(2023年10月訪問)
火山はおろか地熱資源にも縁遠い都道府県のひとつに千葉県が挙げられるでしょう。県内にはこれといった有名温泉地がないため、温泉ファンからはあまり見向きされないエリアですが、実は個性的な鉱泉の宝庫であり、一度その魅力にはまると抜け出せなくなります。私はそんな好事家の一人。この日は電車とバスを乗り継いで、上画像のポイントへ向かいました。ご覧の通り、橋の上から小さな川を写しています。一見すると何の変哲もない田舎の風景に過ぎませんが、この画像右側の土手っ縁には・・・
(画像の一部を加工しています)
堅牢な塀に囲われたこのような設備があり、固く閉ざされた門扉には「立入禁止」「火気厳禁」の看板が掲出されています。
別アングルからこの施設を撮影してみました。
言わずもがな日本は地下資源に乏しく、その多くを輸入に頼っていますが、一部は自給率100%のものがあり、その代表例は石灰石とヨウ素です。特にヨウ素はチリに次いで世界第2位の生産量を誇り、国内生産で完全自給できるどころか世界各国へ輸出しているほどで、日本は世界屈指のヨウ素生産大国なのです。そして、そのヨウ素を多く生産しているのが千葉県です。
千葉県域の地中には南関東ガス田と呼ばれる水溶性天然ガスが溶け込んだ化石海水由来の鹹水が広範囲に存在しており、この鹹水にはヨウ素が大量に含まれています。千葉県の一部地域では、この鹹水を汲み上げることで採取したメタンガスを、都市ガスとして県内市町村へ供給していますが(大多喜ガスが有名)、この副産物としてヨウ素が生産されています。さらに鹹水を温泉として入浴施設に供給しているところもあります。
話を戻しますと上画像の施設は、地下にストックされた鹹水を汲み上げて天然ガスやヨウ素を生産している工場のひとつです。それゆえ立ち入りを厳しく制限し、火気も厳禁となっているわけです。
千葉県ではこのような工場が、茂原、成田、九十九里沿岸、大多喜方面に点在しています。
一旦橋の上からの画像に戻ります。
地下の鹹水を汲み上げて天然ガスやヨウ素を分離抽出した後、その鹹水はどうなっているのかと言えば、目の前の川へどんどん捨てられています。画像に写る土手を見ますと、工場から川へ向かって溝のようなものが1本見えますね。
土手へ下りてその溝まで来てみました。工場で排出された鹹水はこの排水溝を流れて川へ捨てられています。
排水量はかなり多く、川との合流地点では泡立っていました。また化石海水として有機物を多く含んでいるため、排水は薄いコーヒー色を帯びつつ微濁しています。これが温泉だったら、いわゆる黒湯と呼ばれるタイプなのですが・・・
あたりにはヨードの匂いがはっきりと漂っています。
持参した温度計でこの排水を計測すると27.4℃でした。汲み上げられた時点ではもっと高い温度だったかと推測されますが、日本の温泉法では25℃以上で温泉と認められるため、この排水は汲み上げられた段階で既にれっきとした温泉であると言えるでしょう。手にかかった飛沫を舐めてみると非常に塩辛く、苦さも感じられます。泉質としては「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉」でしょうか。
さすがにこのお湯に入るような行為はしていませんが、マニアとしては入浴してみたいのが正直な気持ち。この工場で汲み上げられた鹹水(温泉)は浴用に提供されることなく川へ廃棄されてしまうようですが、同じ業者が稼働させている近所の別工場では、温泉を付近の入浴施設「龍泉の湯」へ供給しており、「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉」のお湯に入ることができます。
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