東郷温泉 寿湯

鳥取県

秘湯というものは必ずしも山奥に潜んでいるものではなく、市街地の路地裏に隠れるようにひっそりと佇む地元の人しかわからないような温泉浴場も、十分秘湯の条件を兼ね備えていると思います。某県の乳頭温泉郷なんて名ばかりの秘湯で、常に混雑していて興醒めですが、山奥へ行かなくったって街中で人知れず湧いているお湯も沢山あるのです。鳥取県の東郷温泉・寿湯もそんな浴場のひとつで、その存在を知った時から絶対に行ってやると心に決め、遂に先日訪問が叶いました。

 
JR松崎駅の正面から伸びる道には「歓迎 東郷温泉」のアーチが架かっていますが、これを潜らず、手前の道を線路に沿って右へ。

 
Aコープの近くに「理容シミズ」があり、その手前をよく見ると「寿湯→入口」と書かれた看板が掲げられています。矢印が指す方向には、人一人がやっと通れる狭隘な通路が奥へ伸びているので、そこを入っていきます。この通路を歩くときは、まるで探検している気分でした。


通路を抜けて視界が開けると、突然お目当ての寿湯がそこに建っていました。どうですか、この佇まい。熊本県人吉の温泉銭湯にも負けず劣らずの、昭和2~30年代から時が止まったかのような、トタン葺きの古く鄙びた風情が、完全にプリザーブされていました。


基本的に無人なのですが、利用する際は玄関の呼び鈴(ブザー)を鳴らして、表の理容店の清水さん(寿湯の管理人)を呼び出し、直接料金を支払います。私の訪問時には呼び出してから30秒で来てくださいました。

 
入口脇には常連さんのお風呂グッズがずらりと並んでいます。脱衣所はいかにも昭和の銭湯らしい造りです。


脱衣所内に掲示されている、明日は休業か否かを知らせるボードです。電車の行き先方向幕みたいに、くるくる巻いて表示を変える仕組みになっていました。ユニークですね。



(↑画像クリックで拡大)
右は昭和4年に出された鉱泉の使用許可書、左は昭和9年の温泉ポンプアップ許可書、その間に小さな湯屋営業許可証(年代不明・ここに書かれている日付は申請者の生年月日)です。額縁に入れられて脱衣所内に掲示されていました。そんな昔からこの湯屋は営業しているんですね。そして昔から代々清水さんが運営なさっているようです。


これが浴室の様子です。小さなタイル貼りの浴槽は2人も入ればいっぱいになってしまうほどのミニサイズ。昔から細かい修繕を繰り返しながら使い続けているのでしょう、水色のタイルの上から水色のペンキをベッタリ塗って補修されていました。浴室の窓枠も青いペンキがベットリ塗られており、その塗り具合を見ると、浴槽や窓枠からペンキの匂いがいまにも漂ってきそうな感じです。
洗い場のタイルも、浴槽から近い方からまるで年輪のような模様を描いて異なったタイルが貼られており、順々にタイルを替えて修繕していることがわかります(壁際のタイルは相当昔に流行った地味な石のタイルでした)。


カランは水の蛇口が1ヶ所のみなので、掛け湯する際には湯船から直接桶でお湯を汲んで使います。
これとは別に湯船用の蛇口もあり、源泉が出てくる蛇口は成分が析出して白い塊が付着していました。入浴客の好みで加水されますが、その他、加温・循環・消毒などはなされていません。湯口の栓は常時開かれているので、いつでも新鮮なお湯が楽しめます。お湯は人が入っていないときはオーバーフローしないので、おそらく底部側面に開けられた穴から排水されているのでしょうが、人が入ればザバーっと気持ちよく溢れ出します。

お湯は無色澄明で浮遊物や沈殿物は一切無し、綺麗に澄み切っています。殆ど無臭で、微かに芒硝っぽいミネラル的な味が感じられました(食塩泉ですが塩気は感じられませんでした)。やや熱めの温度で、肌触りが滑らかでサラサラスベスベした浴感の中に弱い引っかかりが混在しています。

見た目は無色透明で味や匂いも非常に薄いので特徴の無いお湯なのかと思いきや、湯上りの温まりがとっても強く、なかなか湯冷めしません。日が暮れて肌寒くなっても、半袖じゃないと汗が引かないほどでした。食塩泉であることと共に、放射能泉であることが体の心から強い温まり効果を生み出しているのでしょう。

単なる古くて小さな銭湯ですから、景色も楽しめなければ、お湯も透明でつまらないかもしれません。しかし、昔ながらの湯屋でタイムスリップしながら、新鮮で清らかなお湯に浸かる幸せもまたなかなか得られるものではありません。本当に至福のひとときでした。

2号・3号・4号混合泉
含弱放射能-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 70.5℃ pH不明 成分総計1.491g/kg

JR山陰本線・松崎駅より徒歩2分
鳥取県東伯郡湯梨浜町大字旭  地図
(電話連絡先はおそらく理容シミズさんになるかと思いますが、ここでは番号の掲載を控えさせていただきます)

8:00~20:00 第1・3月曜定休
200円
備品類無し

私の好み:★★★

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