですね。この小屋に更衣室などはなく、洗い場もなく、ただ四角い簡素な浴槽があるばかり。浴槽は元々タイル貼りだったようですが、底面中央は剥がれて素地がむき出しになっていました。こうしたボロさも、却って良い味です。側面の目隠しは人の背丈程度までに抑えられており、それより上は何もありませんから、実質的には露天風呂みたいなものです。
四方を囲む格子には目隠しのコンパネや樹脂板が貼られていますから、この中に入っちゃえば、少なくとも異性からの視線は遮ることができます。いくら男女で利用時間が区切られているからといって、全裸で入浴するのはご法度。ちゃんと水着に着替えましょう。

 
湯船のお湯は床へオーバーフローし、そのまま川へと流れ落ちています。お湯が流れる床の表面は、温泉成分の付着によって赤茶色に染まり、細かな鱗状の模様(リムストーン)が形成されていました。前々回の記事で紹介したように、ウルジャス温泉には大きな石灰華のドームや石灰棚がありますので、ここのお湯もそれらを生み出したお湯と同じく、石灰や炭酸を多く含んでいるのでしょう。

 
温泉は浴槽の底にあいた二つの穴、そして山側から伸びる配管の計3経路によって供給されています。源泉で湧出したばかりのアツアツなお湯がダイレクトに注がれていますから、私が訪問した時の湯船は、47.6℃という草津(群馬県)や飯坂(福島県)の外湯にも比肩するような熱湯風呂状態でした。幸いにして、この湯小屋には水道が引かれていましたから、44℃くらいまで加水して薄めてから入浴することに。


ふぅぅ~。こりゃ極上だ。余計なものが一切ないお風呂ゆえ、お湯の良さが際立っています。実に素晴らしい。お湯は山吹色を帯びて弱く濁っており、槽内も同色で染まっていますが、透明度は比較的高く、底ははっきりと目視できます。先日拙ブログでは同じキュタフヤ県の秘湯である「ムラトダーウ温泉」を取り上げましたが、このウルジャス温泉のお湯も同系の特徴を有しており、見事な石灰華を生み出すお湯からは金気や土類の味と匂いが感じられるとともに、炭酸の味もほんのり伝わってきました。東北でたとえるならば、遠刈田温泉や肘折温泉に近い感じです(ムラトダーウ温泉よりこのウルジャス温泉の方が、知覚的特徴が若干薄いかも)。湯使いは言わずもがな完全掛け流し。文句なしのクオリティです。ただし、上述のように湯口が3つもあり、底の穴からボコボコと泡を上げながら熱いお湯が絶えず供給されているので、加水を続けていないとすぐに熱くなってしまい、落ち着いて入れないのが玉に瑕。でもそれだけ温泉の供給量が多いわけですから、お湯の鮮度は常に抜群なのであります。たとえ熱いお湯で体が火照っても、実質的な露天風呂ですから、湯小屋を吹き抜ける風に体を当ててクールダウンすれば、再び湯船に浸かることができます。寧ろ湯船に出たり入ったりを繰り返すことこそ爽快なのであります。
私が入ったのは12:30だったので、男女の切り替えまで30分しか残っておらず、その僅かな時間で入浴を切り上げざるを得ませんでしたから、お風呂から出るときは後ろ髪を引かれる思いでしたが、もしもっと早い時間に当地を訪れていたならば、時間の許すかぎり、ずっとこの風呂に浸かっていたいと願いたくなるほど、掛け値なしでブリリアントなお風呂でした。

 
湯小屋のすぐ傍には、シューシューと辺りに音を轟かせながら、白く濃い湯気を上げている源泉小屋があり、湯小屋はここからお湯を引いているものと思われます。

いくらお風呂があるとはいえ、こんな陋屋に地元の方以外は立ち寄らないことでしょう。いままでこのお風呂に入ったことのある外国人は、私以外にいたのだろうか…なんてことを考えつつ、熱いお風呂に肩まで浸かると同時に、ちょっとした自己満足にもひたってしまいました。今回のトルコ湯めぐりでは、非常に印象的で、且つ満足度の高い一浴となりました。

GPS座標:N38.940009, E29.256712,

男性:朝~13時、女性:13時~24時
備品類なし

私の好み:★★★

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