上山温泉 本陣しまづ旅館

山形県

 

2015年秋の某日、上山温泉「本陣しまづ旅館」で一晩お世話になりました。山形新幹線のかみのやま温泉駅から近い十日町エリアの市街地にあり、県道13号線(羽州街道)沿いという便利な立地です。でも通りに面しているのは、こちらの元々の本業である酒屋さんであり、そこから引っ込んでいる宿の玄関は目立ちにくく、ややもすれば気づかずに通り過ぎてしまいそうです。

 
館内には骨董品の数々や丸十の家紋がついた天秤棒などが展示されていました。しまづという名前、そして丸十の家紋からもわかるように、こちらのお宿のオーナーさんは、元をたどれば薩摩の島津につながる家系の方なんだそうです。山形県の島津といえば、上杉氏に従って信濃から越後・会津・米沢などへ移った戦国時代の信濃島津氏が思い浮かびますが、女将さん曰く明治初期に長野県小布施から移ってきたらしいので、上杉に付き従った信濃島津氏とは別の家系なのかもしれませんね。
ちなみに宿の名前に含まれている「本陣」とは、江戸時代、当地が羽州街道の宿場であった頃、ここにあった屋敷が本陣として使われていたことに因むそうです。

●客室・食事
 
酒屋さんを本業としているためか、「初孫」(酒田)や「沖正」(米沢)など山形県の日本酒銘柄が客室の部屋名になっているのが面白いところ。もっとも、私が案内されたのは「春雨」というお部屋でしたが、この「春雨」は日本酒ではなく、市内の「春雨庵」に由来しているのかもしれません。この部屋のレイアウトがまたユニーク。と申しますのも、部屋全体の広さはおよそ10畳ほどなのですが、手前側の4畳は畳敷きでちゃぶ台が備え付けられている一方、残りのスペースはカーペット敷きの洋間になっており、シングルサイズのベッドが2台並んでいるのです。大正か昭和初期を思わせるレトロな和洋折衷空間で、ちょっとしたタイムスリップを味わいつつ、一晩すごさせていただきました。


今回は2食付きでお願いしました。夕食・朝食とも食堂でいただきます。
上画像は夕食。ホタテバター・ドリア・お刺身(マグロ・サーモン)・イカ刺しととろろ芋・ホウレン草(おひたし)・鮎の塩焼き・自家製イカの塩辛・米沢牛のステーキ・ロールキャベツ・鴨鍋・・・家庭的ながらも豪華なラインナップです。どれも美味しいので箸の休まる時はなく、食後は動けなくなるほどお腹がパンパンになっちゃいました。


こちらは朝食。焼き鮭・目玉焼きと焼ベーコン・煮物・すじこ・納豆・・・といった内容。
こんな豪華でボリュームたっぷりな2食が付き、サービス料や税金などを含めて、全部で1万円未満なのですから、そのコストパフォーマンスの良さには恐れ入ります。

●大浴場
館内には大小の浴場がそれぞれ一室ずつあり、いずれも貸切で利用します。まずは玄関ホールの前にある大きなお風呂から入ってみることにしましょう。

 
壁に掲げらてた大きな丸十の家紋を右に見ながら浴室へ入ります。ドアのガラスに記された浴室の名前は「まほろばの湯つぼ」。歴史の縁の深いこの旅館ならではのネーミングですね。この日の宿泊客は私だけでしたが、時間によっては近所にお住いの方が入浴しに来るため、念のため利用中はドアに「貸切中」の札を提げておきました。

 
脱衣室のミラーに書かれた「まほろばの湯舟に洗うわが心」という川柳は、みちのくで湯めぐりを私の心情をそのまま詠っているようで、心にしんみりと響きました。またドアのノブには「まはしてひく」という旧仮名遣いの注意書きもまた良い味を出していました。


浴室はちょっぴりレトロな趣きを漂わせつつも、壁の右側は黒、左側はレンガ色と、コントラストをはっきりさせたシックで落ち着くカラーリングです。室内には湯気とともに石膏臭がふんわりと漂っていました。

 
浴室手前に洗い場があり、真湯が出るカランが3基取り付けられているほか、浴室奥にもシャワーが1基設けられていました。このシャワーは後付けなのかな。

 

浴槽は奥行きが長い五角形で、あまり良くない喩えですがドラキュラの棺みたいな形状をしており、キャパとしては6~7人サイズ。縁には黒い石板が、浴槽内には濃淡の青いタイルが敷き詰められており、その清々しいブルーは無色透明で綺麗に澄み切ったお湯のクリアさを際立たせていました。温泉ファンとして目を奪われるのが、お湯の投入口になっている黒御影石で作られた湯枡。枡の底から噴き上がって内部に貯められたお湯は、ハの字型に切り込まれた切り欠けから溢れ出て浴槽へと注ぎ込んでいるのですが、そのまわりには硫酸塩の真っ白な析出がビッシリ且つコンモリと付着しており、このお湯が只者ではないことをビジュアル的に訴えていました。湯口に付着する白い析出は上山温泉の各浴場で見られる共通した特徴ですが、湯枡が黒いために、その白さが一層強調されていました。

湯使いは加温加水循環消毒が一切無い完全掛け流し。湯面は光を反射して青白い光を放ちつつキラキラと輝いています。お湯の投入量により湯船の温度を調整しているのですが、その塩梅が絶妙であるため、湯口で50℃近い熱さにもかかわらず、湯船では42~3℃という入りやすい湯加減となっていました。共同浴場と違って利用者が少数に限定されているため、お湯は全く汚れておらず、鮮度感が抜群でとっても綺麗です。石膏臭を放つお湯を口に含んでみますと、薄塩味と石膏味、そしてほんのりと芒硝風味が感じられます。いかにも硫酸塩泉らしく入りしなは脛にピリッとくる刺激が伝わり、肩まで浸かるとスルスルスベスベの浴感が得られますが、湯中で腕をさすると肩から指先までの間に1~2回ほどグリップが効き、この手のお湯にありがちな引っかかりもしっかりと確認できました。全身をしっとりと包んでくれるフィーリングは非常に魅惑的で極上そのもの。いつまでも入り続けていたくなり、長湯をして逆上せそうになっても、あまりの気持ち良さに後ろ髪が引かれ、湯船から出られなくなってしまいました。

●小浴室
 
もう一つの浴室は共用洗面台の向かいにありました。引き戸には「女子浴室」というプレートが貼ってありますが、貸切利用ですので男女の区別は特に関係ありません。その引き戸を開けるとすぐに脱衣場らしきスペースが目に入ってきたのですが、その床面積はわずか1畳程度で、小さな棚とカゴがあるばかり。一人で更衣するのが精一杯という狭さです。


脱衣室から想像できるように、浴室もコンパクトな造りで、家庭のお風呂みたいな雰囲気です。室内には浴槽がひとつ、そしてシャワー付きカランがひとつ設けられています。全体的に昔ながらの豆タイルが多用されていますが、後年になって改修されたのか、部分的に石板が用いられていました。

 
お風呂のサイズこそ家庭的なのですが、旅館としての意地なのか、浴槽の形状は民家のお風呂では決して見られない扇型をなしており、大きな浴室と同じく、全面タイル張りの浴槽には綺麗に澄み切ったお湯が張られていました。そして浴槽右側の湯口まわりには雪のように白い析出がびっしりとこびりついていました。こちらも投入量の増減により湯船の温度を調整しているのですが、表面積が小さくて冷めにくいのか、私が入ろうとした時には50℃近い熱さであったため、止むを得ず加水してから入りました。湯船に体を沈めますと、お湯が浴室いっぱいに溢れ出て、思いっきり洪水状態になってしまいましたが、こんな豪快な湯浴みができるのも温泉旅館だからこそ。ピリッとくる鮮度感抜群のお湯に浸かって、上山温泉ならではのフィーリングを存分に堪能させていただきました。

当地が歩んだ歴史を感じつつ、家庭的で美味しいお食事と、フレッシュでクリアな掛け流しのお湯に浸かる…。実に素晴らしい一晩を過ごすことができました。おすすめ。

上山地区1号源泉・2号源泉・3号源泉(貯湯槽)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 64.3℃ pH7.9 蒸発残留物2598mg/kg 成分総計2529mg/kg
Na+:523.1mg, Ca++:329.1mg,
Cl-:809.8mg, Br-:2.2mg, SO4–:755.1mg, HCO3-:21.0mg,  
H2SiO3:58.9mg, HBO2:11.8mg,
(平成22年3月19日)
加水加温循環消毒なし

JR山形新幹線(奥羽本線)・かみのやま温泉駅より徒歩6分(600m)
山形県上山市十日町1-10  地図
023-672-0350

宿泊のみ(日帰り入浴不可)

私の好み:★★★

コメント

  1. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    こんばんわ^^。
    またしても、とても美味しそうな画像に引き寄せられました。
    スゴイ夕食ですね!メインのステーキがあるのに、
    鍋物、焼き魚にドリア、ホタテバターにロールキャベツ!
    例えるなら、ナリタブライアンにマヤノトップガン、
    サクラローレルにグラスワンダーが並んでる様ですね^^b
    これに源泉掛け流しの温泉がセットになっているとは、、、
    間からテイエムオペラオーが突っ込んで来た様な物ですよ!
    何とも素晴らしい、ムラムラさせる記事と画像を拝見しました。
    私が先日行った片瀬白田の大観荘、良い所でしたが
    温泉はまずまず、やはり一人旅だと少々高く付くため、
    ギリギリ何とか等価交換、と言ったところでした^^;

  2. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    こんばんわ^^。
    またしても、とても美味しそうな画像に引き寄せられました。
    スゴイ夕食ですね!メインのステーキがあるのに、
    鍋物、焼き魚にドリア、ホタテバターにロールキャベツ!
    例えるなら、ナリタブライアンにマヤノトップガン、
    サクラローレルにグラスワンダーが並んでる様ですね^^b
    これに源泉掛け流しの温泉がセットになっているとは、、、
    間からテイエムオペラオーが突っ込んで来た様な物ですよ!
    何とも素晴らしい、ムラムラさせる記事と画像を拝見しました。
    私が先日行った片瀬白田の大観荘、良い所でしたが
    温泉はまずまず、やはり一人旅だと少々高く付くため、
    ギリギリ何とか等価交換、と言ったところでした^^;

  3. K-I より:

    Unknown
    ぬる湯マスターさん、こんばんは。
    片瀬白田へのご旅行、お疲れ様でした。

    ご覧のとおり、こちらの食事はボリューム満点で、とっても美味しく、あまりの量に食後は苦しくて動けなくなるほどでした。しかも、お湯も素晴らしく、泊まって良かったと本当に思えた素晴らしいお宿でした。コストパフォーマンスが良い東北の温泉宿に泊まると、相対的に関東周辺の旅館の相場がどうしても高く感じてしまい、それゆえ、悲しい哉なかなか触手が伸びなくなってしまいます。
    この夏は忙しくて出かけられないのですが、峠を越えたら、また湯めぐりに出かけるつもりです。

  4. K-I より:

    Unknown
    ぬる湯マスターさん、こんばんは。
    片瀬白田へのご旅行、お疲れ様でした。

    ご覧のとおり、こちらの食事はボリューム満点で、とっても美味しく、あまりの量に食後は苦しくて動けなくなるほどでした。しかも、お湯も素晴らしく、泊まって良かったと本当に思えた素晴らしいお宿でした。コストパフォーマンスが良い東北の温泉宿に泊まると、相対的に関東周辺の旅館の相場がどうしても高く感じてしまい、それゆえ、悲しい哉なかなか触手が伸びなくなってしまいます。
    この夏は忙しくて出かけられないのですが、峠を越えたら、また湯めぐりに出かけるつもりです。

  5. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    お疲れ様です^^。
    仰る通り、有名観光地の宿は高目な所が多いです。
    そして私の経験上、と言ってもまだまだ未熟ですが、
    高い宿ほど、驚きと感動は余り無いんですよね^^;
    それよりも、安くてボロイ宿に敢えて行って見た時の方が、
    衝撃を受ける事が多いです。千葉県、房総半島でも、
    地味な印象を受ける富浦の民宿に行って見た時は、
    「お~!この値段で伊勢海老来たコレ^^!!」
    と、大喜び。これだから民宿の旅は止められません。
    夏本番、熱いですが体調に気を付けて行きましょう!

  6. ぬる湯マスター より:

    Unknown
    お疲れ様です^^。
    仰る通り、有名観光地の宿は高目な所が多いです。
    そして私の経験上、と言ってもまだまだ未熟ですが、
    高い宿ほど、驚きと感動は余り無いんですよね^^;
    それよりも、安くてボロイ宿に敢えて行って見た時の方が、
    衝撃を受ける事が多いです。千葉県、房総半島でも、
    地味な印象を受ける富浦の民宿に行って見た時は、
    「お~!この値段で伊勢海老来たコレ^^!!」
    と、大喜び。これだから民宿の旅は止められません。
    夏本番、熱いですが体調に気を付けて行きましょう!

  7. K-I より:

    Unknown
    >ぬる湯マスターさん
    お疲れ様です。お暑うございます。
    >高い宿ほど、驚きと感動は余り無い
    たしかにそうですよね。あくまで個人的見解ですが、宿泊予約サイトの口コミをみますと、評価が高い施設は、極端に安いコストパフォーマンスの良い宿か、思いっきり高価格帯の高級宿のどちらかに2分され、1〜2万前後の旅館は評価がいまいち伸びない傾向があるように感じています。
    民宿はいろんな意味で当たりハズレがありますが、アタリのお宿に巡り逢えるととっても嬉しいですよね。嬉しい感覚を超越して「この値段でこんなサービスを受けて良いのだろうか」と思っちゃうほど、ものすごい料理や良心的なサービスを提供してくれるお宿もありますよね。民宿最高!

  8. K-I より:

    Unknown
    >ぬる湯マスターさん
    お疲れ様です。お暑うございます。
    >高い宿ほど、驚きと感動は余り無い
    たしかにそうですよね。あくまで個人的見解ですが、宿泊予約サイトの口コミをみますと、評価が高い施設は、極端に安いコストパフォーマンスの良い宿か、思いっきり高価格帯の高級宿のどちらかに2分され、1〜2万前後の旅館は評価がいまいち伸びない傾向があるように感じています。
    民宿はいろんな意味で当たりハズレがありますが、アタリのお宿に巡り逢えるととっても嬉しいですよね。嬉しい感覚を超越して「この値段でこんなサービスを受けて良いのだろうか」と思っちゃうほど、ものすごい料理や良心的なサービスを提供してくれるお宿もありますよね。民宿最高!

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