初代天皇の神武天皇が誕生したという伝説が残っている宮崎県高原町。私が当地をドライブしていると、霧島連山にかかる雲の隙間から、一筋の陽光が麓の田んぼをめがけて差し込んできました。神話の地だからか、その淡いながらも鋭い光には、どこか神々しいものを感じます。
そんな高原町の田園風景の中に佇む歴史ある鉱泉宿「湯之元温泉」で一泊してまいりました。
左(上)画像は正面玄関。私は宿泊利用ですので、この玄関から館内に入り帳場でチェックイン手続きをしたのですが、立ち寄り入浴や鉱泉の持ち帰りなどでの利用は、正面玄関の右手にある専用の小窓で受付を済ませます。
●客室
客室は本棟のほか、後述する鉱泉汲み場の前に数部屋を擁する離れがあり、今回はその離れの客室へ案内されました。
離れの客室は6畳+3畳という広さの和室で、清掃が行き届いており綺麗で快適。室内にはトイレ・洗面台といった水回りのほか、冷蔵庫・エアコン・テレビなどひと通りの備品も備わっており、快適に過ごすことができました。
●鉱泉汲み場など
温泉とはいうものの、湧出時点では25℃未満ですので、温泉法の規定に従えば温泉ではなく冷鉱泉となりますね。約220年前の天明4年(1784年)、新田開発の中で発見されたと言い伝えられるこの冷鉱泉は、長い歴史を有するだけでなく、炭酸ガスがたっぷり溶け込んだ天然のサイダー。すっごくシュワシュワするのです。私が泊まった離れの小屋前には鉱泉汲み場があり、有料で汲んで持ち帰ることができます。実際にタンクを持ち込んでいるお客さんが結構な数いらっしゃいました。
おたまがいくつもぶら下がっている鉱泉汲み場。コックを開くと天然のサイダーが出てきました。鉱泉汲み場の奥にあるコンクリートの構造物が源泉なのでしょうね。飲むと消化器疾患や痛風・肝臓病・便秘などに効能があるんだとか。
汲み場の前にはかつての「湯之元温泉」を捉えた写真が飾られていました。左(上)画像は昭和21年に撮影された湯治棟の様子。敗戦からまだ1年しか経っていないのに、鉱泉の力で英気が養われるのか、客たちが湯治棟の前で明るく陽気に踊っている光景が残されていたのでした。一方、右(下)画像は「温泉までの唯一の交通手段」というキャプションが付された馬車の写真。昭和初期の撮影とのこと。高原駅から宿までこの馬車に揺られて凸凹道を往来したのでしょう。
昔の写真が掲示されている建物の正面に回ると、庇の下にドアが二つ仲良く並んでいることに気づきました。現在この建物は使えわれていないようですが、この構造から推測するに、かつては浴場だったのかもしれませんね。
●食事
夕食は本棟の1階にある別室でいただきます。
主な献立は、鯉のあらい、焼きえんどう豆、焼きマテ貝、和え物、魚のあんかけ、ホタテの焼き物(グラタン風)、ホッキ貝などの酢の物、そして…
牛肉と野菜の陶板焼き、おそば…
九州ではおなじみの麦味噌汁、当地で湧くシュワシュワの炭酸泉で炊いたご飯、そしてデザートです。この画像ではわかりにくいのですが、湯之元の鉱泉で炊いたこのご飯は、何らの添加物を入れていないにもかかわらず、ほんのりと褐色に色付いており(上に白ゴマが振りかけられていますが…)、もち米じゃないのかと勘違いしちゃうほどモッチモチしているのです。このご飯をおにぎりにするなどして時間が経つと、色が褐色からヨモギ色に変色し、色合いも濃くなってゆきます。ただの鉱泉なのに、どうして着色し、なぜ時間の経過とともに変色してゆくのか、実に不思議ですね。
今回は追加でお宿名物の「炭酸泉カルピス」を注文しました。その名の通り、自前の炭酸泉で割ったカルピスであり、早い話がカルピスソーダなのですが、市販のカルピスソーダとは全然違う。もちろんシュワシュワするのは同じなのですが、金気を含む炭酸泉ですから、わずかに金気があり、そしてちょっとした甘酸っぱさも含まれ、独特の美味しさが口の中に広がりました。これは一飲の価値あり。
朝食は前夜に夕食を摂った個室前のホールでいただきました。
焼き鮭、サラダ、小鉢、レンコンとひじきのきんぴら、温泉卵、納豆などといったバランスの良いラインナップを、女将さんとお喋りしながらいただいているうちに、全部平らげてしまいました。
さて、肝心のお風呂に関しては次回記事で取り上げます。
次回(後編)につづく
コメント
湯之元温泉に泊まってる!
逍遥さんへ
ご無沙汰してます。
お蔭さまで、自分の書いた温泉記事が整理できるようになり、嬉しい年末です。
お忙しい時にご教授ありがとうございました。
さて、湯之元温泉に泊まられたのですね・・
私はここの湯には入りましたが、泊まってません。
泊まると炭酸泉で炊いたご飯や炭酸カルピスなども体に直に取り込み?内外からここの炭酸泉を満喫できるのですね。懐かしく、また新鮮にこの記事を読ませていただきました。
逍遥さんは、いつも深~いですね・・・・
Unknown
hitareriさん、こんばんは。
海外では温泉や鉱泉を飲むことによって効能を期待する利用法がよくみられるのですが、こちらの宿に泊まるこによりで、図らずもそのような利用方法を国内で体験することができました。炭酸泉で炊いたモチモチのお米や、ちょっと酸味のある炭酸泉カルピスは、他では味わえない当地ならではの味覚でした。