湯ノ口温泉 前編 湯元山荘湯ノ口温泉

三重県

約700年前の南北朝時代に、南朝方(吉野)の後醍醐天皇が金山開発を指示した際に発見されたとされるのが、三重県熊野市の湯ノ口温泉であります。昭和初期に銅採掘のため紀州鉱山が操業されると、その影響を受けて温泉が止まってしまったのですが、鉱山が閉山した翌年(昭和54年)に金属鉱業事業団が調査のためボーリングしてみたら、長年の眠りから目を覚まして温泉が再び湧出したため、これを地元住民に供用して温泉地として復活し、平成20年には新たに源泉が掘られて現在に至っています。

この湯ノ口温泉へアクセスするには、現地まで車で向かうのが一般的ですが、当地には紀州鉱山時代のトロッコ列車が残っており、それに乗って温泉まで行くことができるので、鉄ちゃんの血が流れる私としては、このトロッコを体験してみることにしました。

 
まずは入鹿温泉「瀞流荘」の奥にある瀞流荘駅へと向かいます。かつてここは小口谷と呼ばれていたそうでして、鉱山事業地の跡を活用しているのか、山間なのに広大な駐車場を有しており、その只中でポツンと小さな木造の駅舎が佇んでいます。
なおトロッコで湯ノ口温泉へ行くなら、両方の料金が一緒になって割り引かれている「温泉・トロッコ電車セット券」(上画像)がおすすめ。瀞流荘駅で販売しています。


トロッコ列車にはちゃんとダイヤがあり、決して本数は多くないので、事前に公式サイトで時刻を確認しておきましょう。この時に乗った11:15発の乗客は、悲しいかな私一人だけ。駅を出発するとすぐにトンネルに入ります。ノンビリ走っているくせに、振動と轟音だけは一丁前。

 
中間の一部を除いて殆どがトンネルという、地下鉄のような約10分間の走行を経て、湯ノ口温泉駅に到着です。

※このトロッコについては次回記事(後編)で細かく取り上げます。


川沿いには炭住のようなバンガローが立ち並んでおり、それらを横目にしながら川岸の歩道を進んでゆくと…

 
さほど歩かず湯ノ口温泉に到着しました。上述のように、わざわざトロッコに乗らなくても、車でダイレクトに行くことも可能です。渋い木造の建物からは、湯治場のような風情が漂っており、いかにも仙境の秘湯といった佇まいです。入口脇の「源泉かけ流し温泉」という文字が誇らしげですね。

 
受付の券売機で料金を支払い、窓口に券を差し出して浴室へと向かいます。


脱衣室には籠が並べられた棚の他、コインロッカー(100円リターン式)やドライヤーも備わっており、スペースもしっかり確保されていますので、使い勝手に問題ありません。この脱衣室からは3つのお風呂に行くことができますので、それぞれ1つずつ見て行きましょう。

●湯治浴場

脱衣室には内湯へ出るドアの他、「湯治浴場」と記された目立たぬ小さな扉を発見。否が応にも私の好奇心がそそられますので、まずはこちらから入ってみることに。


扉を開けると、その先には「湯治浴場」専用と思しき小さな脱衣室が、うなぎの寝床のように細長く続いていました。どうしてわざわざ脱衣室を重複させているんだろう…。

 

浴室は殆ど一般家庭のお風呂と同じようなサイズおよび造りでして、側壁の石板が辛うじて温泉っぽい姿を取り繕っているような感じです。明らかに家庭用の一人用ポリバスには、蛇口から源泉がジャージャーと音を立てて注がれており、湯船に浸かるとお湯が一気に溢れ出し、浴室内が洪水状態になってしまいました。

湯船のお湯は後述する内湯や露天と同じものですが、当然というべきか、小さな浴槽にドバドバとお湯が大量投入されているので、3つのお風呂の中でもこの「湯治浴場」のお湯は、浸かった時に肌に伝わる鮮度感が図抜けて良好でした。川沿いのバンガローに宿泊しながら、温泉風情が微塵もないこの小さなお風呂にじっくり何度も浸ることによって、湯治効果を期待するのでしょう。

●内湯

さて続いてはメインの内湯浴室です。床にも壁にも石板が貼られている室内には、L字型にシャワーが9基並んでおり、中央に長方形の浴槽が一つ据えられています。浴槽は大体6~7人サイズといったところで、石によって縁取りされており、槽内はタイル貼りです。

 
湯口からは勢い良く弧を描いて源泉が注がれており、その音が浴室内に木霊しています。湯加減は42℃ほど。湯船のお湯は石の縁から洗い場へ向かって惜しげも無くザブザブと溢れ出ており、浴槽内やオーバーフローの流路はうっすらと赤く染まっています。

●露天風呂
 
 
内湯から屋外に出ると川に面した露天風呂です。ゴツゴツとした岩が屹立している岩風呂でして、頭上には屋根がかかっているため、若干の閉塞感は免れませんが、川から吹く風が実に心地よく、また川越しに眺められる自然美も絵になっています。

 
パイプに接続されている竹筒より滝のように源泉がドバドバ落とされており、その反対側(出入口側)の湯尻からふんだんに溢れ出て、どんどん捨てられています。あたかも露天の湯船がひとつの川のような流れが生まれており、いかにこの温泉が湯量豊富であるか一目瞭然です。訪問時は41℃という長湯仕様の温度でしたので、景色を眺めながら新鮮なお湯をじっくり堪能させてもらいました。

お湯は若干ウグイス色を帯びた貝汁濁りで、薄塩味と少々のえぐみ、石灰味(硬水のような重い味)、金気の味と匂い、そして僅かなタマゴ味が感じられました(タマゴ臭は確認できず)。お湯に浸かると、キシキシとツルスベが肌の上で拮抗するのですが、私の実感ではキシキシ浴感の方が優勢でした。なお館内に貼られたポスターによれば、この温泉はメタケイ酸を多く含むから美肌効果が抜群であると紹介されているのですが、分析表によれば42.0mgしかありませんから、全国の温泉と較べても少ないほうかと思われます。

どの浴槽でも豊富な湧出量を活かしてふんだんに源泉が投入されており、鮮度感は否の付けようがありません。とりわけ「湯治浴場」の小さなポリバスはそのフレッシュさが際立っていました。当然ながら全て放流式の湯使いです。館内表示によれば塩素系薬剤を使用しているとのことですが、特に気になりませんでした。


湯上がりは体の芯までしっかり温まり、ポカポカが持続します。素晴らしいお湯です。長湯で火照った体を冷ますべく、受付前の冷蔵庫に入っていた瓶の「毎日牛乳」を一気飲みしちゃいました。「毎日牛乳」は関西エリアではおなじみですが、私が生活する関東では決してお目にかかれませんから、見かけると必ず飲むようにしています。風呂あがりの牛乳は美味いですね。

新湯ノ口温泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 45.7℃ pH8.0 1200L/min(うち供給量320L/min)(動力揚湯・1405m)溶存物質1.39g/kg 成分総計1.39g/kg 
Na+:316.7mg(58.39mval%), Ca++:181.2mg(38.30mval%), Fe++:1.1mg,
Cl-:772.4mg(95.28mval%), Br-:3.5mg, HCO3-:36.6mg,
H2SiO3:42.0mg,
加水加温濾過なし
塩素系薬剤使用(衛生管理のため)・スケール付着防止用薬剤使用

JR紀勢本線・熊野市駅より熊野市・御浜町広域バス(南紀広域バス)の熊野古道瀞流荘線・瀞流荘行で終点下車、トロッコに乗り換え。
三重県熊野市紀和町湯ノ口10  地図
0597-97-1126(熊野市ふるさと振興公社)
ホームページ

9:00~21:00
400円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

コメント

  1. Takema より:

    やっぱり最初は
    湯治浴場へと足が向いてしまいますよね(笑)。あのドバドバ感はたまらなかった記憶があります。

  2. Takema より:

    やっぱり最初は
    湯治浴場へと足が向いてしまいますよね(笑)。あのドバドバ感はたまらなかった記憶があります。

  3. K-I より:

    Unknown
    Takemaさん、こんばんは。
    ここの湯治浴場は凄いですね。お風呂の造りは狭いし風情も無いので、温泉にあまり関心の無い一般の方でしたら見向きもしないのでしょうけど、マニア的には間違いなく湯治浴場を好みますよね。

  4. K-I より:

    Unknown
    Takemaさん、こんばんは。
    ここの湯治浴場は凄いですね。お風呂の造りは狭いし風情も無いので、温泉にあまり関心の無い一般の方でしたら見向きもしないのでしょうけど、マニア的には間違いなく湯治浴場を好みますよね。

  5. 国民温泉 より:

    Unknown
    サイハテ、尼で買いましたよ〜*\(^o^)/*
    トロッコ列車とポリバス最高ですね!今年中に体験したいと強く心惹かれました。
    記事の面白さの賜物かな(^O^)
    酷道425全走破試みた場合、丁度真ん中あたりに位置するようなので、是非お宿に泊まりで行きたいですね!

  6. 国民温泉 より:

    Unknown
    サイハテ、尼で買いましたよ〜*\(^o^)/*
    トロッコ列車とポリバス最高ですね!今年中に体験したいと強く心惹かれました。
    記事の面白さの賜物かな(^O^)
    酷道425全走破試みた場合、丁度真ん中あたりに位置するようなので、是非お宿に泊まりで行きたいですね!

  7. K-I より:

    Unknown
    国民温泉さん、こんにちは。
    お買い上げ有難うございます。温泉は完全リニューアルしたので、おそらくポリバスは無くなってしまったのかと思いますが(現状を確認していないので、正しいことはわかりません)、トロッコは現役ですから、是道でマゾヒスティックな快楽を味わった後の心身の疲れを、是非このお湯で癒してください。

  8. K-I より:

    Unknown
    国民温泉さん、こんにちは。
    お買い上げ有難うございます。温泉は完全リニューアルしたので、おそらくポリバスは無くなってしまったのかと思いますが(現状を確認していないので、正しいことはわかりません)、トロッコは現役ですから、是道でマゾヒスティックな快楽を味わった後の心身の疲れを、是非このお湯で癒してください。

  9. さらら より:

    12月31日に行ってきました
    自分もトロッコ列車に乗ってみました。
    流石に皆休みなのか、始発にも関わらず15人位乗っていて大忙しだったと思います。
    揺れが凄かったのですが楽しめました。
    お店も6-7年前にリニューアルオープンしたとかでWi-Fi使用可能になっていたり
    お風呂の内約が変わっていたりと良くなっていたと思います。
    お客さんが多くて人気店と云うのを感じました。
    行けて良かったです。
    次は何処に行こうかな。

  10. さらら より:

    12月31日に行ってきました
    自分もトロッコ列車に乗ってみました。
    流石に皆休みなのか、始発にも関わらず15人位乗っていて大忙しだったと思います。
    揺れが凄かったのですが楽しめました。
    お店も6-7年前にリニューアルオープンしたとかでWi-Fi使用可能になっていたり
    お風呂の内約が変わっていたりと良くなっていたと思います。
    お客さんが多くて人気店と云うのを感じました。
    行けて良かったです。
    次は何処に行こうかな。

  11. K-I より:

    Unknown
    さららさん、こんにちは。
    あのトロッコの揺れや音の響きが面白く、私は往時の鉱夫の気持ちを想像しながら乗車しました。
    お風呂は完全に変わってしまい、当時と比べて快適になったようですね。環境もお湯も良いので人気が出るのも頷けます。コメントありがとうございます。

  12. K-I より:

    Unknown
    さららさん、こんにちは。
    あのトロッコの揺れや音の響きが面白く、私は往時の鉱夫の気持ちを想像しながら乗車しました。
    お風呂は完全に変わってしまい、当時と比べて快適になったようですね。環境もお湯も良いので人気が出るのも頷けます。コメントありがとうございます。

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