半年前の冬の某日。日帰りで雪の銀山温泉をサクッと軽く巡ってまいりました。
この日はじめに立ち寄ったのは「旅館松本」です。風情あるノスタルジックな旅館建築が多い銀山温泉にあって、こちらのお宿はALC造と思しき目立たぬ佇まいですが、表に「御入浴出来ます」の札が掛かっているのを目にしたので、その文言に期待して入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。
お風呂は玄関から真っすぐ伸びる廊下を進んだ突き当たりにあり、男女別の内湯のみです。茣蓙敷きの脱衣室から浴室の戸を開けると、焦げたようなタマゴ臭がプンと香り、温泉情緒を高揚させてくれました。
室内には雪が反射した白い外光が差し込んでおり、湯面から立ち上る湯気に乱反射して、夢想的な光彩空間が生み出されていました。この光をもたらす雪は窓のすぐ裏手に積もっているのですが、そこには急な斜面が迫っており、時折崖の上から雪がドサっと大きな音を立てて落ちてくるので、その度にビックリして「雪崩てこないものか」と怯えてしまいました。深く切れ込んだ谷の底にいることを実感します。
このお風呂で印象的なのが、総檜造りの浴槽と、その浴槽を中心にして扇を広げるかのように放射状に敷き詰められている桧の床板です。その幾何学的な美しさは、今は亡き青森県「温川山荘」の内湯を思い出させてくれます。洗い場のシャワーは2基で、浴槽はひとつだけという、小規模旅館らしいコンパクトなお風呂なのですが、主役の温泉を引き立てる部分には贅沢な施工が採用されており、入浴のひと時を大切にしようとするお宿の心意気が伝わってくるようです。なお浴槽はおおよそ4人サイズ。見た目の美しさのみならず、実際に入った時の優しく滑らかな肌触りも実に心地よく、小さいながらも品の良さを醸しだしていました。
こちらに引かれているお湯は協組2号・3号・6号源泉のブレンドもの。配管を流れてきたお湯は一旦木の枡に注がれ、舌のように短く突き出た板を伝って、浴槽へ落とされていました。館内表示によれば温度調整のため加水しているとのことでしたが、分析書に記されている温度が63.8℃であるのに対し、湯口から落とされるお湯の温度は61.3℃であり、他の箇所で加水しているような形跡も見られなかったので、訪問日のような冬季はほとんど(あるいは全く)加水されていないのではないかと思われます。もちろん放流式の湯使いであり、縁からは静かにお湯が溢れ出て、放射状の床板の上に滴っていました。
60℃以上もあるアツアツなお湯ですから、湯船もはじめのうちは熱かったのですが、投入量がやや絞られていた上、冬という時節柄もあってか、しっかり掻き混ぜたら43℃まで落ち着いてくれ、加水することなく湯浴みすることができました。この撹拌の際、底に沈殿していたたくさんの湯の華が舞い上がり、備え付けのケロリン桶で湯の華を掬ってみたら、上画像のように簡単にキャッチできちゃいました。お湯を口にしてみますと、薄いながらも明瞭な塩味と焦げたようなタマゴ味が感じられ、上述のような焦げタマゴ臭が鼻孔から抜けてゆきました。何度も肌を擦りたくなるほどのツルスベ浴感が気持ち良く、また温浴効果も強くて、湯上がりはしばらく外套を着たくなくなるほど、力強い温まりが持続しました。
美しい総檜のお風呂で掛け流しの銀山の湯に入れる、いぶし銀のような存在のお宿でした。
協組2号・3号・6号源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.8℃ pH6.6 蒸発残留物2021mg/kg 溶存物質215mg/kg
Na+:581.6mg, Ca++:76.8mg,
Cl-:786.3mg, Br-:2.2mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, SO4–:327.9mg, HCO3-:120.6mg,
H2SiO3:97.7mg, HBO2:100.9mg, CO2:55.6mg, H2S:0.9mg,
加水あり(源泉温度が高いため)、加温循環消毒なし
山形県尾花沢市銀山新畑421 地図
0237-28-2021
ホームページ
日帰り入浴10:00~15:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品帳場預かり、
私の好み:★★+0.5
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