穏やかな青空を映して紺碧の水を湛える静謐の鰻池。約5500年前の爆発した火山口に水が溜まったまん丸の湖の周囲では、いまだに地熱活動が盛んに行われています。
畔の集落ではあちこちから大地の息吹が白い蒸気となって天へと昇っていました。
この集落の家屋は艶を失って蒼然としている瓦を載せていることからもわかるように、まるでここだけ時間が止まっているかのような古い家ばかりが湖畔の緩い傾斜地に沿って甍を並べており、それでいて周囲には南国らしい棕櫚がたくさん自生しているため、古い日本家屋と棕櫚という組み合わせは、あずまえびすの私にとっては同じ国内とは思えないあたかも異国情緒のような情緒すらおぼえてしまうのですが、更にそんな景色の中に噴気の白い湯気があちこちで立ち上っているのですから、もうほとんど創作の世界ではないかと勘違いしたくなる程、その不思議で独特な光景にはすっかり魅了されてしまいました。この集落をぐるっと散歩するだけでも、地熱ファンの私はアドレナリンが分泌しっぱなしです。
当地では地表に現れる噴気を熱エネルギーを炊事の蒸し器として活用しており、これを「スメ」と呼んでいるんだそうです。別府の鉄輪で言うところの「地獄蒸し」ってやつと同じですね。我がメイングラウンドたる関東や東北にだって地熱活動が盛んな地域はたくさんありますが、このスメのような地熱活用方法は熊本県のわいた温泉郷や大分県の別府温泉など九州に目立って存在しているように思われ、地熱と生活文化が密接に結びついている九州という土地を心の底から羨望せずにはいられません。
撮影し忘れちゃいましたが、この地域では地熱発電所の建設が計画されているらしく、地熱発電により集落の噴気に影響が及ぶのではないかと危惧する地元では「スメの文化が奪われる」として反対運動が行われており、集落内にはその旨を訴える看板が散見されました。
さて、そんなモクモクとした湯気に覆われた集落の真ん中に位置する公衆浴場「区営鰻温泉」でひとっ風呂浴びてきました。外壁に大きく「西郷どん ゆかりの湯」と書かれているのが印象的。通りに面した小窓(番台)のおばちゃんに直接料金を支払います。
当地では薩摩人が敬愛してやまない南洲翁が1か月ほど滞在したことがあるんだそうでして、そんな歴史を誇るかのように、脱衣室には西郷どんのポートレートが堂々と掲げられていました(余談ですが、西郷隆盛の肖像画はイタリア人のお雇い外国人画家キヨッソーネが本人を見ずに描いたため、本人と全く違う顔立ちになってしまったそうですね)。
肝心の浴室に関してですが、朝9:30頃に訪問したにもかかわらず、先客2人、そして後客4人と、まったく客足が途切れることが無かったため、お寛ぎ中のお客さんに配慮して撮影しておりません。拙い文章によるレポートだけで勘弁してください。
ベージュ系のタイルが貼られた浴室内には、4~5人サイズの小判型の浴槽が一つ。バルブ付きの太いパイプから源泉が注がれており、浴槽の縁からしずしずとオーバーフローしています。洗い場には水栓が3つあり、その上には、水道が地熱で熱くなっている場合があるのでしばらく流してから使ってほしいという旨の、いかにも地熱豊かな当地らしい注意書きが掲示されていました。
お湯は無色透明ながら薄い褐色の小さな湯の華が無数浮遊していました。浴室内には鼻孔を刺激する硫化水素臭が充満しており、お湯を口に含むと砂消しゴムのような風味とタマゴ味が一緒に混ざって感じられましたが、味覚面はかなり弱めです。源泉がほとんど沸騰温度に近いので入浴に適するべく相当加水されているわけですが、加水しているから知覚面が弱いというより、造成泉をつくるときみたいに天然水が地熱で瞬時に熱せられてしまうために、成分がお湯にじっくり溶けこむ余裕のないまま湧出してしまい、結果として硫化水素臭ばかりが強調される薄い温泉になってしまうのでしょうね。地熱活動が活発な場所ならではの面白い特徴だと思います(あくまで私見ですので、間違っていたらごめんなさい)。
鰻1号・2号
単純硫黄温泉(硫化水素型) 97.1℃ pH6.8
Na+:9.9mg(33.29mval%), Mg++:3.2mg(20.36mval%), Ca++:9.6mg(37.04mval%),
Cl-:11.0mg(22.46mval%), SO4–:26.8mg(40.51mval%), S2O3–:3.3mg(4.31mval%), HCO3-:27.5mg(32.72mval%),
H2SiO3:34.9mg, 遊離H2S:1.5mg,
鹿児島県指宿市山川成川6517
0993-35-0814
6:30~20:00(受付19:30まで)
200円
ロッカーあり、ドライヤー貸出、
私の好み:★★
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